特集 2018年5月16日

絵本作家に聞く、味のある動物の描き方

画伯作。
画伯作。
知り合いが絵本作家としてデビューした。

その画風は独特で、美術の素養のない僕には上手いのかどうか正直よくわからないのだけれど、たしかに真似できない魅力があることは確かだ。絵本とはそういうものなのかもしれない。

今回は彼が絵を描くために毎日のように通い詰めたという動物園で、味のある絵の描き方のコツを教えてもらいました。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

元セクシーキラーさん

知り合いがこのたび絵本作家としてデビューした。

福音館書店という絵本界では大手の出版社からのデビューなので冗談ではないようだ。タイトルは「おかおみせて」、著者は「ほしぶどう」さん。
「ほしぶどう」さん。
「ほしぶどう」さん。
「ほしぶどう」さんとは数年前からのお付き合いなのだけれど、僕が出会ったころには確か「セクシーキラー」という名前だった。

セクシーキラーさんは当時DJとして活動していて、ステージ上の彼は後ろ半分布がないスーツを着ていた。僕が出場したデザイナー歌合戦というイベントを仕切っていたのも彼である。

いま説明していてあれは全部夢だったんじゃないかと思っている。

ただ、セクシーキラーさんがほしぶとう、という名前になって絵本を出したというのは事実だ。どうしてそういうことになったのか、今日はそこを含めて話を聞きたい。

動物の絵本ということで、動物園で待ち合わせをした。
人いっぱいですね。
人いっぱいですね。
平日にもかかわらず上野動物園は入場待ちの行列ができていた。みんなジャイアントパンダの親子「シンシン」と「シャンシャン」を見るために開園前から並んでいるのだ。

僕はほしぶどうさんの指示どおり開園30分前に集合したのだけれど、これでは入るに入れないではないか。ほしさん、どうなっているんですか。
「いや、これは気にしなくていいんです」と、その横をすたすたと歩いていくほしぶどうさん。
「いや、これは気にしなくていいんです」と、その横をすたすたと歩いていくほしぶどうさん。
「正面入り口から入ろうというのは素人ですから。」
「正面から入ろうというのは素人ですから。」

プロはパンダにこだわらない

今回の絵本を書くため、ほしさんは約1年にわたり100回以上動物園に通ったのだとか。

「パンダを見るなら整理券をもらうために並んで正面から入る必要がありますが、そうでなければ比較的空いている弁天口から入るのがおすすめです。」

僕は実はちょっとパンダが見たいが、今日は取材ということでがまんして、いわば上野動物園のプロに動物園の上手な楽しみ方を教えてもらいたいと思う。
比較的、というか同じ時間なのに完全に誰もいなかった。
比較的空いている、というか同じ時間なのに誰もいなかった。
上野動物園弁天口は最近になって新しく整備された出入口らしい。

正面口はJR上野駅から少し歩く必要があるが、こちら弁天口だと京成上野駅からすぐなのである。いったいどこから乗ると京成上野に着くのか僕は知らないが、駅が近いというのはいいことだろう。

弁天口から入ると空いている以外にもいいことがある。入るとすぐに「子ども動物園すてっぷ」があるのだ。
チケットを買うときに「こちらからだとパンダは見られませんよ」と確認されると思うが、強い気持ちではい!と答えよう。
チケットを買うときに「こちらからだとパンダは見られませんよ」と確認されると思うが、強い気持ちではい!と答えよう。
ほしぶどうさんの上野動物園でのおすすめがここ「子ども動物園すてっぷ」である。ここはいわゆる「ふれあい動物園」で、子どもたちが動物に実際に触れることができる。もちろんパンダはいない。
「ここは動物が近いから写真を撮りやすいんです。」
「ここは動物が近いから写真を撮りやすいんです。」
ほしぶとうさんの描く絵はかなり独特なのだけれど、その準備段階としてまず対象物の写真を撮っていくのだという。カメラにこだわりはなく、今日は撮ってすぐ絵を描きたいのでタブレットを使っている。

