特集 2018年4月22日

書き出し小説大賞第145回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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一瞬で広げることができる折りたたみ式テントを買った。でもコレ、しまうときの折りたたみ方が異常に難しく小一時間も掛かってしまった。ようやくたためたときは伝説のドラゴンを倒した気持ちになりました。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

大砲の内側はひんやりしていた。
もんぜん
こっちをみていたパンジーは、おじさんの顔をしていた。
かさなり
娘が失恋をしたとき、父親は何をすればいいのだろう。
山本ゆうご
僕らはアラームを止める旅に出た。
ヘリコプター
あなたがほしい。ひとくちだけでいいから。
さくさく
土鍋にそういった機能は備わっておりません。
反骨心のアップリケ
「ニットキャップ、裏返しですよ」と言えぬうちに行ってしまった。
井沢
にゅうめんくらいファジーな存在でありたいせざるを。
あや幹部
ついでの展望台で泣いてしまった。
suzukishika
そのポスターは、傾いていることで存在感を示した。
まじいい
浴室のタイルのカビ模様、楽しかった頃の僕の顔。
トミ子
泣き虫裁判官、死刑を宣告する。
中山っぺ
亜空間で剥がれ、湿布は丸まった。
大伴
俺と入れ替わった熊が、俺を追う。
はらげん
隠れ家的カフェの床にはいつも薬莢が転がっている。
くのゐち
今まで沢山泣いたし...そろそろ換金しようかしら
まるこ
尻が出ているからといって尻を出しているとは限らないのです。
正夢の3人目
寸評

●もんぜん氏「大砲の内側」発射される前のピエロか、迷い込んだ猫か。昔の戦場を訪ねた作家にもとれる、多様な読みができる書き出し見本。
●山本ゆうご氏「娘が失恋」バッドエンドしか浮かばない物語のはじまり。
●さくさく氏「あなたがほしい」素直な直球が刺さるときもある。
●あや幹部氏「にゅうめん」にゅうめんを悪く言う人はいない気がする。字面って大切。
●中山っぺ氏「泣き虫裁判官」西田敏行あたりでドラマ化にして欲しい。
●正夢の3人目氏「尻が出ているからといって」どういう立場の人間がなんの目的で言っているのかさっぱり分からないがそこがいい。

つづいては規定部門。今回のテーマは『部活動』であった。カキダッソー、ファイッ!オウ!(掛け声)

規定部門・モチーフ『部活動』

学校一野球が上手いアイツは、吹奏楽部にいる。
ミラン
幽霊部員だけ体育館に集められ、お祓いを受けている。
カズマンヌ
帰宅部だった僕たち4人の写真は園芸部として卒業アルバムに載っていた。
xissa
クイズ研究部には代々の部長しか答えをしらない問題が受け継がれている。 もんぜん
弓道部の女子は、みんな美人に見える。
住民パワー
ちくわ部とちくわぶ部は仲が悪い。
哲ロマ
カルタ部がまた、ちはやぶっている。
タクタクさん
兼任の顧問がユニフォーム姿で茶室に入ってきた。
g-udon
カルロスは1日で茶道部をやめた
白い人口
梅酒部は待つことしかできない。
正夢の3人目
名門ハンドベル部、最後の冬。
Mch
引退のタイミングで言うのもなんだけど、ワンダーフォーゲルって何?
くのゐち
汗汗汗臭汗汗汗臭汗臭汗臭汗汗汗
ぐぬぬぬぬ
右折部はほぼ帰宅部だが左折出来ない。
ヘリコプター
強豪中学のエースだった津田君と同じクラスになった。津田君は私のことを知らない。
山本ゆうご
校長先生がプールの水面を歩いている。また奇跡部の仕業だ。
住民パワー
帰宅部のスカウトが帰らせてくれない。
松っこ
いつも部室に集まっていた私たちは、いったい何部だったのだろう。
たこフェリー
ポルターガイストは、防具が干される部室で起こる。
はらげん
自己ベストを更新した。ついに16時前に自宅に着いた。
セッドあとむ
「温めますか?」「お願いします。」今日も補欠だ。
昼行灯
生徒が一人居なくなる度に顧問の指は増えていった。
轍眼鏡
部費はマネーロンダリング部からペーパーカンパニー部へと流れ、教頭の毛髪を豊かにした。
吉田髑髏
卒業式で僕が開けた部室の窓は、もう閉まることはない。
一夜漬けメンマ
今でも練習を思い出すと吐きそうになる。
アメリカンざりがに
寸評

●ミラン氏「学校一野球が上手い」吹奏楽部じゃお荷物だったりするのだろうか。
●カズマンヌ氏「幽霊部員だけ」この場合の成仏とはどんな状態だろうか。
●住民パワー氏「弓道部の女子」本当のことなので採用せざるを得ませんでした。
●白い人口氏「カルロスは」ラテン系には合わないかもしれない。
●ヘリコプター氏「右折部」帰宅部ネタをさらにひねった凝った作品。
●山本ゆうご氏「強豪中学のエース」この微かなBL感。
●轍眼鏡氏「生徒が一人」なくてもいいホラー要素、という新しい試みを評価しました。
●アメリカンざりがに氏「今でも練習を」練習で吐いたことのない者にとってはちょっと憧れですよ。吐けた人。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「架空の自伝」
次回のテーマは自伝の書き出しです。ただし架空の人物。自分を含めて実在の人物は避けて下さいね。(ただし自分の記憶、経験をネタにするのはオッケー)もうひとつの縛りは一人称です。どの記憶から語るか、どんな口調ではじめるか、創意が問われるところだと思います。締め切りは5月11日正午、発表は5月13日を予定しています。下記の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
人馬一体勘/ミミズグチュグチュ/七世/茂具田/空想庭園/栗山酉太郎/ハンニバル・ハルカ/トースト記念日/小柳はる/なかもりばなな/
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