特集 2018年8月24日
 

健気さを応援したいベトナムの公安博物館

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ベトナムの「公安」は、日本でいう警察組織だ。

だけど彼らはさまざまな事情から地元でブーイングを受けることも多い。そんな公安が自分たちの頑張りを全力でPRしている博物館があると聞いて行ってみたら、彼らの健気で愛すべき一面も見ることができた。
1984年大阪生まれ、2011年からベトナムなどの東南アジアをうろついています。今はタイ在住。ドリアンの造形が好きで、写真のように被ったり着たりしています。

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嗚呼、公安はつらいよ

その建物、「公安博物館」は首都ハノイにある。2015年夏オープンと比較的まだ新しい施設。
建物正面には、
建物正面には、
コテコテのプロパガンダアートで公安が描かれている。
コテコテのプロパガンダアートで公安が描かれている。
日本でも警察庁などの関連施設なら一般開放された資料室くらいありそうだけど、ベトナムはこの通り専門の博物館をつくってしまった。「税金の無駄遣いを〜!」とでも言われそうだけど、そこはどうとでもなるのが一党制。そう、社会主義国家ベトナムにおいて公安は、「権力の効果がばつぐん」なのだ。

とくにベージュ色の制服を着た交通違反を取り締まる公安は、とりわけ都市部の市民に恐れられている。飲酒、無免許、白線を割った、いろんな違反者に対してぶっとい警棒をゆらりと構えて立ちはだかる。それだけならおかしなところはないのだけど、なまじ権力がばつぐんだとどういったことが起こるか…察してほしい。

そのため、「物入りな師走には街中が公安だらけになる」というのは現地ではよくある話。ちなみにホーチミン市は白バイに乗っているが、ハノイでは基本的に乗っていない。この違いの理由は謎だけど、それゆえに首都であるハノイの方がノーヘル運転が多いというのは、人間のどうしようもなさが浮き上がっていておもしろい。
でもサッカー代表試合での熱狂には彼らもお手上げ
でもサッカー代表試合での熱狂には彼らもお手上げ
話を戻すと、ベトナムは社会主義国。生活の中で感じる機会は少ないけども、1986年のドイモイ政策によって市場経済が生まれるまでは、なんと「配給制」だったという。引換券を持って、列をつくって、食料を受け取るという、昭和中期の日本さながらの(日本がそうだったかは半分想像だけど)。

実はベトナムコーヒーに練乳がたっぷり入っている背景も、苦いロブスタ種をまろやかにするだけでなく、「国内ですら生乳の流通が制限されていたため練乳しか使えなかった」という理由もあるのだとか。こういう、社会体制が食文化に影響を与えたという話は個人的に大変そそられます。
そんな配給時代をイメージしたカフェチェーン「Cong Caphe」
そんな配給時代をイメージしたカフェチェーン「Cong Caphe」
豊かになった今、配給制は古き悪習という評価もあるけど、その時代の雰囲気を再現したカフェが若者を中心に大流行しているというのもなんともおもしろい話。日本でいえばさしあたって、純喫茶をイメージしたコメダ喫茶や星乃珈琲が若者にウケているという感じ。最近韓国に一号店を出したらしいので、そのうち日本にも来るかもしれません。いいですよ、このカフェの雰囲気。大好きなんです。ベトナム版昭和って感じ。

と、話が逸れてしまったけれど、大事なところは「公安は権力が抜群」であり、そんな状況から袖の下が重くなる一方で、結果として市民にはヒンシュクを買いがち。さらに最近はSNSで「横暴な振る舞いをした公安」の動画が炎上する、というのもよく見聞きします。

そこで本題の公安博物館は、「俺たち公安頑張ってるぜ!」ということでつくったものだと思っていいでしょう。博物館といいながら、イメージアップのためにつくったアンテナショップ的な機能を持っていると言ってもいいのかもしれない。いや、正直これは私が思ってるだけなんだけど。でもたぶんそれで合ってる。なぜなら…。
こんなイラストが正面にデカデカとあるんだぜ?
こんなイラストが正面にデカデカとあるんだぜ?

いきなり公安制服コレクション

という訳でさっそく拝見!なお入館は無料です。
さっそく制帽が並んでいる。
さっそく制帽が並んでいる。
ほー、世代別に並んでる訳か〜。
ほー、世代別に並んでる訳か〜。
いやでもこんなの見たことないぞ。
いやでもこんなの見たことないぞ。
世代別制服コレクションかと思ったら、最後に知らない制服が並んでいた。こういうの、ハリウッド映画の雨が降るラスベガスとかのシーンでしか見たことないぞ。それこそベトナムでは見たことない。消防服かなぁと調べても違ったので、案外モーターショーのコンセプトカー的な「未来の制服」なのかもしれない…。とかなんとか書いてる途中で、「機動警察」の制服だと判明しました。どおりでお目にかかる機会も少ない訳だ。

まぁ、仮にコンセプト制服だったとしても不思議ではない。さっきも書いたようにここは「イメージアップ施設」だから、実際に着てようが着てなかろうが、「わーかっこいい!」と感じてもらえればそれがゴールである。実際、このあとの展示を見れば見るほどコンセプトが分からなくなってくる。そのカオス感こそが最大の魅力だけども。
誰かいる!
誰かいる!
と思ったら公安のマネキンだった。
と思ったら公安のマネキンだった。
昔は(今もか?)こんな感じで仕事していましたよ〜ということか。なんとなく「北海道の網走監獄のマネキンと似てるなぁ」と思ったが、よくよく考えると公安と囚人を比べるのはさすがによくなかった。ごめん。

