特集 2018年6月6日
 

自分の本が印刷され製本されているところを確認してきた

刷り上がった紙は製本所へ送られる

さて、自分の本の印刷の工程はひととおりみせてもらった。

現在、両面が印刷され積み上げられている紙は、検品され、製本工場へ運ばれ、製本作業へバトンタッチということになる。

数日後、埼玉県新座市の小泉製本の工場へむかった。
製本所です! 右から西村、社長の小泉さん、顧問の山本さん
製本所です! 右から西村、社長の小泉さん、顧問の山本さん
ぼくのちょっとしたおもいつきで、ほんの軽いきもちで工場をみせてほしい。といったところ、わざわざ社長が対応してくださった。
社長みずから対応してくださるので恐縮すぎる
社長みずから対応してくださるので恐縮すぎる
「うちは、雑誌はやってなくて、書籍専門なんです」と、小泉社長はにこやかにいう。

すこし話が脱線するが、雑誌のような速報性(といってもそんなに早いわけではないけれど)のある本は、印刷工場で、印刷から製本までまとめてやってしまう場合がおおい。
さらにいうと、雑誌や新聞というのは、いわゆる「印刷輪転機」というものをつかい、紙も、ロール紙を機械に装着し、高速で印刷と製本をおこない、印刷工場でみたオフセット印刷機とは形がまったく違う。
よく、ドラマかなんかで、輪転機が回るシーンをバックに、新聞の題字がググーッと画面に出てくるシーンがあるが、まさにあのシーンにでてくるのが輪転機だ。

閑話休題。書籍の製本の話にもどる。
――雑誌みたいな中綴じ(真ん中を針金でとめる)の本以外は作っておられるということですね。

小泉社長「はい、ジョウセイ……ハードカバーから、ナミセイまでやりますね」

――ハードカバーのことをジョウセイっていうんですね。

小泉社長「ふつうのひとはハードカバーっていうんだな、われわれだけだな、ジョウセイとかナミセイっていうのは」

――漢字はどうかくんですか?

小泉社長「上に製本の製で、上製、ならぶの並で並製ですね、上とか並とか、まったくウナギじゃないんだから(笑)」

――あ、上と並ってそういう意味だったんですね。松竹梅よりかはわかりやすいですよ。

上製、というのがいわゆるハードカバーの本。そして並製、というのが、背表紙を接着剤で固めた無線綴じの本、つまり新書や文庫、漫画の単行本など、現在刊行されている本のほとんどがそうだ。
上製(左)と並製(右)の本
上製(左)と並製(右)の本
小泉製本では、1日で上製の本がだいたい2万5千冊、並製の本は7万5千冊製本できるという。

――上製の本でも、辞書なんかは、製本がむつかしくないでしょうか。

小泉社長「たしかに、たいへんですね。ページ数が多いのももちろんありますし、あとは紙がうすいのもむつかしいですね、紙がうすいですから、印刷もむつかしいし、製本もむつかしい……辞書や聖書をつくることができる製本業者は東京でも何軒もないです」

――あ、そうか、聖書も紙うすいですもんね。

山本さん「こういった紙に限るわけではないんですが、印刷されて納品されてきた紙が波打っちゃってるときがあったりすると、さらに紙を切るのがむつかしくなりますね」

――波打つんですか。

山本さん「オフセット印刷は印刷のとき水をつかうんですが、その水がちゃんと乾燥していないと、波打ちます。あとは、湿度にもよって波打つこともあって、逆に乾燥しすぎても紙が反っちゃってだめなんです」

――ものすごく繊細ですね。

小泉社長「接着剤が、ハードカバーの場合は膠(にかわ)をつかうんですね、これがまた乾かないので時間かかるんです、ひと晩寝かせないとダメなんです」

――えーっ、膠ですか。もはや伝統工芸じゃないですか。ハードカバーのどのへんにつかってるんですか。

小泉社長「背表紙、背固めですね、なかみの本と、背表紙をくっつけるためにつかってます」

――膠じゃないとだめですか。

小泉社長「だめですねー、膠は乾燥には時間がかかりますが、接着力は強いんですよ、上製のしっかりしたつくりの本はやっぱり膠じゃないとだめですね」

裁断と折機で折丁をつくる

――もちろん、ぼくもふくめてですが、本ってどうやってできているのか、いがいとみんな知らないとおもうんです。

小泉社長「はい、ではまず、裁断のところに行ってみてみましょう」

ということで、まず案内されたのが、印刷所から送られてきた印刷済みの紙を裁断する機械。
裁断機
裁断機
印刷所から送られてきた大量の紙は、この裁断機でトンボ(裁ち切り目安になる線)にそってグサっと余分なところを切られる。
余分なところ。貧乏性なので、なにかに使えないかかんがえてしまう
余分なところ。貧乏性なので、なにかに使えないかかんがえてしまう
10センチはあろう紙の束を、ものの1秒ほどでグサっと切ってしまう裁断機。そして、切られたものがこちら。
こういう状態のものを「刷り本」とよぶ
こういう状態のものを「刷り本」とよぶ
上の写真に写っているものは、裏表あわせて64のページの本文が印刷された刷り本だ。この刷り本を、こんどはページがうまい順番にならぶよう、折機という機械で折っていく。
これまたものすごいスピードで刷り本を折っていく
これまたものすごいスピードで刷り本を折っていく
本のページ数は、16ページが基本で、16ページで「1折の折丁」という。上の64ページの刷り本は、折ると、折丁4折分ということになる。このように、本のページ数は、基本的に16の倍数プラス2ページか4ページか8ページになっているものがおおい。

