とくべつ企画「外でやる」 2018年4月25日

ミシンで写生してみた

なんか事情のある人。
なんか事情のある人。
普段屋内でしかしないことといえば、私の場合は工作作業だ。特に、容易に外に持ち出せない工具で作業するとなると、それはもう屋内に限られる。今や私はもやしっ子。

今回、発電機を借りられるということなので、ぜひ私の愛機をおそとに持ち出し、目の前の風景を「縫って」写生してみたいと思う。

※この記事はとくべつ企画「外でやる」のうちの1本です。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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灼熱の野外刺繍

取材当日。古賀さんも発電機を使っての記事を書くということで、一緒に多摩川の川辺にやって来た。レンタルしたコンパクト発電機をゴロゴロ引いてきたのは、担当編集の石川さんだ。

カートで各自が家から家電を運んできたのだが、この日は大変暑く、その上これから発電機を起動しようってんだから恐れ入る。
あちーあちー言ってる。
あちーあちー言ってる。
古賀さんが電子レンジを河原に置いた、のを遠くから見つめる。
古賀さんが電子レンジを河原に置いた、のを遠くから見つめる。
私も準備しようかね。ミシンと、布と、それから色とりどりのミシン糸を地べたに広げる(この時点で「敷物」という概念が3名の誰にもなかった)。
地面に置かれてびっくりする一同。
地面に置かれてびっくりする一同。
そんなにびっくりするなよ。私だって驚いてんだから。

幸いこの日は暑いが無風で、砂や埃が機械に入ってしまうことはたぶんなさそうだ。これで砂利なんか挟まってミシンがオシャカになったら、暑い日だけど思い切り泣く。

古賀さんのご飯が炊けるまで、念のためミシンはつながずに、風景を見て下絵を描こうと思う。そうです私は写生しに来たんです。
ペンで比率を測ってもまったく意味がないのである。
ペンで比率を測ってもまったく意味がないのである。
河原ということで予想はしていたが、線路や建物などのビューポイントが大変離れていて、このまま描いてもつかみどころがないな。
目の前にこういうパノラマが広がっていた。右端、こんな人いたかな・・・
目の前にこういうパノラマが広がっていた。右端、こんな人いたかな・・・
この景色をなんとかA4くらいのキャンバス(文字通り、キャンバス地の布である)に、色が消えるチャコペンでギュギュッと凝縮して描いてみた。
魚眼レンズ級に凝縮します。
魚眼レンズ級に凝縮します。
すでにかなり不安ではあるが、まあいい。
そうこうしているうちに、古賀さんのご飯が炊けた。

書いていて改めて思うが、なんなんだこの流れは。炊けた、って。
しかしひるまずに、進めよう。ミシンのコードを発電機に差し替える。
正座してミシン。目線の高さの違いにおののく。
正座してミシン。目線の高さの違いにおののく。
そして、行きますよ、スイッチオン!!
ついたついたー!と当たり前の結果に沸く一同。
ついたついたー!と当たり前の結果に沸く一同。
当たり前だが、ミシンが起動した。静かな感動が押し寄せる。ニコタマの河原で、今、私のミシンに電気が流れているぞ。我が家レベルでは歴史的瞬間である。明治時代、初めて見る電線に風呂敷包みくくりつけていたおばあさんの心境だ。

発電機のバイクのような動作音が、いやがおうにも盛り上げる。気温も上げる。
屋外で刺繍、ミシン、縫い物、発電機、川べり。風流なんだか地獄なんだかわからない時間が始まる。

