特集 2018年4月2日
 

なぜ明太子が博多名物なのか、ふくやの社長に聞いてみた

なかなか売れなかった明太子

昭和24年の1月10日から『味の明太子』を売りだしたんですが、当初はなかなか売れませんでした。タラコは元々塩辛くて、焼いて食べることが多かったんです。それを生で、しかも唐辛子の液に漬けたものを食べろと言われても、ウェーっていう感じだったと思います。それがサンマ1匹10円の時代に100グラム120円ですよ。売れる訳ないですよね。まわりの反応は、辛すぎる、気持ち悪い。食べてみてよって配っても、お酒や水で洗って辛味をとった上で、焼いて食べていたそうです。
戦後すぐの日本人には、刺激的過ぎたんでしょうか。それがよくここまで売れるようになりましたね。
調味液に隠し味を加えたり、唐辛子のブレンドを変えたり、味の試行錯誤を繰り返し、ようやく売れるようになったのは発売から10年後です。明太子は祖母が好きだったんですよ。ばあちゃんも韓国で生まれて釜山で明卵漬を食べて育ったから。祖父がここまで明太子にこだわったのは、「うちの母ちゃんが好きだし、いっちょうまいのを作ってやるか」っていう想いだったのかもしれません。
昭和31年の川原ファミリー。一番右が祖父の俊夫、その左が祖母の千鶴子。写真提供:ふくや
昭和31年の川原ファミリー。一番右が祖父の俊夫、その左が祖母の千鶴子。写真提供:ふくや
奥さんに美味しい明太子を食べさせたくて、売れない商品の開発を10年間も続けたと。泣けますね。
喜ばせるためか、怒られないためかはわかりませんけど。まあ祖母は味にやかましい人でしたね。味見役はずっと祖母でした。祖父はいろんな味の実験をしていたみたいで、その余り物を食べさせられていた私の父や叔父は、毎食毎食、思いつきで作った変な味の明太子がでてきて、嫌だったといってます。

ふくやの名物から博多の名物へ

このような苦労の末に誕生した明太子が、ふくやの看板商品にとどまらず、博多を代表する名物にまで成長した理由がおもしろかった。
ようやく口コミで売れるようになると、中洲市場にあったふくやの店頭に、大行列ができるようになりました。店は入り口から4軒目の左側にあったんですが、市場の入り口が2か所あり、うちはメインの入り口側ではなく、おまけの入り口から4軒目。お客さんが間違えて、メイン側の4軒目にある『いとや』さんに買いに行っちゃうんですよね。もう大概にしてくれと。『四軒目の間違い』です。
あ、『三年目の浮気』みたいに言いましたね。
いとやさんには毎回ふくやはあっちだよと案内してもらっていたんですが、もうふくやの明太子を卸してもらって、うちでも売らしてくれと言われました。そうしたら祖父が、そんなこといわずに自分で作ったらいいじゃないかと、明太子の作り方やタラコの仕入れ先を教えたんです。もちろん秘伝の調味液の味付けだけは秘密にしましたが。
創業当時の中洲市場。これが『四軒目の間違い』の事件現場なのか。地図提供:ふくや
創業当時の中洲市場。これが『四軒目の間違い』の事件現場なのか。地図提供:ふくや
その次はお隣の店。ふくやに行列ができちゃって、隣の『向(むかい)』さんの入り口をふさぐんですね。邪魔だからなんとかしてくれと話があって、じゃあそっちでも明太子を作ればいいと教えたのが二軒目です。
お隣なのに向さん……。
さらにタラコの仕入れ先だった、現在の『かねふく』さんも作り始めたり、そんなノリでいろんなところに広がったことで、明太子はふくやだけの商品としてだけではなく、博多を代表する名物に成長しました。
博多駅のお土産物売り場には、明太子だけのコーナーがあった。
博多駅のお土産物売り場には、明太子だけのコーナーがあった。
なんだかすごい話ですね。でもここまで明太子屋さんが増えちゃうと、どこで買ったらいいのかお客さんは迷うと思うのですが、ふくやが元祖だぞっていうアピールとかはしないんですか?
確かに元祖ですけど、元祖とは名乗っていませんし、特許もとっていません。祖父が名乗ってどうなるんだといっていたので、今でもそういうことは言わないようにしています。元祖だろうがなんだろうが、美味しいところが支持されるだけ。初めに作ったというだけだったら、100年経ったらどこも一緒だろうと。創業100年と110年に何の違いがあるだという考えでしたね。

ふくやの『味』へのこだわり

それでは元祖を名乗らなくても売れ続けている、味のこだわりを教えてください。
一番こだわるのは素材です。ふくやで使うタラコは、未成熟でもなく、完熟しすぎたものでもない、ちょうど良いサイズのものだけ。それをオリジナルのレシピで塩蔵したものが、さらに選別やチェックを経て、ふくやの明太子になります。うちはかなり原料に対する基準が厳しいので、納品する業者さんも、ふくやに納品してますっていうのがプライドというか。他社と取引する場合も、それだったら大丈夫ということになるようですね。
本社一階の中洲本店には試食がたくさん用意されているというので、自慢の明太子を食べさせていただいた。
本社一階の中洲本店には試食がたくさん用意されているというので、自慢の明太子を食べさせていただいた。
そこには理由がありまして、ふくやの明太子はあんまりゴテゴテと味付けをしていないんです。ベースの素材が悪いとごまかしようがないので、魚卵の臭みが出ていないフレッシュなタラコじゃないと商品にならない。うちは調味液に漬けるのは一日から二日までで、長くは漬けません。それを超えると旨味が抜けていってしまう。
これでも商品の一部。明太子ってこんなに種類があるのか。
これでも商品の一部。明太子ってこんなに種類があるのか。
素材の持つ旨味の中には嫌味もあるんですね。この嫌味を全部抜こうとすると旨味も抜けてしまう。嫌味を上手に追い出して、旨味を残して食べるのがいいのですが、どこで止めるのかが肝心です。最初の素材に嫌味が多いと、どうしても上から乗せた味が中心になっていくんですね。それならふくやの明太子じゃなくてもいいんじゃないの?と。あくまでうちの場合はそうしているっていう話ですけど。
元の素材がいいから、シンプルな味付けで勝負できると。
ちゃんと狙ったようにできた明太子は、断面を見るとわかると思いますが、内側と外側で味が違うんです。 食べた時に段階的に味が変化していくんですね。肉でも上手にレアで焼けたものは、外はカリッとしていて中は肉汁がたっぷりでジューシーじゃないですか。この味のグラデーションが出ないと、べたっとした味になってしまって、我々はあんまり好きじゃないんです。
外側は調味液の味が程よく染み、中側はタラコの味を残したこだわりのグラデーション。
外側は調味液の味が程よく染み、中側はタラコの味を残したこだわりのグラデーション。
調味液には酒類を使いません。他社ではお酒やみりん、醸造アルコールなどを使っていると思うんですが、アルコールでタラコの臭みを消すと、どうしても唐辛子の風味も消えてしまいます。元々のタラコが良ければ、そういったもので消す必要もありませんから。
なるほどー。
今後も明太子のメーカーが増えるのは大歓迎です。その時々で流行りの味が出てくるんですけど、一回よその明太子を買われても、しばらくすると戻ってきてくれるというのが、ふくやの味。食べ飽きないというか、この味がベースであり原点なんです。秘伝の調味液の作り方は会長と工場長しか知らなくて、実は社長の私もまだ教えてもらっていないのですが……。

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