「乱丁」「落丁」とはなんなのか

折丁になった刷り本は袋状になっており、まだめくって読むことはできないが、つづいて「丁合い」という工程にすすむ。
これまたものすごいスピードの流れ作業で折丁を自動的にかさねる
これまたものすごいスピードの流れ作業で折丁を自動的にかさねる
丁合いとは、16ページ分の折丁を、ページの順番ごとにかさねていく作業のことだ。この機械を丁合機という。新聞販売所なんかによく、折込チラシを差し込む機械があるが、それの規模のでかいやつだ。

丁合機で一冊分に丁合いされたのがこちら。
一冊分になったが、紙を折っただけなので、つながっていて開くことはできない
一冊分になったが、紙を折っただけなので、つながっていて開くことはできない
だんだん本の形に近づいてきた。

折丁の順番が間違っていたら、ページの順番がおかしくなる。そういうものを「乱丁」という。そして折丁が抜け落ちて足りない場合は「落丁」という。「乱丁・落丁の場合はお取替えいたします」というやつは、この工程で不具合が発生していることになる。

むかし、古本屋で途中から一折分、文章がすべて逆さまになっている新書を買ってしまったことがあった。
ただ、その本は錯視と脳の認知について書かれていた本だったため、そういう趣向なのかしら。とおもってしばらくがんばって読んだけれど、ページ数が飛んでいたので、ただの不良品だった。
おそらく、丁合いの工程で、折丁がひとつだけ逆さまにはいってしまったのだろう。

ちなみに、ページの端っこが内側に折れ込んだまま断ち切られて製本されているものにあたることがたまにある。それは「福耳」と呼ばれ、ひとによっては「得した」とおもうひともいる。ぼくだが。
福耳の例
福耳の例
この「福耳」は、折機の工程で発生し、乱丁、落丁とちがって、1枚ごとに発生するため、不良品の発見が極めてむつかしいので、乱丁、落丁よりもよくみかける。

折丁の背にある黒い印は「背丁」といい、折丁ごとに順番にずれていくようつけられていて、途中で順番が間違っていた場合はすぐに分かるようになっている。ページが多いと、いったん下までいったらこんどは上がるようにつけられる
折丁の背にある黒い印は「背丁」といい、折丁ごとに順番にずれていくようつけられていて、途中で順番が間違っていた場合はすぐに分かるようになっている。ページが多いと、いったん下までいったらこんどは上がるようにつけられる
ぼくの本がどんどんできあがっていく、これはやばい
ぼくの本がどんどんできあがっていく、これはやばい
背表紙と本を接着剤でくっつける工程
背表紙と本を接着剤でくっつける工程
ホットメルト接着剤、この粒状の接着剤を高温で溶かしてくっつける
ホットメルト接着剤、この粒状の接着剤を高温で溶かしてくっつける
背表紙くっつける「ホットメルト接着剤」は、つまりホットボンドである。
表紙がついた、あともうひといきだ
表紙がついた、あともうひといきだ
ホットボンドでくっつけ終わった折丁は、トンボにそって外側を裁ち切る。
グッサリと断ち切る機械
グッサリと断ち切る機械
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断ち切られたものは、もう、本としてよめるので、この段階ですでに書籍としては完成といえる。しかし、商品としてはまだあと一息ある。

こちらの機械で、スリップ、カバー、帯を入れたり巻き付けたりして、書店に並べるための商品に仕上げていく。
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できたー
できたー
ついに、取材と編集に8年をかけた本が完成した。じっさいに本にする工程は、あっという間で、ほんとうにあっけない。

まだ新品でピカピカの本をながめてみる。
綺麗すぎてもうしわけない
綺麗すぎてもうしわけない
まだボンドの熱がほんのりあったかい。名実ともにできたてホヤホヤである。

帯のぼくのしかめっ面が、これから何千冊と印刷され、日本全国の書店に並ぶと思うと、たいへんもうしわけない。たいへんもうしわけないけれど、みなさまにひろくよんでいただきたい。とくにインターネットをあまり見ない方々にもぜひともよんでいただきたい。

もう、祈るしかない。売れてくれー。

最後までみとどけた

小泉製本のみなさんが、ぼくのことを「先生」と呼ぶので、返答に困ってしまい、最初の二三回は「いやそんなよしてください」とか「いやいや先生じゃないですよ」と言っていたが、いちいち訂正するのがめんどくさくなって「はい」と受け入れてしまった。

いまや、インターネットでバズったというだけで本が出版できてしまう時代。だれだって先生になる可能性がある。

ただ、そんなにわか先生よりも緻密で正確なしごとをしている印刷所、製本所の人々にはほんとうに頭がさがる。

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