特集 2018年3月12日
 

ハンドスピナーのギネス世界記録24分って具体的にどれぐらい長い?

ギネス世界記録のハンドスピナー、なんで作った?

とにかく良く回るのは分かった。
でも、そもそもなんでこんなすごいハンドスピナーを作ろうと思ったのか、その理由がよく分からない。

小口 話のスタートは去年の夏ぐらいですね。先ほどもちょっと言いましたが、「巷で流行ってる玩具のハンドスピナーを、我々のベアリングで技術的に真剣なものとして作ったらどうなんだろう」という話題が社内で出まして。
で、弊社のお客様として我々のベアリングをいつも使ってくださっていて、ベアリングのことを熟知している三菱プレシジョンさんにお話しさせてもらいまして、一緒にやりましょう、と。


長井 企画自体は2017年の8月終わりぐらいからで、なんだかんだで試作品ができたのが10月。それから11月末にはもう量産にかかってたので、実質3ヶ月ちょっとで作っちゃいましたね。
お話をいただいてる横でまだ回し続けている編集藤原くん。ハンドスピナーの音に耳を澄ます姿が何かのマイスターっぽいのはなぜだ。
お話をいただいてる横でまだ回し続けている編集藤原くん。ハンドスピナーの音に耳を澄ます姿が何かのマイスターっぽいのはなぜだ。
きだて それ、めちゃくちゃ早いじゃないですか。そんな簡単なものだったんですか?

小口 やるなら年内にはやっちゃおう、とは思ったんですが、まぁ大変でしたね。

長井 設計は我々が行ったんですが、図面そのものは宇宙製品と同じレベルなので、部品の製造加工のオーダーは厳しいものだったと思います。

小口 こちらはベアリングだけじゃなくて、航空機の部品を作る部門や医療関係機器の精密加工部門とも一緒にやっていたんですが…。

きだて あれ、航空機の部品はさっき内側のアルミパーツで聞きましたけど、医療機器ってなにか関係ありました?

小口 ネジの組み込み精度や表面粗さに非常に厳しい要求をいただいていたので、それに対応できるのが医療機器の精密加工部門だったんです。

きだて そんないろんなところを巻き込んで。ミネベアミツミとしては全社挙げてという体勢だったんですね。

小口 いえ、今回はかなりシークレットなプロジェクトだったので、それぞれの部門では何を作らされてるのか分からない状態で。会社の中でも知ってるのはわずか数名ぐらい。
現場からは何度も「このなにかよくわからないパーツの設計、寸法公差(図面の寸法に対して許される誤差の範囲)をゆるめてくれないか」と言われたんですが、「ダメです」と。


長井 そういえば、この外周の真ちゅうパーツと中央のアルミパーツ、これもけっこうな精度で作ってまして。これ、接着してるんじゃなくて単にはめ込んでいるだけなんですが、普通にやってもはめ込めないんですよ。
I have a 真ちゅう。I have a アルミ。
I have a 真ちゅう。I have a アルミ。
きだて ほんとだ。あきらかにアルミパーツが大きくて、真ちゅうのリングに入らない。
これ不良品のサンプルじゃないですか。
確かに、どうやっても径が合わず入らない。
確かに、どうやっても径が合わず入らない。
長井 これも宇宙製品の応用なんですが、金属の膨張率の差を利用した「焼きばめ」という技術なんです。
まず外側の真ちゅうリングを温めますと、膨張して広がります。次に内側のアルミニウムを冷やしてやると収縮します。それがある温度差になると、ちょうどぴったりはめ込める隙間ができるんですね。


きだて そのままだと絶対に入らないんですか。

長井 そういう寸法設計になってます。温める方はホットプレートで、冷やす方は液体窒素にどぶんと漬けちゃいます。
あとは元のサイズに戻らないうちに急いではめ込むんですが、これもなかなかノウハウがいるんですよ。スキルがないと「かじる」というんですが、入れる途中で止まっちゃって、もうどうにもならなくなるんですね。
液体窒素に漬けてからの焼きばめ作業。ハンドスピナーとしては普通に前代未聞だ。(ミネベアミツミ動画より)
液体窒素に漬けてからの焼きばめ作業。ハンドスピナーとしては普通に前代未聞だ。(ミネベアミツミ動画より)
小口 我々も、正直そこまでやっていただけるとは思ってなかったんですけども。ハンドスピナーの組み立てに液体窒素を使うというのは、たぶん世界のどこにもないですよね。

24分回るハンドスピナーって、具体的にどれぐらいの時間回ってるのか

今回、ギネス世界記録のハンドスピナーを見に来ないか、というお誘いをいただいた際に、まず気になったのが「24分46秒34って、どれぐらいの長さ?」というものだった。
いや、分かってる。24分46秒34の長さは、24分46秒34だ。そんなのは分かってる。