公安と戦争の歴史は切り離せない

と、ここまでは牧歌的というか、どこか気の抜けた内容だが、ここから展示が重たくなってくる。
没収した銃器とか刀とか、
没収した銃器とか刀とか、
昔使われていた地図とか、
昔使われていた地図とか、
通信に使った道具とかも、ある。
通信に使った道具とかも、ある。
このへん妙に戦争っぽい匂いがする。でも、それもそのはず。

ベトナムが平和になったのはたった40年と少し前の話、それまではベトナム戦争でアメリカ(内紛という要素もあるけど)と、インドシナ戦争でフランスと、古代から中国と、国内外を舞台に戦いつづけてきた歴史を持つ。なんなら日本も敗戦直前に半年間ほどベトナムを支配しているので、無関係という訳ではない。

そこで今の公安が生まれた年はベトナム民主共和国(今のベトナム社会主義共和国の前身)が独立&誕生した1945年以降のことで、ほとんど常時戦争中だった中での「治安維持」はときに軍と役割が被ることもあっただろう。事実、ベトナムの歴史研究家によると、ベトナム戦争中のテト攻勢という大きな戦いでは公安による部隊も活躍したという報告がされている。
アメリカ軍関係者が緊急時に助けを求めるためのメッセージ入りの布。 複数の言語で「安全を提供すればアメリカ政府が報奨を与える」と書かれている。
アメリカ軍関係者が緊急時に助けを求めるためのメッセージ入りの布。 複数の言語で「安全を提供すればアメリカ政府が報奨を与える」と書かれている。
そう考えると、本当に公安は今まで命を張って頑張ってきたんだなぁと思う。いつ頃からこうして嫌う人が増えてきた、言い換えれば袖の下がジャラジャラしはじめたんだろうか。勉強したいけど、そんなことをしたらめちゃくちゃめんどうなことになるだろうな。
ベトナム戦争から10年後の建国記念日のパレード護衛
ベトナム戦争から10年後の建国記念日のパレード護衛
それに使われたというバイクが展示されていた
それに使われたというバイクが展示されていた

凶々しい没収品と、なりきり公安

ここでようやく警察らしい展示物が。
ここは…。
ここは…。
没収品コーナーだ!
没収品コーナーだ!
これはなんだか、心躍っちゃうな!いや、興味があるというか、話には聞くけど滅多に見れないものじゃない。日本人の一般市民にとって凶器ってやつは。そういうのって気にはなるじゃない。
凶々しい武器と書いて凶器。
凶々しい武器と書いて凶器。
現代ベトナムでこんな凶器が没収されるのか。そういえば先に書いた「ドイモイ政策」。当時は国民もよく意味が分かってなかったらしく、何を勘違いしてか「俺たちは自由だ!」とドラッグに走る人が続出し、一時期、中心部の公園には注射器が散乱していた。と、当時から住んでいた日本人の方が話してくれたことがある。

もしかしたらそのときには注射器ではなく青龍刀を持った人もいたのかもしれない。完全に世紀末伝説だ。思えば北斗の拳の連載とドイモイ政策は時期が近いので、意外と当時のベトナムをモデルにしたのかな。いや、あの漫画はマッドマックスがモデルだったしよく調べたらドイモイよりも前だった。北斗の拳古いな!!
偽物ブランド品の数々。
偽物ブランド品の数々。
金色というよりどう見ても黄色のアイフォンも。
金色というよりどう見ても黄色のアイフォンも。
いかにも「ニセモノは許しまへんで〜!」という展示だが、ベトナムの市場ってとくに隠す様子もなく偽物ブランド売ってるんだよな…。それがかわいいところ(?)っちゃかわいいところ(??)なんだけど。
変装グッズにイヤホン!替え玉受験やカンニングの証拠品だそうです。なるほど。
変装グッズにイヤホン!替え玉受験やカンニングの証拠品だそうです。なるほど。
これで順路はほぼほぼ終点へ。
はめ込みパネルがあったので、
はめ込みパネルがあったので、
とりあえず撮っておきました(撮影してくれたスタッフもたぶん公安の方)。
とりあえず撮っておきました(撮影してくれたスタッフもたぶん公安の方)。

市民を助ける公安のみなさんたち

最後の最後、公安のみなさん活躍の数々を写真で紹介していた。
俺、木をどける!
俺、木をどける!
私、おばあちゃんを助ける!
私、おばあちゃんを助ける!
俺、髪を切る!
俺、髪を切る!
俺、飛び込む!
俺、飛び込む!
途中から完全に公安の写真集になっていた(実際写真集だけど)。さすがに「子供の前髪を切る」って、何でも屋でもそこまではしないだろと思いましたが、それだけに彼らの「俺たち公安、頑張ってる!」という主張がなんだかとても健気で妙に応援したい気持ちになりました。術中にハマってるのかな?かまわんよ!

がんばれ公安! 清く正しく美しく

ふだんは市民からブーイングを受けがちの、ベトナムの公安。「勉強するだけでは公安になれない」という噂もありますが、実際は分かりません(いちおうソース)。でも一方で、ニュースなどを通じて自浄の動きが出ていると聞きはじめたのも事実。当たり前のように横行していた袖の下に関しても、最近は若い世代を中心に拒否する人物も増えてきた、と聞いております。がんばれ公安!私欲に打ち勝つその日まで…。
ちなみに最後の方に消防士のマネキンがあった。 機動警察の制服はやっぱりカッコいいんだな。
ちなみに最後の方に消防士のマネキンがあった。 機動警察の制服はやっぱりカッコいいんだな。
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