特集 2018年4月27日
 

「量産型ダム」の見分けかた

これが量産型ダムだ

今回、関東近郊を見渡して、僕が以前から「これぞ量産型!」と思っていたダムをめぐった。場所は次の4ヶ所である。
松田川ダム(栃木県)、大仁田ダム(群馬県)、古谷ダム(長野県)、琴川ダム(山梨県)
「量産型ダム」という括りで見ればほかにもたくさんあるのだけど、僕がこの4ダムにこだわった理由を写真で見ていただきたい。
松田川ダム(栃木県足利市)
松田川ダム(栃木県足利市)
大仁田ダム(群馬県甘楽郡南牧村)
大仁田ダム(群馬県甘楽郡南牧村)
古谷ダム(長野県南佐久郡佐久穂町)
古谷ダム(長野県南佐久郡佐久穂町)
琴川ダム(山梨県山梨市)
琴川ダム(山梨県山梨市)
お分かりいただけただろうか。

果たしてこの4ダム、キャプションがなかったとして見分けつくだろうか。正直、僕は自信がない。そのくらい似ていると思う。参考までに、各ダムの高さや長さ、管理者は次の表の通り。
貯水容量はともかく堤体の大きさはほとんど同じくらい
貯水容量はともかく堤体の大きさはほとんど同じくらい
高さが50m前後、横幅が200m前後、管理は各都道府県。この要素に当てはまるダムは全国にたくさんあって、そして似ているダムも非常に多いのだ。

しかし、スペックが似ているだけで「量産型ダム」と呼ばれているわけではない。前ページの下久保ダムの例を頭の片隅に置いて、もういちど写真を見てほしい。
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
1が非常用洪水吐、2が常用洪水吐
...お分かりいただけただろうか。

すべて、非常用洪水吐が4つ、そして真ん中へんに常用洪水吐が1つというレイアウト。そして、写真では分かりにくいけれど、非常用洪水吐にも常用洪水吐にも水門やバルブなどが設置されていない、単に穴が空いているだけの自然越流式という構造なのだ。縦横比の違いこそあれ、同じくらいの大きさで、見た目が似通っていて、ダムを構成している要素がまったく同じ。これこそが「量産型」の所以である。
ちなみに、常用洪水吐より下に貯まっている水も放流できるように、各ダムとも下の方の見えない場所にバルブや水門を備えている。

そして、各ダムの役割は次の表のようになっている。
基本的には「川の水量の増減を一定の範囲内に収める」という役割が主
基本的には「川の水量の増減を一定の範囲内に収める」という役割が主
川の水があふれるのを防ぎ、川の水が枯れるのを防ぎ、必要があれば下流の飲み水を貯め、場合によっては発電をする。しかしなぜ水門がついていないのだろう。そして、水門もなく穴が空いているだけでどうやって洪水調節をするのか。

そこは、規模や予算といった要素が関係してくる。そしてそれも「量産型」の重要なファクターなのだ。

まず、大雨が降ると上流からダム湖に水が流れ込んでくる。このとき、下流に流して安全な分は放流しつつ、それ以上の分を貯めていくのは水門のあるなしに関係なく同じである。

このとき、水門があったほうが水を貯めたり流したりといった戦略的な幅が広がるのは確かである。しかし、流域面積と言って、降った雨がダム湖に流れ込んでくるエリアの面積が狭いと、雨が降ってからあっという間にダム湖に到達してくる。ダムの水門は大きく重いので動作に時間がかかるため、流域面積が狭いダムでは、流れ込んでくる水量の変化に操作が間に合わなくなる恐れがあるのだ。そこで、流域面積が一定以下のダムでは、規模の大小に関わらず水門を設置しない「自然調節」という方式が採られている。

また、自治体管理のダムは国交省などのダムに比べて少ない予算、少ない人数で運用しているので、水門のメンテナンスや細かい操作が必要ない自然調節方式にしているところも多い。そんなわけで、量産型ダムは「自治体型ダム」とも呼ばれることがある。

自然調節ダムは、常用洪水吐の穴の大きさが下流に流して安全な量ということになる。ふだんはダム湖の水が常用洪水吐の穴の下端の部分で満水状態になっていて、余分な水は常用洪水吐から流れ出ている。雨が降ってダム湖に流れ込む量が増えると、常用洪水吐から流れ出る量も増えてくる。もし放流量より流入量の方が多くなれば、その差がダム湖に貯まってゆき、ダム湖の水位も上がっていく。すると放流量も自動的に増えていく。
自然調節方式を解説した読み物サイトがかつてあっただろうか
自然調節方式を解説した読み物サイトがかつてあっただろうか
流入量が多い状態が続けば、やがてダム湖の水位は常用洪水吐の穴の上端を超えていく。このとき、穴の大きさいっぱいに放流される量、それが下流に流して安全な量の上限ということになる(実際はさらに水位が上がれば水圧がかかり放流量はもう少し増える)。もし大雨が通り過ぎ、流入量が減ってくればダム湖の水位に合わせて放流量も徐々に減っていく。逆に、流入量が減らなければ水位がどんどん上がって、非常用洪水吐の下端を超えると全体の放流量は下流に流して安全な量の上限を超えるので、ダムの計画を超えた大雨、ということになる。洪水との戦いは延長戦に突入、下流の人々には避難をしていただいて、非常用洪水吐からの放流がさらに増え、流入量と放流量が同じになる、つまりダムがあってもなくても同じ状態になるところまで、洪水調節は続くのだ。
このあたりが理解できるようになると台風来るたび気になって寝れなくなる
このあたりが理解できるようになると台風来るたび気になって寝れなくなる
量産型ダムに必要なファクターとは言え、洪水調節を語り出したら長くなってしまった。

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