特集 2018年3月6日
 

ヤドカリが背負ってる貝についてるイソギンチャクがおいしい

煮汁は紫色だけど!美味いんです。
煮汁は紫色だけど!美味いんです。
イソギンチャクの研究をしている友人と有明海のイソギンチャク食文化について話していた時のことだった。沖縄の慶良間諸島にもイソギンチャクを食べる習慣があるというのだ。

しかも、よりにもよってヤドカリが背負っている貝殻にくっついているタイプのイソギンチャクを好んで食べるという。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

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夜の海で捕まえよう

興味をそそられたのでいろいろと資料を見せてもらったところ、たしかに阿嘉島などでヤドカリ(サメハダヤドカリやソメンヤドカリなど)およびそれらと共生するタイプのイソギンチャク(主にベニヒモイソギンチャク)を食用とする習慣が実在しているという。

実際に阿嘉島へ渡って聴き込み取材を行いたいところだったが、どうしても時間が足りない。そのため不本意ながら聴き込みも採集も調理も沖縄本島で済ませる運びとなった。
目的のイソギンチャクというかヤドカリは沖縄のイノー(遠浅の礁地)であればだいたいどこでも見つかる。
目的のイソギンチャクというかヤドカリは沖縄のイノー(遠浅の礁地)であればだいたいどこでも見つかる。
まず魚市場に出向き、沖縄の魚介食文化に詳しい鮮魚店主にダメ元で話を聞く。

「阿嘉島でイソギンチャク食べてるなんて話、知らないですよねえ?」
「知ってるよ!アンダマンだろ?」

え、なに? アンダマン? ベンガル湾の?
『アンダマン』を採るべく潮の引いたタイミングで夜の海にくり出す。本来ならばこんな感じで海底の様子がはっきり見て取れるのだが…。
『アンダマン』を採るべく潮の引いたタイミングで夜の海にくり出す。本来ならばこんな感じで海底の様子がはっきり見て取れるのだが…。
「あのイソギンチャクとそれをくっつけてるヤドカリをアンダマンっていうわけよー。アンダマンのアンダってのはうちなーぐちで油って意味。アンダンスー(油みそ)とかアンダギー(天ぷら)とか油使ってる食べ物には“アンダ”ってつくさ。

アンダマンはイソギンチャク部分の食感がトロッとしてるのがラフテー(豚の角煮)とかの脂身みたいだからそういう名前になったんだろうね。でもホントに油が乗ってるわけじゃないよ。あくまで食感が油っぽいってだけで」

うおー、ホントだった!疑ってたわけではないけど!
この日は風が強くて水面が大荒れ! 全然水中が見えない! アンダマンごときに苦戦するとは!
この日は風が強くて水面が大荒れ! 全然水中が見えない! アンダマンごときに苦戦するとは!
「慶良間まで行かなくてもそのへんのイノーにもゴロゴロしてるさーね。採ってためしてみればいいよ。味噌汁か煮つけがいいはずよ」

たしかに、ベニヒモイソギンチャクを背負ったヤドカリなら沖縄の海では珍しくもない。よし、ヤドカリが活発になる夜を待って捕まえに行こう。
沖縄ではシガヤーと呼ばれるウデナガカクレダコ。これもおいしいが、今回の狙いはあくまでアンダマンなのでパス。
沖縄ではシガヤーと呼ばれるウデナガカクレダコ。これもおいしいが、今回の狙いはあくまでアンダマンなのでパス。
コモンヤドカリという大型のヤドカリ。こいつもたまにイソギンチャクを背負っているのだが残念ながら今夜はソロ。こいつだけ食べてもおいしいのだが、特別に見逃してやる。
コモンヤドカリという大型のヤドカリ。こいつもたまにイソギンチャクを背負っているのだが残念ながら今夜はソロ。こいつだけ食べてもおいしいのだが、特別に見逃してやる。
いつもなら浅瀬を10分も歩けば探すまでもなく見つかるのだが、今夜は風の影響で水面がさざなみだって探しづらい。

悪戦苦闘しつつ捜索すること30分あまり。ようやく二匹? 二個? 二塊? のアンダマンをゲット。味見をするには十分だ。
いたーっ!アンダマン!!しかもこいつはイソギンチャクを五つも背負ってる!普通は2〜3個程度なので大当たりと言っていいだろう。
いたーっ!アンダマン!!しかもこいつはイソギンチャクを五つも背負ってる!普通は2〜3個程度なので大当たりと言っていいだろう。
イソギンチャクは触手に毒を持っていて、それでエサの魚を捕まえたり外敵を追い払ったりする。他の生物からすれば非常に危険で厄介な存在なのだ。ヤドカリは彼らを背負うことで身を守り、イソギンチャクは単独時よりも素早く広範囲な移動が可能になるというメリットを得る。『共生』というやつだ。
イソギンチャクは触手に毒を持っていて、それでエサの魚を捕まえたり外敵を追い払ったりする。他の生物からすれば非常に危険で厄介な存在なのだ。ヤドカリは彼らを背負うことで身を守り、イソギンチャクは単独時よりも素早く広範囲な移動が可能になるというメリットを得る。『共生』というやつだ。
ベニヒモイソギンチャクはその名の通り、刺激すると体内からピンク色の糸を伸ばす。これは槍糸といって外敵を撃退するための器官。だが人間には対しては無意味なのだ。残念だったな。
ベニヒモイソギンチャクはその名の通り、刺激すると体内からピンク色の糸を伸ばす。これは槍糸といって外敵を撃退するための器官。だが人間には対しては無意味なのだ。残念だったな。

煮汁が紫に…!?

