特集 2018年3月27日
 

錯視を使った仏像がある

あなたの方をむいてるとしたらそれは仏さまの力だ!
あなたの方をむいてるとしたらそれは仏さまの力だ!
やった。あのチンポンジャランを開発した愛知県のお寺がまたやった。ある日副住職から連絡が入った。

今度はどこにいてもこちらをむいてくる仏像を開発したのだという。…なんだそれは!! また行かないといけないのか!
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

愛知県江南市永正寺。以前来たときはこんなものはなかった。お寺がどんどん新しくなっているのである
愛知県江南市永正寺。以前来たときはこんなものはなかった。お寺がどんどん新しくなっているのである

愛知県江南市のお寺に

この永正寺がかつて開発したチンポンジャランは禅宗の葬儀の鳴り物を一人で担当できる楽器であった。一見、大道芸かと勘違いするユーモラスさだが、一人でできるので葬儀が安く済むらしい。

「企業ならその一瞬だけ売上を上げればいいですが、お寺は50年100年のお付き合いですから葬儀で生活が困窮されてしまっては困るんですよ。」

と副住職の中村建岳さんは言った。つまりはちゃんとした気持ちで新しく色々やってるお寺だ。

今回その中村建岳さんからまた連絡が入った。構想十年、念願の「どこから見てもこっちを向いてる仏像」を作ったと。

さあ、今度はまったく意味がわからないぞ。仏像にそんなモナリザや音楽室のベートベンの怪談みたいなおもしろ要素が必要なのだろうか?

もしかしてふざけてるのではないか? そんな疑いを抱えて江南市に再びやってきた。
永正寺副住職の中村建岳さん構想10年の仏像を開発したという
永正寺副住職の中村建岳さん構想10年の仏像を開発したという
広いお寺の中に仏様が鎮座する別棟がある
広いお寺の中に仏様が鎮座する別棟がある

お釈迦様の誕生日にむけて盛り上がる副住職

前回来たときもお堂の中でホームシアターがあったりビールでできた祭壇があったり、色々新しいものがあったが、今回も新しい別の建物に案内してもらった。ここに仏様を置いてるようだ。
これがその仏像、永正八方釈迦如来である
これがその仏像、永正八方釈迦如来である
お分かりだろうか? 向かって右から撮ると右を向いている仏様だが…
お分かりだろうか? 向かって右から撮ると右を向いている仏様だが…
左から写真を撮ってみれば顔が左向きである。なぜだ
左から写真を撮ってみれば顔が左向きである。なぜだ
!
映像で見るとわかりやすいかもしれない

へこんでいる仏像から錯視が起こる

部屋に入りそこにあった永正八方釈迦如来とは妙な彫像だった。向こう側に仏像が彫られているもので…パッと見て(なんじゃこりゃ?)という思いしかない。

ところがこれを片目でじっと見てると錯視が起こるのだ。カメラは一つの視点なので同様である。この記事内の写真は片目で見たときに近い。
向こう側にへこんでる仏像。これを片目で見ると虚像が現れるのだ(手と足は凹面で作れないので凸面)
向こう側にへこんでる仏像。これを片目で見ると虚像が現れるのだ(手と足は凹面で作れないので凸面)
ふつうに見ると(へこんでるなー)という状態なのだが、これを片目で見ると錯視がはじまる
ふつうに見ると(へこんでるなー)という状態なのだが、これを片目で見ると錯視がはじまる
手のあたりや輪郭線を見てるとへこんでいるのがわかるかもしれない。写真で見るとカメラは単眼なので飛び出て見えてしまう
手のあたりや輪郭線を見てるとへこんでいるのがわかるかもしれない。写真で見るとカメラは単眼なので飛び出て見えてしまう
つまりお面の裏側を見ているのである
つまりお面の裏側を見ているのである

ホロウマスク錯視により現れる仏像

副住職「我々の目と脳は顔認識をしやすいんですね。天井のシミが顔に見えたりとか。だからこう凹んでいても凸面として顔認識しちゃうと。ホロウマスク錯視という錯覚だそうです。お面を反対から見ている状態ですね」

なんてこった。仏像に錯視を取り入れているのである。大丈夫なのか。バチが当たったりしないのだろうか。いや、錯視はバチ当たりなのか? さっぱりわからなくなってきた。

副住職「トリックアート美術館にこういうものが置いてありますよね。仏像だともちろんはじめてでしょうね」

トリックアート美術館に置いてあるものならやはりバチ当たりなのかもしれない…
いったん錯視がはじまるとどこから見てもこっちを見てくる
いったん錯視がはじまるとどこから見てもこっちを見てくる

