引田天功の謎に迫る。
梅田 |
「マスター、こんなとこに引田天功のポスターがありますね」 |
マスター |
「うん。実は僕マジシャンだったの」 |
梅田 |
「うわさでは引田天功の一番弟子だって聞いたんですけど」 |
マスター |
「よく知ってるね。一番弟子としてマジックを教わってたんだけど、喫茶店をやるのが夢だったんだ」 |
マスターは手際よくお店の作業をしながらにっこり微笑んだ。やっぱりうわさは本当だったんだ。引田天功と言えば大仕掛けの大脱出マジックで世界中に名を馳せた男。その一番弟子のマスターはイリュージョンなんか無視して、こうやってシモキタのはずれで小さな喫茶店を営んでいる。
なんだかいい話なのかそうでないのかわからない。
そうか、高名なマジシャンなのに喫茶店を開いてるっていうイリュージョンなのかもしれない。いや、きっと違う。
と、そのとき…
おばちゃんA |
「○○さん、テレビ始まったわよ」 |
おばちゃんB |
「早く、こっちで見ましょ」 |
見るとさきほど話していたニュース番組が始まっていた。おばちゃん5、6人とマスターと僕はテレビの前へ移動。みんなでテレビを眺める。なんだ、この雰囲気と、思いながらも郷に入っては郷に従えって事で同じように画面を見つめる。
おばちゃんC |
「○○さん、若いねー」 |
おばちゃんD |
「まー、レポーターの人きれいだわねー」 |
マスター |
「丸一日ロケしていったのに、流れるのは2、3分なんだねー」 |
数分間のお店の紹介VTRが終わった。しかしマスターは不服そうだ。何があったんでしょう?
マスター |
「あんみつコーヒー、ぜんぜんとりあげてくんなかった」 |
ニュースは店長のマジックを少し取り上げただけで店長おすすめあんみつコーヒーは取り上げてくれなかったのだ。
マスター |
「チェッ! テレビなんかうそつきなもんだな」 |
マスター、落ち込まないで。代わりになれるかどうかわからないけえど僕は取り上げるよ。あんみつコーヒー。
マスター |
「マジックももっとすごいのやったんだぜ。あんな地味なマジックばっかり流しやがって」 |
マスターはすっかり意気消沈してカウンターの奥に引っ込んでいきました。困ったな。これはマジック見せて! って言いにくい空気になってしまった。
このままじゃ帰れないなって雰囲気のまま2時間半店でねばった挙句、レジで会計を済ませると、ご機嫌が戻ってきたマスターはとっさにレジ横に置いてあるトランプを持ち出しあっと言う間に手品を僕一人のために披露してくれたのでした。マスター、写真撮らせてとお願いする間もなくあっと言う間の手品の連続にただ驚くばかり。慣れた手つきはさすが一番弟子って感じでしたよ。
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