特集 2018年9月4日

私が裸で恥ずかしいのはあなたがパンツを履いているから

下着をつけることで恥の概念をチェーンポールにも植え付ける
下着をつけることで恥の概念をチェーンポールにも植え付ける
私はパンツを履いている。履かないと恥ずかしいからだ。いつからだろう。

裸族をイメージしよう。部族の先進的な若者たちが服を着る文化と接触して身体を隠すようになる。周りの子も裸であることが恥ずかしくなる。そんな仕組みではないか。

つまりパンツを履き始めてから裸が恥ずかしくなったのではないか。

ということは、だ。下着が悪いことになる。なんでも下着をつけていけば裸であることが恥ずかしく見えるのではないか。
2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:音ではなくサイズによる新しいタイプのダジャレ

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

下着を作る

実験するためにはまず下着を作らなければならない。ひと目見て「下着だ!」とわかるような生地だ。

説明しないといけないことはたくさんあるがそもそもなぜ服でなく下着、下着言ってるかということだ。

男性のおっぱいのことを考えていた。男性のおっぱいは服で隠れているのに出しても恥ずかしくない。やはり隠すものは下着でないといけないのではないか。

生地屋で装飾がついていて透けない生地を探した。色はピンク。概念としての下着がそこにあった。
下着っぽい布を買ってきた。装飾があって透けない
下着っぽい布を買ってきた。装飾があって透けない

具体的すぎるとNGに

そこから大小いくつかの形にカットしていって下着のストックを作る。さきほどまであれほど「ひと目見て下着」にこだわっていたのに、パンツ型にカットをしてみて「これは直接的すぎる!」とゴミ箱に直行した。

形は「隠すもの」程度にとどめておくのが良いようだ。
「ヒーッ!」心の中のシスターが泡を吹いて倒れた場面。ボツに
「ヒーッ!」心の中のシスターが泡を吹いて倒れた場面。ボツに
三角形のものにひもをつけたりいくつか用意した
三角形のものにひもをつけたりいくつか用意した

街に出てみよう

下着をつける対象はなんでもよかったが、もっとも下着をつけなさそうなもの、無機質なものが一番意外性があっていいと思った。たとえば街にあるパイロンだとか。
こうした柵に「裸」というイメージもない。そのままでありそれがふつうの状態だ
こうした柵に「裸」というイメージもない。そのままでありそれがふつうの状態だ
そこに自作の下着をつけてみた。どうだろう。裸2対下着1だ。まだまだ下着側が異端である
そこに自作の下着をつけてみた。どうだろう。裸2対下着1だ。まだまだ下着側が異端である
しかしここから下着の数を増やしてみたらどうだろう。そう、今や下着が普通となった
しかしここから下着の数を増やしてみたらどうだろう。そう、今や下着が普通となった
となるとどういうことだろう。それまでふつうだったそのままの状態が「裸」に見えてきた!
となるとどういうことだろう。それまでふつうだったそのままの状態が「裸」に見えてきた!
は、恥ずかしい! 見てくださいみなさん! いや、見ないで! かわいそうだから!
は、恥ずかしい! 見てくださいみなさん! いや、見ないで! かわいそうだから!

なんてこった…!!

私達は何不自由なく暮らしていた。それがふつうだと思っていた。しかし一度下着をつけてしまったがために、裸という言葉が生まれたのだ。

恥ずかしい。ただの柵であったのに、なんだろうこの恥ずかしさは。

王様は裸だ。それは周りが服を着はじめたから王様が裸になったのだ!
駐車場のチェーンポールに恥という概念はないが
駐車場のチェーンポールに恥という概念はないが
下着を履かせてやるとどうだろう
下着を履かせてやるとどうだろう
あれれれれれ! やべえやつが1人いるでよ!
あれれれれれ! やべえやつが1人いるでよ!
チェーンポールの声が聞こえるだろう。恥ずかしい、恥ずかしいと泣いているこの声が。今チェーンポールに恥の概念が生まれたのだ
チェーンポールの声が聞こえるだろう。恥ずかしい、恥ずかしいと泣いているこの声が。今チェーンポールに恥の概念が生まれたのだ
もう少しハードなもの、シンプルなものでどうだろう。どこにも下着化する要素はない
もう少しハードなもの、シンプルなものでどうだろう。どこにも下着化する要素はない
とりあえず巻いてみる。すると「ここになにかあるんだな」という納得が生まれる
とりあえず巻いてみる。すると「ここになにかあるんだな」という納得が生まれる
こうして比べるだけでも、巻いた側に高度な文明を感じる。しかしまだどちらがいいとかではないだろう。また数を増やしてみよう
こうして比べるだけでも、巻いた側に高度な文明を感じる。しかしまだどちらがいいとかではないだろう。また数を増やしてみよう
なんて恥ずかしいんだろう。「なにやってんだようほんとにこの子は」という親目線さえ生まれてくる。ただの棒にである
なんて恥ずかしいんだろう。「なにやってんだようほんとにこの子は」という親目線さえ生まれてくる。ただの棒にである
もう、丸出しである。なんにも思わなかった部分に「丸出し感」が生まれた。アップにしてみよう
もう、丸出しである。なんにも思わなかった部分に「丸出し感」が生まれた。アップにしてみよう
たいへんです! このサイトは有害です!
たいへんです! このサイトは有害です!
レンタサイクル時代が到来しているが
レンタサイクル時代が到来しているが
たとえばこの数字のところを下着で隠してみよう。見せてはいけないものになった。
たとえばこの数字のところを下着で隠してみよう。見せてはいけないものになった。
それが何台もあるとなおさらである。
それが何台もあるとなおさらである。
もろである。
もろである。