錯視の仏像があってもいい理由

凹んでいるものがいったん凸面の仏像に見えると、そこからはずっとふつうの仏像に見える。

奥にあるはずのものが前に出てるように見えている。これがどこから見てもこちらに向かってるように見える理由だ。

ー―これ錯視で一旦見えてしまうとずっと現れてるのおもしろいですね
「それこそ仏さまに出現していただける。神社で鐘を鳴らして神様に来てもらうような感じですね。

仏様というのは願いが形になったものですよね。そもそもが虚像、実像ではない。一方これは本物の虚像ですよね。なので虚像中の虚像。

小さいお子さんでも背の高い人でも老若男女平等に見守っていただける。そういう思いをこめての永正八方釈迦如来です」

ものすごくまっとうな理由が出てきた。仏像とはそもそも虚像のものであり、どこから見ても見えるのは老若男女だれでも救済対象であるということ。

これならおもしろくてもいい気がしてきた。錯視であってもいいんじゃないか。
八方釈迦如来は特別参拝日に多くの方が来て御朱印作りまくったそうだ
八方釈迦如来は特別参拝日に多くの方が来て御朱印作りまくったそうだ

インドのお土産に着想を得た

――仏像を作るという発想がないんですが、よくあることなんですか?

「けっこうありますよ。今でも新しく作られるところは多いですね」

――構想十年のそもそもの発端はなんだったんですか?

「インドに旅行しにいったときにお土産屋さんにこういう仏像があったんです。そのときは買えなくて、帰ってから探してもないんですね。ないんだったら作ろうと」

なんとそもそもの発端はお土産品だった。インドのお土産を大きくしたものだったのだ。日本でいうなら覗いたら仏像が見えるような小さなひょうたんのデカイものを作るようなものだろうか。
「この仏様ふしぎですから、みなさまエグザイルみたいになるんですよ」
「この仏様ふしぎですから、みなさまエグザイルみたいになるんですよ」
お坊さんがエグザイルみたいになっている瞬間を見た
お坊さんがエグザイルみたいになっている瞬間を見た

トリックアート仏像誕生秘話

「完成したのは2017年9月。最初自作しましてね。型取りのもので。ああ、なる、なる、と。それを仏具屋さんに持っていって。

作り方がわからなくていろんな仏具屋さんに声かけたんですけど無理で。制作して3年ですね。木彫ですね。それをブロンズで形どったのがこれですね。

これふつうの仏像よりも厚みがないんですよ。薄い。それが仏具屋さんのこだわられたところで。そのままやるとこっちにちゃんと向かないらしいんです。なのでパソコン上の3DCGでシミュレーションしたんですね。そこで時間がかかりましたね。

それに合わせて仏師の方が木彫で彫らないといけない。この薄さでやるのは難しいという話でしたね……これどんどん動くとほんとにかわりますね(笑)」

おもしろ仏像といえど、世の中にないものを作るのは大変である。CGも投入し、仏師仏具屋の技術を投入し、インドのおみやげを大きくした。結果、日本どころか中国にもタイにもインドにもないであろう、仏教界初の錯視の仏像が出来上がったのだ。

そうして出来上がった仏像の前でお坊さんがエグザイル的な動きをする。なにごとも過程があって結果があるものだなと思う。
「ここの二階はリモコンでスクリーン降りてきますし…」
「ここの二階はリモコンでスクリーン降りてきますし…」
「ホームシアターになるんですよ。今度は4K」前回は本堂、今回は新スペースに。もはや恒例となったホームシアター設置したよ話である。
「ホームシアターになるんですよ。今度は4K」前回は本堂、今回は新スペースに。もはや恒例となったホームシアター設置したよ話である。

その人なりの仏像が現れる

「視力のいい人は錯覚しにくいとかね、目と脳の具合によってその人の仏様が出現する。カメラだと人間の目より解像度が悪くなるので錯視しやすい。裸眼でやってみるとよく飛び出ますよ」

――ほんとだ。裸眼だとめちゃめちゃ浮き出ますね、おもしろい。みなさんの反応はどうですか?

