特集 2018年3月11日
 

書き出し小説大賞第142回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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特報!! かねてからの告知通り、先日第四回書き出し大賞授賞式を行いました!今回は通常の連載と共にその受賞作も紹介します。ではまずは通常版から!

書き出し自由部門

現実に戻ったとき家族割りについての説明はまだ続いてた。
空想庭園
雨音が止んでなお、俺は濡れ続けている。
たこフェリー
あみだの先がふっつり切れて、風に揺れている。
xissa
神を欺き自らの便意を他人に移す力を得た私は、午前8時の埼京線に乗っている。
栗山酉太郎
もういない彼女の席で、固形燃料がまだ鍋を温める。
大伴
絶母親の徘徊と呼ばれる行動が、一人の家出少女の命を救った。
トミ子
教授の言うカップ麺の作り方だと3年はかかる
馬mm
0と1の世界で僕は、神と名乗る変態に出会った。
terayo
熱した鉄板の上を裸足で歩くたびに、新しい舞踏が生まれる。
伊勢崎おかめ
豆ばかり食べたくなる時がある。満月より少し足りない夜だ。
prefab
君の知ってる交差点は遥か上空にある。
井沢
先程の火災報知機は、どうやら兄の性欲に反応していたようだ。
八重樫
男子たちはさ、倒れられなかったドミノの気持ち、考えたことがあるの?
ジェングウ
つり革につかまっていると、座っている人にひざ蹴りしたくなっちゃうの。わたしはそんな女だよ。それでもいいの?
もんぜん
「アタシ、人魚に歌教えたことあんのよ」。グラスを拭きながら、ママがしゃがれた声でつぶやいた。
Mch
寸評

●空想庭園氏「現実に戻った〜」ケータイショップで延々と説明を受ける時間は、分不相応な文明を持った人間への罰かもしれない。
●たこフェリー氏「雨音が止んで〜」心情を表す比喩か、それとも滝修行中か。
●栗山酉太郎氏「神を欺き自らの〜」エスパー軍団の中にひとりこの能力者が入れば、案外ここぞというとき活躍しそうな気がする。
●馬mm氏「教授の言う〜」インスタント麺に適した小麦の品種改良からか?
●ジェングウ氏「男子たちはさ〜」もんぜん氏「つり革に〜」奇しくもどちらも女子台詞。こういう個性的な台詞ひとつでキャラは立つ。

つづいては規定部門。今回のテーマは『方言』であった。なまらよか作品がめっさあつまりめんそーれ。

規定部門・モチーフ『方言』

彼女との会話はすべて「ちゃうねん」から始まる。
g-udon
あたしが「ちゃうくて」って言うたびに面接官たちの動きが止まる。
伊勢崎おかめ
青森に来てからというもの、相槌しかしてない。
留木福郎
「お父さんの最後のヤンってどういう意味?」
山本ゆうご
どうやら僕はいま、「たろんぺ」というやつを手にしているらしい。
紀野珍
意味は分からないのに、方言での罵倒はボディブロウのように効いた。
紀野珍
留学生の日本語は、片言から方言への過渡期にあった。
くのゐち
「ちいそうても命がありますよってに」藤色の扇子に便所虫を乗せて、静江は外へ逃がしてやった。
伊勢崎おかめ
「なまらめんこい」という字面だけで、うずいてしまう夜だった。
くのゐち
上司の長女の名前は、私の出身地方で女性器を意味する。
伊勢崎おかめ
調理器具の名前だと思っていたのは、男性器のことだった。
うにねこ
「先行ってくんに?」初対面の彼の言葉に、わたしは耳を疑った。
ヘンな鈴木
故郷を聞くと男は標準語で「ケニア」と言った。僕もそうだと泣いた。
HAGUKI
集団就職48は、方言以外です話すことは、禁止です。
にら将軍ハルナ
満場一致の場は「んだ、んだ、んだ、んだ、」と裏打ちでリズムを刻んだ。
ろっさん
あのダフトパンク、訛ってねえが?
suzukishika
その老婆からかろうじて聞き取れたのは「恐山」と「エミネム」だけだった。
トースト記念日
祖父が時々口にする知らない言葉は、今はダムの底にある故郷の方言なのだそうだ。
住民パワー
寸評