動物の写真を撮るために気を付けることとかあるのだろうか。
「あるといえばあるし、ないといえばないです」
「あるといえばあるし、ないといえばないです」
実際に撮ってみるとわかるのだが、動物たちは動くのでなかなか写真におさめるのが難しいのだ。写真が撮れないと絵も描けないので、自然と撮りやすい動物を選んでいくことになる。そういう視点から選んだほしぶどうさんの一推しがこちら。
まあそうなりますわな。
まあそうなりますよね。
ハシビロコウである。最も写真を撮りやすい動物のひとつと言っていいだろう。なにせほとんど動かないんだから。
この日もばっちり動かなかった。
この日もばっちり動かなかった。

エサやりの時間帯をチェックしよう

「ハシビロコウも今日はいい所にいますね」

ほしさんいわく、動物園の動物たちは自分たちのエサの時間を完全に把握しているらしく、それに合わせて起きたり騒いだりするらしい。エサの時間がだいたい朝の10時くらいと夕方の15時くらいなので、そのタイミングで行くと元気な動物が見られるそうだ(ただし動くから写真は撮りにくい)。

「あとはゾウみたいな大きな動物や、プレーリードッグみたいな小さくてもたくさんいる動物は写真が撮りやすいですね。」
ゾウとか
ゾウとか
プレーリードッグとか。
プレーリードッグとか。
てきとうに写すと何匹か写っている系の動物がお勧め。
てきとうに写すと何匹か写っている系の動物がお勧めである。

セクシーキラーはどうやって絵本作家になったのか

今日は一緒に福音館書店の編集の方にも来てもらっている。
動物園の魅力を語るほしさん、その奥にいるのが担当編集の紅さん。
動物園の魅力を語るほしさん、その奥にいるのが担当編集の紅さん。
編集の紅さんに、どうしてセクシーキラーあらためほしぶどうさんが絵本作家になれたのか聞いたところ

「これまでも何度もほしさんの絵は見たことがあったんですが、どこか惹かれるものがあったんですよね。」

と言っていた。漠然としたきっかけである。僕たちが絵本作家になりたい場合はどうやってその「どこか惹かれる絵」を描いたらいいのか。

もやもやしながら歩いているとほしさんがにこにこしながら指をさした。
「みて!みてください、ホッキョクグマ。」
「みて!みてください、ホッキョクグマ。」
ホッキョクグマですね。
ホッキョクグマですね。
ほしぶどうさんはなにしろ楽しそうに見える。絵本作家もDJも、やはり人を喜ばせることが生きがい、みたいな人にむいているのかもしれない。

いま無理やり絵本作家になるためのコツみたいなところを探り出そうとしていたのだけれど、ほしさんはそんなことお構いなしにホッキョクグマの写真を撮っていた。

「ホッキョクグマはいつも同じところをぐるぐる回っていて心配になることが多いんですが、エサの時間に見に来るといい表情を撮ることができるんです。」
ホッキョクグマもエサタイムの10時前後がみどころ。
ホッキョクグマもエサタイムの10時前後がみどころ。
確かにホッキョクグマは気持ちよさそうに歩き回ったり、たまに水に飛び込んで魚を食べたりしぶきをあげたりしていた。
気持ちよさそう。
気持ちよさそう。
ほしぶどうさんは言う

「毎日来ているとなんとなく動物の調子がいい日と悪い日があるのがわかるんです。調子のいい日はいい顔してるし、悪い日は表に出てこなかったりします。」

なるほど、そうやって動物のこまかい変化まで知ることで絵に味が出て絵本作家になれるのかもしれない。
こっちにもほしぶどうさんの推し動物がいるという。正直あまり他のお客さんは見ていないブースだ。
ここにもほしぶどうさんの推し動物がいるという。正直あまり他のお客さんは見ていないブースだ。
「ヘビクイワシ」
それは「ヘビクイワシ」。
ヘビクイワシもほしぶどうさんの推し動物で、今回の絵本にも描かれているらしい。なにせこのシェイプである、味のある絵にしたときにも映えるのだろう。
他にも爬虫類館がおすすめと言っていました(あまり動かないから)。
他にも爬虫類館がおすすめと言っていました(あまり動かないから)。
おすすめの動物たちを一通り見て回ったところで、いよいよ味のある絵の描き方について教えてもらった。
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味のある動物の描き方