「おもしろがられますね。子供さんは特に。最初見えなかった方が見えたときの反応が特に大きいですね。

こういうものは日本にはないですね。インドでもお土産ではあるでしょうけど、参拝対象としてはないでしょうね、おそらく。わざわざ仏像にしたのは初じゃないでしょうか」
この藤棚もそうで、色々新しい設備ができてるが檀家さんからお金を集めて作ったわけではなくオリジナル集合墓がうまくいってそこのお金で作ったそうだ
この藤棚もそうで、色々新しい設備ができてるが檀家さんからお金を集めて作ったわけではなくオリジナル集合墓がうまくいってそこのお金で作ったそうだ
納骨堂のような暗さと怖さがなく、お墓ほど大きくはない省スペースの集合墓だそうだ
納骨堂のような暗さと怖さがなく、お墓ほど大きくはない省スペースの集合墓だそうだ
ほぼ申し込みが埋まったという。お寺ビジネス、はじまってるな〜
ほぼ申し込みが埋まったという。お寺ビジネス、はじまってるな〜
たとえばこの集合墓の建物の柱は陶器でできててすごく高くなったらしい。色々なものが新しくなってる時代だが墓参りもデザインし直してるのだなと思う
たとえばこの集合墓の建物の柱は陶器でできててすごく高くなったらしい。色々なものが新しくなってる時代だが墓参りもデザインし直してるのだなと思う

バチ当たりなのか?問題

――この仏様おもしろいなと思うんですが、おもしろいことは悪いことではないんですか?

「ないと思いますよ。うちの本山である妙心寺の本堂の上に龍が描いてあるんです。別名が八方睨みの龍。真ん中に目があってどこから見ても睨んでいると。それは狩野探幽が江戸時代に描いたんですけど、当時のトリックアートですよね」

もうすでに本山がおんなじことをやっていた。それも狩野一派が。なら文句は言わせないだろう。しかしそれでもこのおもしろさには一抹の不安を覚えてしまう。仏像にこのおもしろさ、いいのだろうかと。
今の目標は4月8日の花まつり(お釈迦様の誕生日で甘茶を飲む日)を国民行事にすることだそうだ。そのために去年はホットケーキ(仏だから)を配ったという。
今の目標は4月8日の花まつり(お釈迦様の誕生日で甘茶を飲む日)を国民行事にすることだそうだ。そのために去年はホットケーキ(仏だから)を配ったという。

正しい動機と確かな行動力

――他にも小さいお墓作られたりお花まつりを国民行事にしたいと色々やられてますけど、檀家さんとか他のお寺さんに嫌味言われたり反対されたりしないんですか?

「五年前十年前だとわからないですけど、今はお寺でいろいろやってこうという気運が上がってるんですね。それこそお寺のフェスとかありますよね。

話題になってるところでいうとテクノ法要とか萌え寺とか。うちは色々やってますけど、まじめに、そもそもの仏教のところでちゃんと広めていきたい。あくまで本来における入り口のところですね。

お寺の地域のコミュニティの機能を高めていくために、そういう意味ではみなさんに知っていただくということが一番。ああいう仏像を作ってみなさんに知っていただいて足を運んでいただくんですね」

実際ここに取材をしに来て、お寺の教えをうかがったりしてるのでまさにそのとおりの結果なのだが、それでも錯視の仏像があるというのは衝撃的だ。
あ、せっかく写真撮るのに噴水がついてない!とお坊さんが走るところが
あ、せっかく写真撮るのに噴水がついてない!とお坊さんが走るところが
お坊さんが走るとどうしても師走感がただようなと思いました
お坊さんが走るとどうしても師走感がただようなと思いました

正しい動機とたしかな行動力でおかしな物が…

どこからでもこっちを向いてくる仏像はたしかにこっちを向いてきた。人々をおもしろがらせて実際に足を運んでもらいたい。それによってお寺や仏教に親しみをもってもらいたい。その動機も正しいものだった。

しかし、しかしそれでも錯視の仏像がそこにあるという事実は残るのだ。

今は4月8日の花の日にむけて盛り上がっているようだった。お釈迦様の誕生日をクリスマスのようなイベントにしていきたいのだという。

まったくもって正しい動機だ。仏教に親しみを持ってもらうために必要なことだろう。そしてあの新しい建物や錯視の仏像を見ると、行動力や資金力は十分なのだ。

副住職は4と8だから四葉モチーフのホットケーキ(仏だから)配ったり、48人のアイドル作るのがいいと言っていた。

正しい動機と確かな行動力で新しいものを生み出していく。どこからどう見ても正しいし楽しいのだが、私達だけは「それちょっと変わったことになってるかもしれませんね」という気持ちを持ち続けていたい。
四葉のホットケーキはやる。48のアイドルは未定
四葉のホットケーキはやる。48のアイドルは未定
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