特集 2018年3月7日
 

地下鉄博物館のこれなーんだポスターには館長のアツい想いが込められている

館長の情熱がほとばしります。
館長の情熱がほとばしります。
東京メトロを利用していると、いつも気になるポスターがある。何を写しているのかよく分からない写真に「これなーんだ?」というコピーが入った地下鉄博物館のポスターだ。子どもにナゾナゾを出すような軽い問いかけだが、その軽さとは裏腹に問題の難易度が異常に高い。問いかけているくせに問題を解かせる気が全く感じられない。なんなんだ、このポスターは。

気になって仕方ないので地下鉄博物館に話を聞いてきたら、そこには館長のアツい想いがありました。
1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。

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あなたは分かる?超難問ポスター

まずは、問題のポスターをいくつか見ていただきたい。
このあたりはまだ分かる人もいるかもしれない
このあたりはまだ分かる人もいるかもしれない
アングルにクセがあって分かりにくい
アングルにクセがあって分かりにくい
鉄道関係者以外でこれを知っていたらかなりすごい
鉄道関係者以外でこれを知っていたらかなりすごい
見れば見るほど「これなーんだ?」の軽さと問題の難しさとのギャップにニヤニヤしてしまう。「問:以下の写真は何か述べよ」くらいの硬さがないと難易度に釣り合わないだろう。

というわけで、ポスターの真意を探るべく地下鉄博物館にお邪魔した。
地下鉄なのに高架を走る東京メトロ東西線の葛西駅高架下にある。
地下鉄なのに高架を走る東京メトロ東西線の葛西駅高架下にある。
地下鉄博物館は東京メトロの関連法人である公益財団法人メトロ文化財団によって運営されており、開館は1986年と30年以上の歴史がある博物館だ。今回は館長の賀山さんと職員の河村さんにお話をうかがった。
左から館長の賀山さん、職員の河村さん、僕
左から館長の賀山さん、職員の河村さん、僕

地下鉄博物館が知られていないショックから生まれたPRポスター

――早速、「これなーんだ?」のポスターについてお話を聞かせていただきたいのですが…

賀山館長「このポスターは、私、正直言って、気付きを狙ってやりました」

――館長自ら?

賀山館長「はい。このポスターを作るまでには色々と経緯があるので、まずはそれをお話します。私は10年前の平成19年に地下鉄博物館へ来たのですが、その時は博物館の広報宣伝活動をあまり積極的にやっていなかったんです。そこで、入館者を増やすにはどうすれば良いか、を考えた時にまずは地下鉄博物館そのものをもっと知ってほしいという想いがありました」
関係者から「賀山さんの作品みましたよ!」と言われることもあるという
関係者から「賀山さんの作品みましたよ!」と言われることもあるという
賀山館長が地下鉄博物館に赴任した平成19年頃から既に特別展用にポスターは作っていた。しかしそのポスターが掲出されるのも業務枠と呼ばれるお客さんの目にあまり止まらない端のほうで、ポスターがどれだけ入館者につながっているのかは分からなかったという。そんな時にあるショックな出来事があったそうだ。
賀山館長「毎年行われている東京メトロ主催のメトロファミリーパークという車両基地の見学会があるのですが、当時その見学会で地下鉄博物館もブースを出して色々なグッズを販売したんです。地下鉄博物館にぜひ来てくださいー!と宣伝をしていた時に何人かのお客様が『え、なに?地下鉄に博物館あるの!?』とおっしゃって、それがものすごくショックでした」
――全然知られてなかったんだ!っていう…

賀山館長「そのような背景があって、特別展とは別に地下鉄博物館そのものを知ってもらうために始めたのがPRポスターです」

館長のパッションが生んだこれなーんだポスター

これが初代のPRポスター。今のものとはかなり雰囲気が違う。
これが初代のPRポスター。今のものとはかなり雰囲気が違う。
こうして作られたPRポスターだが、初期はかなり正統派のデザインだ。社会科見学で行く場所という雰囲気があふれている。
こちらも初期のもの。館内のみどころを紹介するパターンのやつ。
こちらも初期のもの。館内のみどころを紹介するパターンのやつ。
賀山館長「震災で中断しちゃったりしているけど、毎年2回発行しているんですよ。それで、やってるうちにこの辺になってくるとなんだか分からなくなってくるなと思いつつ…」
ここでテイストがガラッと変わる。大きく写真が載っているのは切符を切るために使われていた改札鋏という道具だ。
ここでテイストがガラッと変わる。大きく写真が載っているのは切符を切るために使われていた改札鋏という道具だ。
――お、かっこいい。ここで急に変わりましたね。

