特集 2018年7月17日
 

怖い話のプロなら、女性ファッション誌も怖く読めるか

女性ファッション誌を読んでもらっています。
女性ファッション誌を読んでもらっています。
怪談を語ることを専門に活動する「怪談師」という方々がいる。怖い話のプロである。怖い話のプロが語る怖い話はもちろん怖い。

では、怖い話のプロが語る「怖くない話」はどうなるのだろうか。怪談師の方に、女性誌のインタビューページやほのぼのニュースを、怪談のテクニックを使って読んでもらった。語りの技術と、話そのものの、殴り合いである。
1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。

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怖い話…ではない?

「これは、モデルをやられているある女性のお話なんですけれども…」
「これは、モデルをやられているある女性のお話なんですけれども…」
「いただいた自転車も一度も乗ってない、…って言うんです」
「いただいた自転車も一度も乗ってない、…って言うんです」
「今もその自転車、家に、……飾ったまんまなんです…」
「今もその自転車、家に、……飾ったまんまなんです…」
これはなんだろうか。じっとりとした雰囲気のある語り口だが、この方が読んで語っているもの、怪談ではなく女性ファッション誌のインタビューページだったのだ。
これでした。特典の自転車が欲しくて読者モデルになった、という話。
これでした。特典の自転車が欲しくて読者モデルになった、という話。
すごかった。すごくいいものを見れた。では、女性ファッション誌でさえこの雰囲気で読めてしまうこの方は何者か。

怪談師の方をお呼びしました

怪談のテクニックを使って怖くない話を語ってもらいたい。この無茶なお願いに応じてくれたのは怪談師の村上ロックさんである。
村上ロックさん。(提供:スリラーナイト)
村上ロックさん。(提供:スリラーナイト)
怖いのでインタビュー中の朗らかな表情も載せます。
怖いのでインタビュー中の朗らかな表情も載せます。
村上ロックさんは「怪談ライブバースリラーナイト」に在籍する、柔らかい語り口と不気味な表情が印象的な怪談師である。筆者はかなりの怪談初心者なので村上ロックさんの魅力を的確にお伝えできなくて申し訳ないのだが、とにかくDVDに収録されていた村上さんの怪談はすごく怖かったです。僕は数日、寝つきが悪くなってしまった。

そして村上さんが普段活動されているのが新宿歌舞伎町にある怪談バーである。
こんな禍々しい胡蝶蘭初めて見ました。(提供:スリラーナイト)
こんな禍々しい胡蝶蘭初めて見ました。(提供:スリラーナイト)
こんな店内で、1時間に1回、15分程度の怪談ライブが行われる。胡蝶蘭があるのは、最近六本木から歌舞伎町に移転したからだと思います。
怖いのが苦手な人間にとっては「どうしてこんなことに…」と思ってしまう装飾の数々。(提供:スリラーナイト)
怖いのが苦手な人間にとっては「どうしてこんなことに…」と思ってしまう装飾の数々。(提供:スリラーナイト)
常連さんになると、50もある村上さんの怪談噺を聞き尽くしてしまっている方もいるらしい。怪談バー、大盛況である。

そんな怪談のど真ん中で活躍されている村上さん。冒頭の語りはどんなテクニックを使って実現したのか。聞いてみた。

声のトーン、テンポや間、安心感

怪談師さんと向き合うの、本当に緊張しました。
怪談師さんと向き合うの、本当に緊張しました。
――早速ですが、村上さんが怪談を語る時に気をつけてることってありますか?

村上:あります。いくつかあるんですけど、例えば声のトーンですと、高いよりは低いほうが、聞いてる側は入り込めるというか。安心感を持たれやすいですね。まずそこで、世界に引き込む。あとはお話のスピードやテンポですね。

――安心感って大事なんですね。怖がらせるのと真逆な感じがします。

村上:どこかで安心させといてお客さん引きつけといた方が、反応はいいと思いますね。

――話すスピードは、ゆっくりの方がいいんですか?