下着っぽい布を持ってうろうろする危険性

言ってみれば保護カバーを一時的につけているだけなのに、カバンの中からこのピンクの生地を取り出す後ろめたさはなんだろうか。私は何を恐れているのだろうか。

「私もあれ乗れるかな」「まだ早いよ足が届かないよ」と親子がレンタルサイクルを前に話している。そのうち5台には下着が着用されていた。

逮捕されたとしたら私は戦う。理由なき逮捕に憤り、弁護士をつけて徹底的に戦うだろう。しかし私に天罰がくだったとしたら。それはもう受け入れようと思った。
見慣れてくると写真の枚数も減らせる。このパイロンも今はふつうだが
見慣れてくると写真の枚数も減らせる。このパイロンも今はふつうだが
周りに下着をかぶせるとこう。ぼくたちはどうして大人になってしまったのだろう
周りに下着をかぶせるとこう。ぼくたちはどうして大人になってしまったのだろう
こうした自然物はどうだろうか
こうした自然物はどうだろうか
葉っぱに文明を感じた。
葉っぱに文明を感じた。
あらららら! その真ん中の葉脈集まってるとこ見えちゃってるよ! という思いがわきあがる。もちろん(…別にいいよな)という思いもある。
あらららら! その真ん中の葉脈集まってるとこ見えちゃってるよ! という思いがわきあがる。もちろん(…別にいいよな)という思いもある。
私達はもうここが恥ずかしくなってしまったのだ。幼馴染の男女が大人になって仲良くできないことを知った時のような、あの日々に戻れない感。
私達はもうここが恥ずかしくなってしまったのだ。幼馴染の男女が大人になって仲良くできないことを知った時のような、あの日々に戻れない感。
私達はもういろいろなものを見すぎたのかもしれない。こうした特徴のあるものに対しては下着を早くかぶせなければいけないという思いさえわいてくる
私達はもういろいろなものを見すぎたのかもしれない。こうした特徴のあるものに対しては下着を早くかぶせなければいけないという思いさえわいてくる
ああ、ほっとした。突起のあるものなどは特にだ
ああ、ほっとした。突起のあるものなどは特にだ
「キャーッ! この送水口へんなんです!」「そうですワタスがへんな送水口です」
「キャーッ! この送水口へんなんです!」「そうですワタスがへんな送水口です」
もう私自身の視点がだめになっている。自首をしてきます
もう私自身の視点がだめになっている。自首をしてきます

パイロンにパンツをかぶせて日本人論

下着をつけてなくて「恥ずかしい」と言われると「そ、そうかな…」と引け目を感じてしまうこと。これは衛生概念やマナーの考え方に似ている。

「それは汚い」「はしたない」といった言葉は発した者のほうが強いのだ。「Facebookのシェアは『おシェアさせていただきます』と一声かけるのがマナー」と言われたら、そ、そうかなと思ってしまうことだろう。

正しそうなものは強い。そのうえ数の勝負である。村の周り全員が膝サポーターをしていて「お前なにカクちゃん(膝の隠語)まるだしにしちゃってんの?」とか言われたらどんな村の名士でももう膝を抱えてうずくまってしまうだろう。紡績工場で富を築いた社長さんも甲子園に導いた名監督もみんな膝を隠して気の弱い者は泣き出してしまうかもしれない。

間違いない。そのことは街の無機物に下着を履かせることによって確信に変わった。今回は他人事なうえに無機物である。なんにも恥ずかしいことはないはずなのに恥ずかしく感じてしまう私達がいる。

全部ご先祖さまが悪いのだ。島国であり村八分にならなかった者たちの子孫が私達だ。私達のDNAに植え付けられた恥の概念、そのせいでチェーンポールにパンツを履かせてキャアキャア言ってしまうのだ。
どれに下着をかぶせるかの視点で街を歩いていてネジ穴レベルにまでなっていた
どれに下着をかぶせるかの視点で街を歩いていてネジ穴レベルにまでなっていた
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