賀山館長「つまんなくなっちゃったんだよ(笑)

ポスターを作っている会社に新しいポスターを作りたいと相談して、最初は普通のデザイン持ってきたんだけど、気に入らいない!と何度かやり取りしているうちに、これに行き着いて。改札鋏は普通の人はすぐに分からない。でも背景をよく見るとなんだか改札らしいものがあって、それが分かると『あ!そうだったな』と思う。あの頃はそうだったな、、と思い出す。という仕掛けなんです」
地下鉄博物館では今では少なくなった有人の改札も体験できる。
地下鉄博物館では今では少なくなった有人の改札も体験できる。
このような変遷を経て平成25年、ついにこれなーんだポスターが生まれる。

賀山館長「ポスターのデザイン会社が撮った写真をたくさん見ているうちに『お客様はこれなんだ?って思うんじゃないか』と感じたんです。あえて何も解説がないのが良い。」
冒頭でも紹介したこちらのポスターが最初のこれなーんだポスター
冒頭でも紹介したこちらのポスターが最初のこれなーんだポスター
――初回から手を抜かずに難しいですね

賀山館長「もう思い切ってやりました(笑) みんなで協議して決めたりってことはなかったんですよ。提案自体も自分でして写真も自分で選んでいます。たぶん今話しをしていることは他の職員もほとんど知らないんですよ(笑) 私も定年があるんで、誰かに引き継がなきゃとは思っています」

そう、何がすごいって、これなーんだポスターは賀山館長がほとんど一人でデザイン会社と打合せをして決めているところだ。

多くの人が関わって色々な意見を取り入れていくとどんなものでもエッジが削られがちだが、これなーんだポスターの誰かに媚びることのない難問具合はかなりエッジが効いているし、写真のチョイスに直感的なセンスも感じられる。それも全て、賀山館長の「もっと来場者を増やしたい!」というパッションがそのままかたちになったポスターだからこそだろう。
これなーんだシリーズではないが、こちらも賀山館長お気に入りの一枚。
これなーんだシリーズではないが、こちらも賀山館長お気に入りの一枚。

今後も期待したいこれなーんだポスター

――これなーんだポスターの写真を選ぶ基準はありますか?

賀山館長「目立つものを選んでいます。目立たないと『これなんだ?』も出てこないので。ポスターの掲出場所が目立たないからこそ目立つ内容にしていますね。

新しいポスターを作る時はデザイン会社に相談して写真を持ってきてもらうんですが、そこでけっこうボツにします。最初の頃は全部ボツにしてました。パンタグラフとかも普通に撮っても面白くない。お客様の探究心をくすぐる撮り方をしないと」

――今後もこれなーんだポスターは続けていきますか?

賀山館長「はい、今後も『これだーれだ』みたいな遊びも入れつつ続けていきたいです。」
ちょうど今、駅に貼られているのがこちらのポスター。地下鉄の父と呼ばれた早川徳次を取り上げた特別展に合わせて「このひとだーれだ」になっている。
ちょうど今、駅に貼られているのがこちらのポスター。地下鉄の父と呼ばれた早川徳次を取り上げた特別展に合わせて「このひとだーれだ」になっている。
賀山館長「ポスターがどれだけ影響しているかは分からないけれど、入館者数は少しづつ増えてきています。ただポスターはあくまできてもらうきっかけなので、施設としての良さはもちろん重要です。職員にはいつも「展示物に故障中の張り紙はするな」と言っています。館内が充実してないとポスター見て期待して来た人に期待外れと言われてしまうので」
地下鉄博物館は実際に体験・体感できる展示がたくさんあることも特徴なので故障中は出来るだけ避けたい。
地下鉄博物館は実際に体験・体感できる展示がたくさんあることも特徴なので故障中は出来るだけ避けたい。
今後も、「これなーんだ」ポスターの続編に期待できそうだ。次に駅でポスターを見かけた時には、賀山館長のアツい想いを感じてこれまでとは別の意味でニヤニヤしてしまうだろう。

答えを見つけるのも難しい!