村上:これが実はそうでもなくて、お話の中でも本編と関係ないところはサーっと進んでいって、いざじっくりここだよっていうところで……グッ   と間を持たせる。(一同、ざわつく)今みたいな感じですね。
説明の時もここで、グッ   と間を持たせてくれた。心臓がキュッとなった。
説明の時もここで、グッ   と間を持たせてくれた。心臓がキュッとなった。
動画でもどうぞ。
早速テクニックが出た。テクニックを説明するその話にも怪談のテクニックを使ってくれる。たまらないサービス精神である。話のスピードは、早さ遅さを気にするよりは、メリハリを持たせて聞きどころを分かりやすくしてあげるのが大事だということだ。
「安心感」って意外だった。でも言われてみたら大事ですね。
「安心感」って意外だった。でも言われてみたら大事ですね。
ちなみに筆者はこの取材に際して初めてしっかり怪談に触れた、怪談初心者中の初心者である。怖いのは苦手である。取材前にAmazonで動画を購入してパソコンの画面で見たのだけど、天気のいい朝に、ウインドウを限りなく小さくして見た。すみません。

でも以前から気にはなっていたのだ。怖いのは苦手だと思いながらも『世にも奇妙な物語』とかは好きだったりする。好奇心はあるのだ。そういう方、実は多いのではないでしょうか。

動画で見た村上さんの怪談は、本当にものすごい吸引力だった。怖い、聞きたくない、と思いながらも話に集中力が吸い寄せられていくのが分かった。良きタイミングで肩をポンとかやられていたら心臓がどうかなって気絶していただろう。
だから取材は本当に緊張した。
だから取材は本当に緊張した。
そしてインタビューの後だと、確かに話のテンポや間をすごく工夫されていることが分かる。この恐怖は素人では再現できないだろう。すごくいいものを聞けた。勇気を出して聞いてよかった。

怪談師 VS 女性ファッション誌

声のトーン、テンポや間、安心感などのキーワードが出てきたところで、そのテクニックを使って「怖くない話」を語ってみてもらう。

まずは冒頭にもご紹介した、女性ファッション誌である。
怪談の話の合間、突然女性ファッション雑誌を取り出す。ミーナ(20歳前後の女性向けのファッション雑誌)である。
怪談の話の合間、突然女性ファッション雑誌を取り出す。ミーナ(20歳前後の女性向けのファッション雑誌)である。
怪談のプロに申し訳ない、と思いながらも、どうなるんだろうというわくわく感もすごくある。村上さんも「どうなるんでしょうね」と前向きにミーナと向かい合ってくれた。ミーナのインタビューページを怪談の語り口で読んでもらう。
モデルさんのインタビューのページだ。デビューのきっかけとかが語られている。
モデルさんのインタビューのページだ。デビューのきっかけとかが語られている。
話としては、特典の自転車が欲しいという子供らしい理由でモデルになったが、大学生となった今は仕事と学業の両立を考えながら毎日忙しく過ごしている、というとても軽いものだ。

村上さんはざっと当たりを付けて「いけるとこまでいってみましょうか」と言って話しはじめた。
動画で、良いところをダイジェストでどうぞ。
驚いた。すごく怪談っぽいのに何も起こらない。何か起きそうな雰囲気をバンバン醸し出しながら何もなく話が終わった。なんか前衛的な映画みたいだった。怪談師とファッション誌の戦いだ、と意気込んで臨んだのだが、両者が手を取り合って新しいものを作った感じがある。
村上さんも「これ面白いですねえ」と言ってくれた。よかった…!
村上さんも「これ面白いですねえ」と言ってくれた。よかった…!
――すごいですね! なんか起こりそうだな、って感じがすごくしました。

――怪談らしくしゃべる時って、特徴としてはどういうところがあるんですか?

村上:何にフォーカスするか、一番の主題に持ってくるか、ってとこですよね。そこめがけてずーっとこう波を作ってって、最後の一番怖いポイントでドン、と持ってくると。

村上:でも持ってくるときも「お前だ!」みたいのじゃなくて、意外とさらっと、「…あなたなんです。」って言われた方がどきっとすることあるんですよね。


――今の話は自転車に何かありそうな雰囲気出てましたね。

村上:自転車っていいキーワードだと思ったんですけどね。


怪談噺以外で怪談風にしゃべってもらうと、「怪談らしい語り口」があぶり出されて見えやすくなった感じがする。「話全体の波を作ること」そしてそのための「何かありそう、何か起きそうな雰囲気」である。これで聞き手の集中力を持続させながら怖がらせるポイントへの伏線を張っているのだ。
!
よし、次の怖くない話も読んでもらおう。

