特集 2018年4月27日

江ノ電もなかと都電もなか

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江の島の名物「江ノ電もなか」。そのお菓子にそっくりな「路面電車のもなか」がある?という情報があり、はまれぽ.com編集部で調べた。

もなかだけではない、意外な共通点もある「江ノ電」と「都電」。その歴史と背景を調査しました。

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藤沢駅から鎌倉駅までを結ぶ江ノ島電鉄。湘南エリアの足として、また観光目的でのファンも多い路線だ。
海と江ノ電はとても絵になる
海と江ノ電はとても絵になる
海沿いを走る距離が長いことから、車窓からの景色のほか、走る様子を見るのも楽しい。

そんな江ノ電をモチーフにした、「扇屋」の「江ノ電もなか」をご存じだろうか。江ノ電 「江ノ島」駅から徒歩3分ほどにあるこのお店は、外観が特徴的なので見た覚えがある方も多いかもしれない。
江ノ電の旧型車両を活用した店構えが印象に残る
江ノ電の旧型車両を活用した店構えが印象に残る
江ノ電の車庫? と思ってしまうが、れっきとした和菓子屋さん。しかも天保年間(1830~1844年)に創業し、200年近い歴史を誇るという老舗中の老舗だ。

こちらで製造・販売されているのが「江ノ電もなか」。ここでしか買えない名物ということで、甘いものに目がない筆者は即座に購入した。
10個セット(1430円/税込み・以下同)を購入。包装紙からかわいい
10個セット(1430円/税込み・以下同)を購入。包装紙からかわいい
昔ながらの切符を彷彿とさせるパッケージ
昔ながらの切符を彷彿とさせるパッケージ
もなかの箱はとても凝っている。上から見ると切符風のデザインだが、横から見ると車両が描かれているのだ。全5種類で各車両2個づつ入っているのも、2両1編成の江ノ電と同じで気が利いている。
箱で遊び始める筆者。よく見ると、車窓には江の島の光景が
箱で遊び始める筆者。よく見ると、車窓には江の島の光景が
「江ノ電もなか」にはいくつか味のバリエーションがある。「江ノ電」の味が一番スタンダードなあんこで、ゴマ餡や梅餡、ゆず餡などさまざまだ
車両のデザインごとに中身の味が異なるのだ
車両のデザインごとに中身の味が異なるのだ
どれも自然な甘さで大変おいしい。普段食べているお菓子よりも、身体に染みわたるようなやさしさがある。
お土産にも喜ばれそう   
お土産にも喜ばれそう  
ところが、鉄道好きの友人に江ノ電もなかの話をすると、「そっくりなお菓子が都内にもある」という。その名も都電荒川線をモチーフにした「都電もなか」。

どちらも道路を走る電車であり、共通点も多い2つの路線。お菓子まで被るとはどういうことだろう。実態を調査した。
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都電と江ノ電、どちらが先?

「都電もなか」を販売しているのは、東京都北区の都電荒川線「梶原」駅近くの「菓匠明美(かしょうあけみ)」。
はるばるやってきた
はるばるやってきた
こちらは創業60年。お店の歴史では扇屋に軍配が上がる
こちらは創業60年。お店の歴史では扇屋に軍配が上がる
どれくらい似ているのか。早速購入してみよう。
こちらが都電もなかのパッケージ(1両/144円)
こちらが都電もなかのパッケージ(1両/144円)
包装紙から少し似ている。レトロな雰囲気は共通しているようだ。
全7種類からランダムで入れてもらった
全7種類からランダムで入れてもらった
包装紙を開けると、なかなか写実的な都電の車両が描かれたパッケージが。江ノ電もなかは1990(平成2)年まで使用されていた江ノ電600形をモデルにしているのに対し、都電もなかは新型車両も含めた歴代のデザインを使用しているそうだ。

デザインは違えど、箱の形はそっくり。中を比べてみると・・・。
上が江ノ電もなか、下が都電もなか
上が江ノ電もなか、下が都電もなか
本体のデザインはまるで違う。それぞれ歴史ある和菓子屋さんが作るものなので、当然と言えば当然か。

