特集 2018年7月12日

駅の出口はだいたい黄色 ~JISがつくる風景~

JISが決める景色
JISが決める景色
キーボードに「JIS配列」というのがあるが、あれに限らず工業製品全般の規格を定めているのがJIS(日本工業規格)だ。

趣味で路上のあれこれを調べていると、あれもこれもJISで定められていたのか!と驚くことが結構ある。対象範囲があまりに膨大なのだ。

ぼくたちの見る風景の一部は確実にJISが形作っている。いくつか調べてみた。
1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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> 個人サイト ツイッター(@mitsuchi)

街の色の一部はJIS

たとえば駅の風景を見てみよう。
JR
JR
東京メトロ
東京メトロ
都営地下鉄
都営地下鉄
この3つの風景の中に、共通点がある。それがこれだ。
ぜんぶ、出口の表示が黄色
ぜんぶ、出口の表示が黄色
これ、知ってました? 出口の表示は黄色であることが多いのだ。ぼくはぜんぜん気づいてなかった。

そしてこれは偶然じゃない。JIS Z 9103「図記号-安全色及び安全標識-安全色の色度座標の範囲及び測定方法」という規格に、黄色が「駅舎、改札口、ホームなどの出口表示」を明示する色として規定されているのだ。

その他、黄色が使われている例としてはこんなのもある。
注意を表す信号灯。意味:注意。
注意を表す信号灯。意味:注意。
踏切の遮断機や警報機など。意味:注意警告。
踏切の遮断機や警報機など。意味:注意警告。
どの信号機にも「黄色」がある。当たり前すぎて逆になにを言っているのかという感じはあるが、これも同じJIS Z 9103に黄色が「注意を表す信号灯」として載っているのだ。
JIS Z 9103フィルターを通した景色
JIS Z 9103フィルターを通した景色
緑色は逆に安全などを示す色として、非常口や信号で使われる。こんなふうに、ぼくたちはJISがつくる風景のなかに暮らしている。
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長さを測ってみる

駅の出口の色みたいに、ふだん気づかないけど並べてみるとじつは共通点がある、そしてそれはじつはJISがつくっている、みたいな発見があると感動する。

たとえばこんな景色の中にJISはあるだろうか。
ゴミ置場かな
ゴミ置場かな
たとえば塀のブロックの幅を測ってみよう。
ブロックの幅。40cm。
ブロックの幅。40cm。
別の場所のも40cm
別の場所のも40cm
同じ長さだ! JIS A 5406「建築用コンクリートブロック」によるといろんなタイプのブロックがあるものの、一般的には幅40cmのものが多いようだ。

こんな景色はどうか。
なんでもない道端の写真ばかりですみません
なんでもない道端の写真ばかりですみません
道のはしっこにある側溝が規格品ぽい。長さを測ってみよう。
側溝の長さ。60cm。
側溝の長さ。60cm。
こっちも60cm
こっちも60cm
こういうのはL型側溝という。よく見るでしょう。いままで長さを気にしたことは全然なかったけど、測ってみるとどれも60cmだった。

これを決めているのは、JIS A 5372「道路用鉄筋コンクリートL形側溝」という規格のようだ。ここには、側溝の深さも規定されている。
深さは10cm
深さは10cm
いろんなタイプのL型側溝があるが、たいていは10cmだ。なので、これを乗り越えるための「段差解消スロープ」と呼ばれる製品も、高さが10cmのものが多い。
ここの高さは10cm
ここの高さは10cm
段差解消スロープの高さはとくにJISに規定されていない。なのに、L型側溝の高さにしたがって自然と高さが決まっている。こういうのって、共生みたいでいいなあと思う。
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隠された番号を知るという喜び

なにかの正式名称とか品番を知るのが好きだ。なんとなくアレと呼んでいたものを、かっちりとした名前で呼ぶことができるのは快感でもある。

たとえばこれ。
自販機の脇にあるアレ
自販機の脇にあるアレ
これ、なんと呼んでますか。ぼくはゴミ箱だと思ってたけど、業界的には「使用済み容器の回収ボックス」、略して「回収ボックス」というらしいのだ。そしてこの製品にはちゃんと品番がある。
回収ボックス「NPX-95」
回収ボックス「NPX-95」
どうです。もう「カエルみたいなアレ」とは呼べない。NPX-95なのだ。