●g-udon氏「彼女との会話は〜」伊勢崎おかめ氏「あたしが〜」関西弁というより関西女子の特徴。久しぶりに関西の女の子と話したくなる。
●紀野珍氏「どうやら僕は〜」たろんぺとはつららのことらしい。シモネタかと思った。
●くのゐち氏「なまらめんこい」シモネタ。伊勢崎おかめ氏「上司の長女は〜」シモネタ。うにねこ氏「調理器具の名前〜」これもシモネタ。ヘンな鈴木氏「先に行って〜」全部シモネタ。方言とシモネタの相性は異常にいいことが分かった。
●suzukishika氏「あのダフトパンク〜」その理屈で言うとパヒュームも相当訛っている。
●トースト記念日氏「その老婆から〜」南無阿弥陀仏がエムネムダブツと聞こえたのかも。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「特殊能力」
今回自由部門で選ばれた栗山酉太郎氏の「便意を他人に移す力」を読んで、こういう特殊能力モノをもっと読んでみたいと思いました。誰もが知ってるエスパー能力から、採用作のようなオリジナルもの、また普通の能力でも書き方次第で特殊能力っぽく書けると思います。あなたの特殊能力を紹介してください。締め切りは3月23日正午、発表は同月25日を予定しています。下記の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
吉田髑髏/ビールおかわり/コタ/洋なしミドル/なかもりばなな/terayo/ぐぬぬぬぬ/まじいい/オメガ/轍眼鏡/ヘリコプター/ボーフラ/茂具田/ウウタルレロ/炎の文房具屋さん/

第四回書き出し大賞のご報告

今回で4回目となった大賞授賞式、イベントではノミネート作60作品が発表され、その中から各賞が選ばれました。
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受賞作は以下の通りでした。
林賞
香典ドロボーは、もう一人のあたし。 
(自由部門・ボーフラ)
せきしろ賞

肩車に免許が必要だとしたら、それを持つべきは上の人だろうか、下の人だろうか。

(自由部門・紀野珍)
天久賞
ぼくはきっぷ。かみなりにおへそあげたねこ。 
(規定部門『児童向け』・xissa)
書き出しラヴァーズ賞(会場賞)
打ち水が臭い。うまくいかないね。
(自由部門・もろみじょうゆ)
大賞
小鉢に入った、夜みたいなものをつつく。
(自由部門・義ん母)
約二年半ぶりの授賞式は作家のみなさん読者のみなさんに多数お集まりいただき盛況のうちに終わりました。ゲストはDPZ主宰、林雄司氏、自由律俳句でも活躍されるせきしろ氏に登壇していただきました。

ノミネート作の朗読は毎回役者の佐伯さち子さんにお願いしています。訥々と読み上げられる作品群は文字で読むときとはまた違った印象と面白さを与えてくれます。みんなで鑑賞したときより愉しめるよう、ノミネート作は文学性の高いものから爆笑ネタまでさまざまなスタイルをチョイスしました。選んだときには地味かなと思ったものでも、会場で思わぬウケをとる作品もあります。今回ラヴァーズ賞に輝いたもろみじょうゆ氏の作品はまさにそう。理屈を越えた面白さが、ライブという状況で予想以上に伝わったのが驚きでした。大賞は義ん母氏。なんと彼は前回につづいての大賞受賞。書き出し界の羽生くんが誕生した瞬間でした。

SNSの時代、作家さんの間では自然とつながりも出来イベントはゆるいオフ会といったところ。読者のみなさんもそれに混じり会場は終始なごやかムードでした。書き出しは焚き火かもしれないなと、ふと想いました。みなさんから寄せられた薪(作品)をくべならが、その小さな炎を囲んでささやかな交流を楽しむ。火を絶やさないようこれからもぼちぼち続けていきます。