ちなみに都電もなかはデザインが違っても味は1種類のみ。あんこの中にお餅が入っていて食べ応えがあり、江ノ電もなかの中では「江ノ電」の味に近い。だが、より甘みが強いように感じて、ひとつ食べれば満足感がある。

キニナルのが、これらの「電車もなか」が作られたタイミング。
江ノ電もなかの発売日は、実はパッケージに明記されている。
切符の日付、1985(昭和60)年4月1日が発売日
切符の日付、1985(昭和60)年4月1日が発売日
一方、都電もなかの発売は1977(昭和52)年。全面廃止の危機にあった都電の歴史を残そうと考案されたという。1984(昭和59)年の全国菓子博覧会で厚生大臣賞を受賞し、全国的に人気を博したようだ。

しかも同様のお菓子として、大阪府堺市には、同市を走る路面電車をモチーフにした「ちんちん電車もなか」も同時期に出現しているという。もはや発売当時に「路面電車もなかブーム」があったのだろう。

・・・だが、よくよく確認してみれば、江ノ電は路面電車ではないらしい。
路面を走っているのに!?
路面を走っているのに!?

全国で唯一、「路面を走る普通鉄道」

路面電車と言えば、車が走るような道路上にレールが引かれ、そこを電車が走る姿が思い浮かべられる。逆に言えば、路面電車でない普通の電車は、路上を走ることが許可されないのだ。ご存じの通り、江ノ電もしっかり路上を走る区間がある。

江ノ電は1902(明治35)年に開業し、当初は軌道業(路面電車)として営業していた。
その後、戦時中に国策として普通鉄道に変更された経緯があるようだ。その際に路面電車として道路と並走していた部分はそのまま残されることになった。
有名なのは「龍口寺」前。扇屋もこの辺り(フリー画像より)
有名なのは「龍口寺」前。扇屋もこの辺り(フリー画像より)
そのため、江ノ電は今でも例外的に路上を走る許可を得ているという。そのような普通鉄道は、もちろん全国で江ノ電だけだ。

江ノ電が道路を走る、「併用軌道」はなかなか長い。江ノ島~腰越間のほか、七里ヶ浜付近や稲村ヶ崎付近などを合わせて計980メートルにわたり、道路上を走っているのだという。
江ノ島から腰越間のうち、交差点以降の直線はほとんどが併用軌道だ
正真正銘の路面電車である都電は、現在はほとんど「専用軌道(普通の線路)」を走っており、車と一緒に走るのは王子駅前~飛鳥山間の500メートルのみだ。
東京都北区飛鳥山付近の様子
東京都北区飛鳥山付近の様子
東京都交通局が管轄する公営の都電と、江ノ島電鉄株式会社が運営する私営の江ノ電はその由来も現状も異なるが、昔ながらの雰囲気や観光客からの人気などは共通している。
2013(平成25)年には、映画のタイアップに関連して合同キャンペーンを行うなど、歴史ある2路線の間では交流もある。

かつて都電の全面廃止が検討されたのは、1964(昭和39)年の東京五輪を控え、交通渋滞を解消することが目的だった。一方、2020年のオリンピックでセーリング会場となる江の島への交通手段として、江ノ電の存在が注目を集めている。こんなところにも二つの路線の因果を感じてしまう。

二つの電車のつながりは“もなか”だけにとどまらないようだ。
結論としては、どちらもおいしい
結論としては、どちらもおいしい

取材を終えて

もなか菓子と言えば和菓子の定番でもある。交通の在り方が変化する中で、地域の和菓子屋さんが趣向を凝らして路面電車の姿を残そうと思ったのかもしれない。すでに代替わりを迎え、発売当時の詳細は分からないようだ。

どちらも地域から、そして観光客から愛される二つの路線。これからも楽しくおいしい電車であってほしい。


ー終わりー
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