それではここで、今日見た中から気になった動物を実際にほしぶどう画伯に描いてもらいたいと思う。

きっとそこには味のある動物の描き方のコツがあって、それを学べば僕たちも絵本作家になれるのではないかと思うのだ。

1.写真を見ながら下書きをする

最初に写真を見ながら鉛筆かシャープペンシルで下書きをする。この時気にするのは全体の輪郭であって、あまり細かいところは見なかったことにするらしい。
予想の倍くらいの速さで描いていきます。
予想の倍くらいの速さで描いていきます。
下書きはこのくらいの粗さで大丈夫。
下書きはこのくらいの粗さで大丈夫。

2.下書きをペンでなぞる

鉛筆で下書きした上をペンでなぞっていく。ほしぶどうさんは「ファーバーカステル」というドイツ製のペンを使っていたが、これも特になんでもいいらしい。
「輪郭は丁寧に、細部はおおざっぱに描いていきます」
「輪郭は丁寧に、細部はおおざっぱに描いていきます」
このとき、動物の輪郭をとにかく丁寧に描くのが大切、ということだったが

「丁寧だけどおおざっぱです。どっちですかね、適当です。」

と言っていたので、僕がなにかコツを教えろとうるさくいうから無理にまとめただけなのかもしれない。
予想の3倍くらいの速さでなぞっていきます。
予想の3倍くらいの速さでなぞっていきます。

3.色付け

色は普段「呉竹」のクリーンカラーというペンを使って塗っている。

ただし、今回はホッキョクグマなので塗らない。白いからだ。
「塗らなくていいからホッキョクグマを選んだ、ということもあります。」
「塗らなくていいからホッキョクグマを選んだ、ということもあります。」
これで完成である。
「完成です。」
「完成です。」
なるほど確かにこれは真似できない味がある。子どもでも描けそうなのに、大人にならないと描けないゆるさ、とでも言おうか。

だいたいわかったので僕も習ったやり方で同じシロクマを描いてみた。
まずは鉛筆で下書きをして(ほしぶどうさんの2倍くらいの遅さで描いています)
まずは鉛筆で下書きをして(ほしぶどうさんの2分の1くらいの速さで描いています)
ペンでなぞる(ほしぶどうさんの3倍くらい時間をかけています)
ペンでなぞります(ほしぶどうさんの3倍くらい時間をかけています)
はい!完成!
はい!完成!
言われたとおり輪郭に気を付けて描いてみた。なるほど、この描き方だとなんとなく可愛く見えなくもないが、いざ絵本化するとなるとより個性のあるほしぶどう先生の絵に軍配があがるのだろう。
くやしい。
くやしい。
せっかくなので編集の紅さんにも描いてもらった。
思った以上に荒々しい絵が見られて満足である。
思った以上に荒々しい絵が見られて満足である。
キシャー!
キシャー!

コツは奥行を出さないこと

編集の紅さんも言っていたが、ほしぶどうさんの絵には奥行がないのだ。徹底した二次元である。もしかしたらそこがコツなのでは、と思って狙っているのか聞いてみたところ

「奥行が出せないんです。」

と言っていた。あと線が揺れているのは緊張して震えるかららしい。

ほしぶどうさんはこれまでテクノうどんや前述のデザイナーカラオケなど、いくつものイベントを仕掛けてきた。彼いわくその集大成が今回の絵本なのだとか。

絵本の描き方としてはますます謎が深まったような気もするが、これ以上のノウハウもたぶんないだろうからこのへんでおしまいにしたい。

将来絵本作家になりたい人は編集の人ではなくほしさんを紹介するのであとは直接聞いてみてください。

誰でも描けそうで、誰にも描けない

ほしぶどうさんの絵を見ていると自分でも描けそうな気がしてくるんだけれど、いざ描いてみるとそんなことはまったくなく、おもしろみのない絵になってしまうのだ。

これからもほしぶどうさんは楽しそうに絵を描いたり新しいことはじめたりするんだろうな、と思いました。
味のあるごみ箱も描いてもらいました。
味のあるごみ箱も描いてもらいました。
!

『おかお みせて』
ほしぶどう 作
福音館書店刊 
あかちゃんの絵本シリーズ
定価(本体800円+税)
24p 19×18㎝




ほしぶどうさんの出版イベントは以下

5/17~5/27原画展(浅草橋・天才算数塾)
5/28ペット模写会(銀座・森岡書店)
6/1~6/15原画展(京都・誠光社)
6/2ペット模写会(岡山・ラウンジカド)
6/18~6/27パネル展(松戸・親子絵本専門店NanuK)
6/29ペット模写会(つくば・PEOPLE)

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