怪談師 VS 実演販売

怪談を話す上で大事なことは、聞き手を引きつけ続けることと、具体的にイメージさせることだと思った僕は、共通のポイントがありそうな実演販売の原稿を持ってきた。
実演販売の方の語りを書き起こしてきた。
実演販売の方の語りを書き起こしてきた。
包丁の実演販売で、その性能を説明しながらいろんな野菜をバンバン切っている。それでこんなにしゃべることがあるのがまずすごいが、怪談師の方がやるとどうなるのだろうか。
こちらもダイジェストでどうぞ。
じっとりとした趣のある実演販売になった。包丁の切れ味を説明する時の「スパスパスパ」の言い方が全然違う。暗闇の向こうで、たくさんの小さい生き物が素早く動くのが一瞬見えた時、のような緊張感のある擬音だった。これはこれで買いたくなるかもしれない。
「スパスパスパスパスパスパ…」
「スパスパスパスパスパスパ…」
――怪談ならではの擬音の使い方ってありそうですね

村上:それこそ稲川淳二さんなんかね、特徴的に擬音を使われますけど、僕はそこまではこだわりはないですね。

村上:でもやるんだったら確かに、ちょっと不気味な擬音はチョイスしますかね。あんま「スパスパスパスパ」って言うことはないですけどね。



意図していたわけではないのだが「怖くない話」を一つやるごとに、怪談のポイントが一つ見つかる。今回は擬音だった。聞き手に臨場感を与えるために、擬音ってやはりすごく効果的だと思った。これも主題に向かっていく話の波に合わせて、効果的に使うのがいいのだろう。
!

怪談師 VS ほのぼのニュース

最後に、ほのぼのしたニュースの原稿を持ってきた。
真剣に読んでくださって恐縮する。
真剣に読んでくださって恐縮する。
除草のためにために空き地に放牧されていたヤギが、任務を終えて地元に帰るので送別会が開かれた、というニュース。
最後はノーカットで。
やはり何かありそうな雰囲気が充満した。古い家が並ぶ寂れた街の、住民から見放された汚い空き地、その空き地の伸びきった雑草の影から顔を覗かせるヤギ。普通にニュースを読んだ時には浮かばない情景が浮かぶ。もちろん薄暗い時間帯だ。そして何も起こらない。
こんな雰囲気がある。
こんな雰囲気がある。
本当はこういう爽やかな空き地なんだと思う。
本当はこういう爽やかな空き地なんだと思う。
ここでドキッとしたのは女の子とお母さんの会話の部分だ。話している内容はほのぼのしているのにこの緊張感はなんだ。


――人のセリフの部分、切迫感ありましたね

村上:そうですね、ピンチになった時の人間の声をそのまま再現するとホントにそれだけで怖かったりしますよね。


そうなのだ。村上さんの怪談も人のセリフにすごく臨場感があった。誰かが何かを言う度に、聞いているこちらの体がこわばっていく感じだった。インタビューでは「ピンチになった時の人間の声をそのまま再現する」とさらっと言っていたけど、それってすごい技術である。
セリフのところだけ、トーンが1段階上がった感じもしました。
セリフのところだけ、トーンが1段階上がった感じもしました。

怪談らしさが際立った

怪談師の方に怖くない話を読んでもらうと、怪談らしい語り口というものが際立って、そのテクニックが一般人にも理解しやすくなった。意外に実のある試みだったと思う。
今回わかったことはこんな感じだ。
今回わかったことはこんな感じだ。
もちろんこの他にも、「噺の構成」という、ものすごく大事なポイントもある。近代怪談(自分の体験や人の体験談を語る怪談のスタイル)をやる方は、体験談や体験そのものを「噺」として整理して、それを怖く語るところまで一人でやらなければいけない。すごく複合的な技術を使っている話芸だと思った。

でもこれで日々語っている怪談を聞いたら、きっとテクニックのことなんて考えていられないんだろう。実際考えられなかった。

もう少し免疫ができたら、怪談バーに行って村上さんの生の「怖い」怪談を聞いてみたいと思う。
最後に自分の文章を怪談風に読んでもらったのだけど、恐縮しすぎて寿命が縮んでしまった。
最後に自分の文章を怪談風に読んでもらったのだけど、恐縮しすぎて寿命が縮んでしまった。
いっぱい汗をかいた。
いっぱい汗をかいた。

インタビュー、そもそもすごく下手なのだが、怪談の動画を見た後にお会いしたこともあってガチガチに緊張してしまった。村上さんには丁寧に取材に対応していただいて本当に感謝しております。感謝の気持ちが現場で伝わっていなかったらすみません。改めて、ありがとうございました。
そしてその様子が動画に収められてしまった。
そしてその様子が動画に収められてしまった。
取材協力
村上ロック

怪談ライブバー スリラーナイト
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