メニューはシンプルに味噌汁にしよう。おそらくそれが一番ヤドカリとイソギンチャク両方の味を楽しめる調理法だろう。
真水を沸かし、アンダマンを投入。いいダシが出ますように。
真水を沸かし、アンダマンを投入。いいダシが出ますように。
ん!? なんかだんだん…色が…。
ん!? なんかだんだん…色が…。
すさまじいことになってきた
すさまじいことになってきた
…煮汁が鮮やかな紫色になってしまったんですが。ヤドカリ単体を煮込んだところでこの色は出ないので、これは間違いなくイソギンチャク由来のセクシャルバイオレットNo.1だということになる。いま溶け出して夢の世界へ…。
…煮汁が鮮やかな紫色になってしまったんですが。ヤドカリ単体を煮込んだところでこの色は出ないので、これは間違いなくイソギンチャク由来のセクシャルバイオレットNo.1だということになる。いま溶け出して夢の世界へ…。
でも味噌を溶かせばすべて上書きされるのさ。味噌は強し。
でも味噌を溶かせばすべて上書きされるのさ。味噌は強し。

トロトロでうまい!

途中、煮汁がアメリカのお菓子(ぶどう味)みたいな色に染まるなど作り手を飽きさせないニクい演出を経て完成したアンダマンの味噌汁。ふんわりと周囲に磯の香りが立ち込め、食欲をそそる。
完成、『アンダマンの味噌汁』!
完成、『アンダマンの味噌汁』!
まず汁をすする。カニ汁とも貝汁ともつかない風味に、独特のほろ苦さ。磯料理が好きな方ならきっとお気に召すであろう乙な味である。

風味の複雑さは単にヤドカリとイソギンチャクのダシが混ざり合っていることに起因するのだろう。苦味はイソギンチャク由来のものなので、得意でない方は下茹でしてからヤドカリと分けて調理するなどの工夫を施せばより食べやすくなる。

さて、ではいよいよイソギンチャク本体を食べてみようではないか。
煮込まれて縮み上がったイソギンチャク。果たしてお味は…?
煮込まれて縮み上がったイソギンチャク。果たしてお味は…?
いただきます! 歯を立てると、ペロンと貝殻から剥がれた
いただきます! 歯を立てると、ペロンと貝殻から剥がれた
あっ、おいしい! 強いて例えるならトロッとした巻貝という感じ。
あっ、おいしい! 強いて例えるならトロッとした巻貝という感じ。
話に聞いていた通り、とろりとした食感。なるほど、決して油っ気は感じないが舌触りには角煮の脂身に通じるものを感じる。

味は…おいしい!なかなか他の食べ物に例えるのは難しいが、強いていうならば巻貝に近いか。巻貝といえばコリコリした食感のものが多いが、こちらはトロトロ。替えのきかない個性的な食材である。

これは…また近々食べちゃうやつだな。
ヤドカリも食べられる。くるっと巻いたおなかの部分に身が詰まっているぞ。
ヤドカリも食べられる。くるっと巻いたおなかの部分に身が詰まっているぞ。
今回はイソギンチャクにフィーチャーしたが、家主(?)であるヤドカリも食べられる。巻貝の螺旋に沿うようにカールした腹部に身が詰まっており、なかなかおいしい。特に大型の種だとイセエビに近い味わいが楽しめる。

神奈川の城ヶ島では名物として売り出しているので、関東近郊の方はぜひ一度試してみてほしい。ヤドカリだけでも食べる価値があるぞ。

待ってろ! その他のイソギンチャク食文化

というわけで、全国的にも珍しいイソギンチャク食のひとつを簡易的に紹介させていただいた。

しかし、まだ国内には他にも食べられるイソギンチャクが、というかイソギンチャクを食べる文化が存在しているのだという。…よし。残りも取材するぞ!
こちらは有明海名産のワケノシンノス(※若者の尻の穴の意)ことイシワケイソギンチャク。まだ日本にはイソギンチャク食文化が残っているはず。余すことなく取材していきたい。
こちらは有明海名産のワケノシンノス(※若者の尻の穴の意)ことイシワケイソギンチャク。まだ日本にはイソギンチャク食文化が残っているはず。余すことなく取材していきたい。
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