第四回書き出し大賞ノミネート作

(自由部門・小夜子)つま先から広がった波紋は頭上で消えた。

(自由部門・ぐぬぬぬぬ)ミミズ二匹、愛の形で死んでいる。  

(自由部門・あや幹部)絡まったパラシュートを解いてやると、父は大人しくなった。 

(自由部門・もんぜん)母は空き巣のこともちゃん付けで呼んだ。 

(規定部門『飲み屋』・Mch)頼んだ枝豆に続いてお通しの枝豆が出てきた。

(自由部門・大伴)黙祷が終わり、財布が消えた。    

(自由部門・Yuzie)山伏から毎月送られて来る手紙は、少し季節外れの時候の挨拶から始まる。 

(自由部門・東ことり)なんでも屋は総務にいる。付箋もくれるし、人も殺す。 

(自由部門・ヘリコプター)昨日から来たオレは日めくりをめくると消えてしまった。  

(自由部門・xissa)音だけの花火をベランダで見る。  

(自由部門・TOKUNAGA)アスパラを牛肉で巻いて捨てた。 

(規定部門『花火』・山本ゆうご)今年の花火大会からお小遣いだけでいいと娘は言った。  

(自由部門・君と僕と雨)マフラーで繋がれた恋は、思っていたよりも脆かった。 

(自由部門・Mch)クレーンの森のずっと奥に、重機の神様はいた。 

(規定部門『殺し屋』・正夢の3人目)コートの男が浜辺で死んだ。名前は少女がもらっていった。   

(自由部門・muddom)互いに気づいていなかったが、私達の白杖は何度かすれ違っていたらしい。  

(自由部門・くのゐち)何度追い払っても、股間にコウモリがぶら下がってくる。  
(自由部門・g-udon)ポップコーンの弾けてないやつ。それが私だ。  

(自由部門・トミ子)悲しかったり、金縛りにあったり、悲しかったり。   

(規定部門『切ない』・八重樫)とてつもなくエロい夢だった。目が覚めると、泣いていた。   

(自由部門・吉田髑髏)落ち込んでいる僕にパンダが笹舟をくれた。 

(自由部門・prefab)貝殻を貝のお金にするのは族長の孫娘の役目だ。 

(自由部門・義ん母)小鉢に入った、夜みたいなものをつつく。  

(自由部門・けー)俺より尾の長い男がいる。奴との出会いは、丸い月の下の廃工場だった。

(規定部門『正月』・菅原aka$UZY)秋口から募っていたクラウドファンディングで、なんとか餅が買えた。

(規定部門『切ない』・哲ロマ)スープ無くなり次第終了の店は今日も遅くまで開いていた。  

(規定部門『網戸』・タクタクさん)スペイン語では「アミード!」と陽気に発音する。 

(規定部門『網戸』・八王寺義昭)網ドンをしようとしたら、網ごと床ドンをしてしまった。 

(規定部門『網戸』・morin)網戸越しに、網タイツの父がモアレを起こしている。 morin  

(規定部門『網戸』・あひる)網の目を極限まで小さくした結果、戸になった。 あひる  

(自由部門・茂具田)父方のボブと暮らしている。  

(自由部門・ぴすとる)乳を揉んでいる男が、乳を揉みたいと思っている奴に敵うはずがない。  

(自由部門・正夢の3人目)芋を煮てるんじゃない。時間を煮てるんだ。 

(自由部門・suzukishika)彼女は輪唱を食い過ぎている。 

(自由部門・大伴)女は死に、砂鉄のドレスが一瞬で落ちる。 

(規定部門『児童向け』・xissa)ぼくはきっぷ。かみなりにおへそあげたねこ。  

(自由部門・紀野珍)肩車に免許が必要だとしたら、それを持つべきは上の人だろうか、下の人だろうか。
(自由部門・マークパン助)事故に見えますが、ヨガです。 

(自由部門・ゆでたまごじら)あたしの何もかもを、残さず丸ごと食べてくれる、優しい悪魔はいないだろうか。 

(規定部門『探偵』・ろっさん)未来探偵は事件の迷宮入りを告げると、消えた。

(自由部門・)あそこのイチョウだけあかるい。 xissa

(規定部門『夕立』・井沢)歯医者からスタートした土曜日は君のいない夕立ちを運んできた。  

(自由部門・きんめ鯛)公園で傷んだ苺を洗う2人は幸せだった。 

(自由部門・タクタクさん)正午のポプラ、それは静止した夏。  

(自由部門・merumo)口に含んだ親指の指紋は、柔らかな舌にくっきりと浮かんで視えた。  

(自由部門・住民パワー)祖父が両手でハートマークを作った。心臓発作のサインだ。  

(自由部門・ボーフラ)香典ドロボーは、もう一人のあたし。 

(自由部門・g-udon)余計な毛ほど伸びる。だから何も考えない。陸橋の上でそう決めた。 

(自由部門・もんぜん)手すりに甘えた夜だった。  

(自由部門・茂具田)この豚足を使って挙手をすると決めた。  

(自由部門・TOKUNAGA)駄犬は駆ける、世界は優しい。 

(自由部門・ビールおかわり)猿にとってトングは掴むものではなく鳴らすものだ。

(自由部門・紀野)雑巾だって乾こうとしている。  

(自由部門・井沢)手にドライバー?ええ、回すほうの。を、持った女が玄関にいます。 

(自由部門・ヘリコプター)これはカヌーではない。カヌーを入れるケースだ。 

(自由部門・夢雀)「痛くなってからしか来ないのね」埴輪のような女歯科医が言った。 

(自由部門・マークパン助)この公園に変質者は一人でいい。 

(自由部門・もろみじょうゆ)打ち水が臭い。うまくいかないね。  

(規定部門『部下・上司』・山本ゆうご)「課長だって無理して上司してるじゃないですか!」説教中に部下が反撃してきた。  

(自由部門・Mch)ヒロインはあとがきでようやく幸せをつかんだ。  
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