最後に、実際に地下鉄博物館でこれなーんだポスターの答えを探してみたい。今回は、冒頭でも紹介した、賀山館長曰く「握りこぶしにパウダーまぶしたみたいに見えて面白い」ポスターが一体何なのか、探してみよう。
このポスターも賀山館長のお気に入りの一枚とのこと。
このポスターも賀山館長のお気に入りの一枚とのこと。
地下鉄博物館は入口が改札に、入館券が切符になっていて芸が細かい。
毎日改札は通っているはずなのになぜかテンションがあがる。
毎日改札は通っているはずなのになぜかテンションがあがる。
館内には昔の車両が置いてあったり、地下鉄の仕組みが分かる体験ブースがあったり、とかなり広い。つまり答えを探すのもかなり大変ということだ。ごめんナメてた、これなーんだ。
日本最初の地下鉄車両1001号車は2017年9月に国の重要文化財に指定された。重要文化財と聞くだけでありがたみが100倍くらい増す。
日本最初の地下鉄車両1001号車は2017年9月に国の重要文化財に指定された。重要文化財と聞くだけでありがたみが100倍くらい増す。
超限定!にそそられる。限定が超ってすごい。
超限定!にそそられる。限定が超ってすごい。
平日ラインナップの地下鉄の関係なさからの土日ラインナップのガチさよ
平日ラインナップの地下鉄の関係なさからの土日ラインナップのガチさよ
一通り館内を探してみたが、全然見つからない。色合い的に何かの部品のように見えるので車両の基礎部分に注目して探したがダメだった。そもそも何を探しているのかも分からないから難しい。頭の中の井上陽水が探しものはなんですか〜?と呼びかけてくる。

ここは素直に諦めて、館内にいる職員の方へ聞いてみよう。大人は諦められるのだ。
「あーこれね」とすぐに案内してくれた。頼もしすぎる。
「あーこれね」とすぐに案内してくれた。頼もしすぎる。
大人しくついていくと、大きな半円状の部品の前に連れてきてくれた。これはシールドマシンという地下鉄のトンネルを掘るための機械のカッターディスクという部品だそうだ。このディスクが回転して岩を削っていく。このカッターディスクは実際に副都心線のトンネルを掘る際に使用されたもので、20個のパーツに分けてこの博物館に持ち込まれ、ここで再びつなぎ合わせて展示しているという。

そんなカッターディスクをよく見てみると、
あ!!ここ!!
あ!!ここ!!
岩を削る歯の部分がポスターに載っている写真だったのだ。どうりで車両の基礎部分ばかり見ていては見つからないわけである。
確かにポスターと同じ画になる。
確かにポスターと同じ画になる。
実際に探してみると、答えの場所にも特に目印があったり案内板が立っていたりするわけではないので、かなり難易度は高いと言える。ポスターの写真を見て下手にどんなものか推測してしまう分、もしかしたら大人の方が見つけられないのかもしれない。大人の博物館の楽しみ方としておすすめしたい。

それにしても、こういう普通は目にも止めないところを切り取ってポスターにしてしまう賀山館長のセンスと勢いはやっぱりすごい。これからもその情熱で地下鉄博物館を面白くしていってほしい。

デイリーポータルの記事も構想の段階であまり多くの人に相談しすぎない方がよいと言われている。それは色々な人に相談するとネタの勢いや熱量が削られてしまうからだ。

これって本当にそうなんだな、というのが今回の取材でよく分かった。これなーんだポスターには関わる人が少ないがゆえの勢いがあるのだ。僕も賀山館長の情熱を見習っていきたい。
記念に「記念」と入ったクリアファイルをいただきました。ありがとうございます!
記念に「記念」と入ったクリアファイルをいただきました。ありがとうございます!

取材協力:地下鉄博物館
http://www.chikahaku.jp/
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