さっそく上糸と下糸をセットして、縫い始めるわけだが・・・ここでちょっとつっかえてしまった。上糸を、私、どうやってセットしてましたっけ?
あれれ?昨日までできてたのに。あれ??
あれれ?昨日までできてたのに。あれ??
これには少しおののいた。家ではスススイッと当たり前にできていた手順が、野外という特殊な環境に置かれたせいか、頭から抜け落ちてしまったのである。
しかし深呼吸して、家にいたときの気分を思い出してゆっくりやったら大丈夫だった。
しかし深呼吸して、家にいたときの気分を思い出してゆっくりやったら大丈夫だった。
これは面白い経験でした。しかし面白がってばかりもいられません。時間内に、ミシンで一枚の絵を縫って完成させなければ。
あらゆる縫い方(ステッチ)を駆使してまいります。
あらゆる縫い方(ステッチ)を駆使してまいります。
しかし、暑い。何も遮るものがない、11時。ほぼ真上に太陽が来ている、その中で今からじっとミシン掛けだ。どんな酔狂ぶりだこりゃ。
黒いパンツが日光を容赦なく吸収するので、布でガードする。
黒いパンツが日光を容赦なく吸収するので、布でガードする。

なんだか不安な風景画

では、始める。
「うわー、河原で縫ってるよ!今!私!炎天下で!」という顔。
「うわー、河原で縫ってるよ!今!私!炎天下で!」という顔。
おそとなので、てんとう虫さんも遊びに来ました。どかないと縫い込むぞ。
おそとなので、てんとう虫さんも遊びに来ました。どかないと縫い込むぞ。
まずは、東急の鉄橋と電車を、ジグザグ縫い。
コンクリート色の糸を忘れたのでいきなり自由な色選択に。オリーブ色の鉄橋になった。
コンクリート色の糸を忘れたのでいきなり自由な色選択に。オリーブ色の鉄橋になった。
あの赤い橋と鉄塔は貴重なビューポイントだ。
あの赤い橋と鉄塔は貴重なビューポイントだ。
では縫い込みましょう。鉄塔が地味にめんどうだ。
では縫い込みましょう。鉄塔が地味にめんどうだ。
あのオレンジのマンション、手前の鮮やかなブルーはぜひ縫い込みたい。
あのオレンジのマンション、手前の鮮やかなブルーはぜひ縫い込みたい。
では縫いましょう縫いましょう。
では縫いましょう縫いましょう。
おわかりと思うが、ポイントごとに上糸と下糸の色を替えねばならない。そして奥の景色から縫わないと重なりが変、など(のちにこの気配りは意味なくなる)ミシンならではの苦労があった。
暑いので急いで糸を替える。
暑いので急いで糸を替える。
こんな苦渋の表情で私は縫い物をしていたのか。
こんな苦渋の表情で私は縫い物をしていたのか。
暑いので、どんどん抽象的表現に傾倒していく。ジグザグ縫いで水面の波を表現。
暑いので、どんどん抽象的表現に傾倒していく。ジグザグ縫いで水面の波を表現。
通行人も興味津々のご様子なんだが、そちらを見上げる暇もなかった。いやぁ、何かのパフォーマンスと思っていただければ・・・
通行人も興味津々のご様子なんだが、そちらを見上げる暇もなかった。いやぁ、何かのパフォーマンスと思っていただければ・・・
「もういいかな!」「いいな、これで!」と、作品にも自信がない上、そして何より暑いので、周囲に完成の同意を求めまくる。

はい完成です。
ダリの初期の抽象画ってこんな感じですよ。
ダリの初期の抽象画ってこんな感じですよ。
縫い込まれているはずの風景をバックに。思い切り逆光で。
縫い込まれているはずの風景をバックに。思い切り逆光で。
ダリを持ち出してなんとか誤魔化そうとしたが、どうにも不安になる風景画が出来上がった。崩壊したアスキーアートみたいだ。

太陽の下、元気に屋外でミシンがけしても、陽気な絵ができるわけではないと知ることができた。

まとめ

いやー、予想はしていたが、ミシンで刺繍、普段でも難しいのにそれを野外で作業とは、なかなかの修行であった。

でも発電機があると普通に河原でミシンがけできるのは、当たり前だが新しい発見だった。欲しいぞ発電機。買ったらキャンプでみんなの服を補修しよう。
そしてすごく焼けてた。ミシン焼けとしておきましょう。
そしてすごく焼けてた。ミシン焼けとしておきましょう。

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