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コネタ


コネタ094
 
風力発電の風車を見に行く

 かねてから気になっていた場所がある。それは風車だ。近所のビーチからも、スーパーの立体駐車場からも、筆者の家の窓からだって見える。しかしいつも遠くから見ているだけだった。遠くにあるそれはカラカラ回るおもちゃのかざぐるまみたいでまるで現実味がない。あのふもとにはいったい何があるのだろう、いつか行ってみたい、なんて思い焦がれるほど遠い場所でもないので実際に行ってみました。そのふもとにはいったい何があったのでしょう。

安藤 昌教


いつも遠くに風車がある


釣り人と風車。どこかシュールな絵です
風車は遠くて小さい

今日こそはあの風車を見に行こう、とある日思い立った筆者はちゃりんこに乗って家を出た。家からは風車がいつものようにすごく小さく見える。

10分ほど走り、筆者がよく買い物をするスーパーマーケットの横を通り過ぎるときに風車が視界に入った。しかし風車はまだ遠くて小さい。うかつにも真夏の一番暑い時間帯に家を出てしまった筆者はすでにへろへろだ。熱中症にならないようにスーパーで水を買った。

国道をそれてビーチのわきを走る。ここからは常に風車が見える。ずいぶん近づいたはずなのだが、まだまだ小さく見えるだけだ。ビーチにはたくさんの海水浴客が来ているが、誰も風車のことなんて気にしていない。

グラウンドと風車。なんとなく夏を感じます

川を渡り公園のグラウンド横を通る。グラウンドではソフトボールの国体予選が行われていた。暑いのにごくろうさまです。筆者も球児達を見習って元気にちゃりんこを漕ごうと思います。

ここまで約20分。さっき買った水はすでに飲み干してしまった。Tシャツもパンツも汗でびしょびしょだ。暑い。アサリの味噌汁とかエビの浜焼きとか、熱い中で息絶えていく食材達の気持ちがリアルにわかる。もう二度とああいうたぐいの調理はしないでおこう。


徐々にはっきりと見えるようになってきた

一漕ぎごとに大きくなる

盛大なセミの声と活気溢れるグラウンドの声援を意識の遠いところで聞きながら公園のジョギングコースをちゃりんこでひた走る。ここまで来ると目の前に見える風車は順調に大きくなっていた。僕は今、確実に風車に近づいているのだ。熱中症寸前の状態の中、筆者は少なからず興奮していた。ちゃりんこで風車を見に行くという行為は人生における何か大切なことのメタファーなのかもしれない。

公園内をちゃりんこで走る間、風車の姿は木々にさえぎられて時々見えなくなる。そして次に現れるときには、前よりいっそう大きくなっている。もう少しだ。


そして感動の到着

ついにふもとまでやってきた。

すごい迫力だ。しかし実際に手の届くところまでやってきたのに巨大すぎて逆に現実味がない。最近ではどの映画を見ても「ああこれもきっとCGなんだろうな」とか冷めて見てしまうのだが、この風車の場合も目の前にあるのに巨大すぎて現実のものとして受け入れられない。ここだけ日常を突き抜けてしまっている。

真下から見上げると大木のような支柱のてっぺんに白く鋭い三枚のプロペラがいくつものボルトで固定されているのが見えた。巨大な風車はフュンフュンと鋭い音を立てて回転している。去年の台風ではどこかの島でこの風車の羽が強風で吹っ飛んだという話をきいたが、こんな巨大でするどい羽が吹っ飛んできたらはっきりいってただではすまないだろう。

真っ白な雲を切り裂くようにして風車は粛々と回転する。そしてそのたびに羽から伸びる巨大な影がグラウンドを横切る。風車は風を受けて回転しその力で電気を起こしているわけだが、それは逆に町中に風を起こす巨大な扇風機のようにも見えた。僕達が町から風車を見ているように、風車もここから僕達を見下ろしていたのだ。

そびえたつ風車

以前見に行った巨大なアンテナとも共通するところがあるのだが、大きな機械というのはその存在だけで人の心をわしづかみにする。どうしてこんなに格好いいのだろう。例えばいくらくらい貯めたら売ってもらえるのだろうか。

システムの説明がされています。
これもメタリックでかっこいい

ちゃんと発電しています

風車のふもとには現在の運転状況が一目でわかる表示盤があった。しかし表示盤自体は壊れているのか、風力や発電量を表示する部分には何も表示されていない。風車はちゃんと回っているのに。

近くにあった説明書きによると、この風車の最大出力は490kW。490kWという電力は一般家庭に換算すると約120軒分にも相当するという。風車の近くから数えて120軒ならばおそらく筆者の家までは含まれないな、とか思ったがどうやらそういうことではないらしい。この風車によって発電された電気はグラウンドの照明など、公園内の施設の稼動に利用されているのだという。そして余った電気は電力会社に売っているのだ。


環境にもやさしいのです

風車のふもとにはなぜか材木が山積にされていた。そういえば制御盤には風力発電は環境にやさしく、森林の伐採や発電によって生じる二酸化炭素を減らすことができます、という説明がなされていた。ふもとに積まれた材木はこの風車と伐採された木材を見て何かを感じなさい、という我々人間に対するメッセージなのかもしれない。

ふもとの材木は環境破壊への警告か

真下にはネコがいました

風車の真下には・・

そして風車の本当の真下には何があったかというと、なんとネコがいました。実はこのネコが毎日ここで風車の見張りをしてくれているのです。なんてことになると村上春樹さんの小説みたいだけど、たぶんただ寝ていただけだと思う。風車のふもとには大きな日陰ができるので涼しくて居心地がいいのだ。

これまで遠くから見ていただけだった風車は、ふもとまで行くと想像以上に巨大なものでした。わざわざ見に行く価値が十分あります。むしろ観光地化して料金取ってもいいくらいだと思う。そんな人間のちっぽけな思惑をよそに、風車は黙々と風を受けて、私達のために日々電気を作り続けてくれているのです。これからは感謝と尊敬の目で遠くにある風車を見ることになりそうです。




追記
筆者はこの後同じ時間をかけてちゃりんこで家まで帰り、謎の頭痛で寝込みました。
今年の夏は全国的に特別暑いみたいです。みなさんも外出の際には水分補給をお忘れなく。


 

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