こんなふうに、いままで名前を意識すらしたことないけど、じつはJISによって番号がついてるものというのがある。

それがこれだ。
トイレのやつと車椅子のやつ
トイレのやつと車椅子のやつ
デパートとか駅とかにある、トイレを示すピクトグラムは、JIS Z 8210 「案内用図記号」に番号「5.1.6」として載っている。つまりこういうことだ。
案内用図記号 5.1.6 「お手洗い」
案内用図記号 5.1.6 「お手洗い」
こんな感じで、多くのピクトグラムには隠された番号がある(べつに隠してないけど)。
案内用図記号 5.1.9 「障害のある人が使える設備」
案内用図記号 5.1.9 「障害のある人が使える設備」
案内用図記号 5.1.18 「コインロッカー」
案内用図記号 5.1.18 「コインロッカー」
案内用図記号 5.1.27 「エレベーター」
案内用図記号 5.1.27 「エレベーター」
言われてみればそうだろうという感じではある。どこでも共通のものが使われるんだから、番号とか名前くらいあるだろう。

それでいえば、このデイリーポータルZで使っている文字そのものにも、やっぱりJISの規格があって、番号がついている。
JIS X 0208 区点コード 0402 「あ」
JIS X 0208 区点コード 0402 「あ」
「あ」という文字は、JIS X 0208「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合」という規格に、 0402 という番号で載っている。

ぼくたちはふだん「あ」だと思ってるけど、JIS的には「0402」なのだ。番号がなければコンピューターで管理することもできず、表示もできない。

つまりデイリーポータルZが読めるのはJISのおかげとも言えるだろう。ありがとうJIS。(※いまどき文字集合は Unicode だろと思うかもしれないけどデイリーポータルZはShift_JISなのでJISなんです。ここ読まなくていいですよ)
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いかにも規格がありそうなものたち

キーボードの「JIS配列」みたいに、みんながJISだと知ってるものもある。でも規格の番号とか内容までは知らない。

たとえばキーボードの配列を定めているのは JIS X 6002「情報処理系けん盤配列」である。「鍵盤」じゃなくて「けん盤」。かわいい。
JIS X 6002 「情報処理系けん盤配列」
JIS X 6002 「情報処理系けん盤配列」
こういう規格名称を知ってちょっと嬉しいのは、ふだんカタカナで呼んでるものの日本語名称が分かることである。

キーボードはじつは「情報処理系けん盤」というのか、と思うとこれから使っていきたくなる。

それから紙のB5みたいなサイズ。いかにも規格っぽいなーと思いつつ、番号までは知らなかった。
JIS P 0138 「紙加工仕上寸法」B5
JIS P 0138 「紙加工仕上寸法」B5
A4とかA5とかのことを「仕上寸法主要シリーズ」といい、B4などは「仕上寸法補助シリーズ」というらしい。かっこいい。仕上寸法補助シリーズ。声に出して読むといい。

通常はAシリーズを使い、BシリーズはAではサイズが合わないときに例外的に使うと定められているらしい。そうなんだ! たまに規格を読むといいことがあるね。
JIS S 0021 「包装-アクセシブルデザイン-一般要求事項」シャンプー
JIS S 0021 「包装-アクセシブルデザイン-一般要求事項」シャンプー
シャンプーの容器のぎざぎざでリンスと区別するのはよく知られた話だと思う。JIS S 0021 に書いてある。最近はボディソープも増えてきたので、ボディソープの横には一本線をつけるそうだ。

お風呂場で JIS S 0021 だねえ、と思いたい。

隠れたJISにぐっとくる

JISがつくる風景には2種類あると勝手に思っている。ひとつは紙の寸法みたいに、いかにもJISで決まってそうなもの。もう一つは、駅の出口の黄色みたいに言われないと気づかないものだ。

ぼくはこの、隠れたJISにぐっとくる。ふだん気づかないけど、それがあることによって暮らしが便利になっているのだ。縁の下のJIS。そういうものはきっと他にもいっぱいあるだろう。言われなきゃわからないけど、自分でも見つけられたら嬉しいだろうと思う。
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