でも、みんな冷静に考えて欲しい。数字で具体的に24分と言われて、本当にピンと来ているか?
数字に惑わされていないだろうか?
大事なのは、体感すると言うことだ。
例えば会社の昼休みにハンドスピナーを回してからランチに出て、食べて自席に戻ってきたときにまだ回っていて、そこではじめて「うわー、24分も回ってたわー」と驚くんじゃないだろうか。
ということで、小口さん、お願いします。
ということで、小口さん、お願いします。
僕はお昼ごはん食べてきますね。
僕はお昼ごはん食べてきますね。
ミラノサンドAは安定してうまいよねー(素で普通にランチ食べてます)。
ミラノサンドAは安定してうまいよねー(素で普通にランチ食べてます)。
一方その頃。安定して回ってる。
一方その頃。安定して回ってる。
というわけで、小口さんに『Real Spin Ms'』を回していただき、本当にその間にランチをとって戻ってくることが可能なのかを実証してみた。
実はこの少し前に、こんな会話が出ていたにも関わらず、だ。
きだて ギネス世界記録認定の動画、拝見すると最後の方はみなさん辛そうな表情なんですよね。

小口 社内から女性を含む6人を選抜しまして、みんなで毎日練習して臨んだんですけど、やはり20分とかずっと動かずに指一本でハンドスピナーを支えるのは大変だったようです。

きだて 「ハンドスピナーの練習」という言葉の耳新しさもなかなかのものですけど、それにしても、見ているだけで指がつりそう。

小口 重量が130g弱あるんですが、この荷重を指1本で24分支えますから。動画でも分かりますが、最終的にかなり汗をかきながらになりますね。揺らしちゃうと記録が伸びないので、身動きもせずで。
さすがに指1本は苦行過ぎるということで、今回は指2本(親指と人差し指で挟むように保持)でお願いしてみたが、それにしたって申し訳ない話である。
おっ、コンビニあんじゃん。ちょっと寄っていきます。
おっ、コンビニあんじゃん。ちょっと寄っていきます。
まだ小腹空いてんなー。プリンとか食べよっかなー。
まだ小腹空いてんなー。プリンとか食べよっかなー。
一方その頃。もちろんまだ回ってる。
一方その頃。もちろんまだ回ってる。
すいません、今戻りましたけど、回ってます?
すいません、今戻りましたけど、回ってます?
オフィスビル内のカフェでランチをとって、コンビニに寄って、で現時点のタイムは17分ちょい。
小口さんの手の『Real Spin Ms'』は、スピードはいささか落ちたものの、まだ軽快に回っている。

実はランチタイムをすこし外しての撮影となったため、カフェは混雑もなくサクサクとスムーズにランチがとれてしまったのだ。その結果、まだちょっと時間的にも余裕という状態に。
じゃあ、ウノでもやろっか、ウノ。
じゃあ、ウノでもやろっか、ウノ。
ということで、追加でもうちょい昼休みをいただくことにした。
ミネベアミツミ広報の柴田さん、編集藤原くんと一緒にカードゲームを1プレイ。こういうのも会社の昼休み的な醍醐味である。
だいぶスピードが落ちてきた。ウノが先か止まるが先か。
だいぶスピードが落ちてきた。ウノが先か止まるが先か。
あがりましたー(ちゃんとウノも言った)
あがりましたー(ちゃんとウノも言った)
小口 ……そろそろ回転が落ちてきましたよ。

スパッと勝負がきまったちょうどのところで、小口さんが声をかけてくれた。
この時点で時間は24分。さぁ、そろそろか。
長いので割愛しましたが、このぐらいのスピードですでに2分ぐらいは回ってます。最後の粘りがすごい。
最終的に、今回のタイムは24分41秒。
つまり、このハンドスピナーは「ランチを食べに出てコンビに立ち寄ってから戻ってきて、ウノ1ゲームやる時間」ぐらい長く回る、ということだ。

こうやって体感すると、やっぱり24分回るハンドスピナーってすごいもんだな、としっかり理解できた次第である。
たぶん、ランチ食べる時間のあるハンドスピナーって、他にないぞ。

ハンドスピナーって、日本で流行り始めたのが2017年4月ぐらいで、「もう古いよな」と言われ出したのが2017年の秋ごろ。実はおそろしい勢いでブームが駆け抜けていったホビーなのだ。
それでも、こういうすごい技術で作られた製品を見ると、まだ廃れたと思うのは早計かもなーとも思ってしまうのである。そもそも49,800円のハンドスピナーが100個完売してるんだし。
メーカーの本気はすごいし、今後もっとすごいのも出て欲しい。

取材協力:三菱プレシジョン ミネベアミツミ

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