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コネタ


コネタ181
 
野外風呂にはいろう
風呂焚き姿がキマってる同伴者

私は風呂がキライだ。
小さい頃は、夕飯が終わると
「どうやって風呂に入らないですむか」
そればかり考えていた。
こっちは無防備だというのに
便所コオロギ(別名・カマドウマ)は容赦なくピョンピョンとはねまわるし、髪や顔を洗うとかならずセッケンが目に染みる。
温泉も銭湯も熱くてまともに入ったことがない。

そうだ、風呂が楽しくないからいけないのだ。
だったら楽しそうなお風呂に入ればいいじゃないか。

真っ先に頭に浮かんだのは、近所の広場にひっそりと佇む風呂釜だった。

注意・諸事情によりヌードはありません。

(text by 土屋 遊

スタートから早くも致命的ピンチ

まずは泥だらけのホース入れになっていた風呂釜のお掃除から。
落ち葉やドングリも混じった風呂底に秋を感じつつタワシでごしごしと肉体労働。

早々に掃除をきりあげたところで風呂栓がないことに気付いた。
いくらなんでも水を張らなければお風呂とは言えまい、早すぎるピンチだ。
風呂焚き係兼カメラマンとして同行した伊藤さんは、私よりも慌てふためいていた。この日のためにパーマをかけたのでなんとしても野外風呂を実現させたいのだと言う。

「すいません、お風呂の栓、見ませんでしたか?」
「はあ?」

いくらなんでも、犬と散歩中のおじさんは知らないだろう……。
私は応急処置として、落ちていた軍手にビニール袋をかぶせて風呂底の穴に詰めることにした。
水を張ってみると、これが案外いい調子。
最初ちょろちょろと流れ出ていた水も、水量が増えるにつれて全く漏れなくなっていった。


厳しさを知り己を知る

早朝までの雨で湿った薪にまったく火がつかないという最大の危機が訪れた。
なによりもたき火やバーベキューとは違い、小さなスペースに薪をくべるので思うようにはかどらないのだ。
30分……1時間、あっという間に時間は過ぎていく。
ゴミ箱から拾ってきたダンボールや雑誌もほとんど湿っていて

「なんで新聞紙を持ってこなかったのか」

「なんでチャッカマン(先の長いライター)を持ってこなかったのか」

と伊藤さんと言い争いになる。


思わせぶりな煙が出るばかり……

くすぶる風呂釜の薪……。
いらだつ大人2人……。

しかし水中メガネを持参するほど用意周到な伊藤さんが、新聞紙を持ってこないのはやっぱりおかしいと思った。


お風呂入るの〜?ボクも入りたい〜(のちに私と混浴を果たすこととなるどこかの兄弟)
全く見てらんないわヨと、ご近所のうちわ美人
歓喜の瞬間。これほど炎が愛おしい存在だったとは。
へっぴり腰であおぐ。ひたすらあおぐ
投げやりにあおぐ。まだまだあおぐ

長年の友より親切な他人

「あれーまだ火、着かないんですか?」

とあきれた様子の青年、登場。

「空気の抜け道を作らないとダメですよ」

いきなり私たちの組んだ薪をせっせと取り出して手際よく組みなおしてくれる。

土「す、すごい。ただ者ではないですね」
伊「お兄さん、何者ですか?」
兄「今朝、夜行で金沢から来たんですよ」
伊「やっぱり」

まるっきり会話になっていない言葉を交わしつつ、ダンボールのはし切れで必死で風を送り込んでくれる青年。 額にはうっすら汗がにじみ出している。

伊「お兄さん、アウトドア派ですね。今日はどこにお泊まりですか」
兄「いえ、今日帰るんですよ」
土「え!今日来て今日帰る?」
兄「はい」
伊「アウトドアですね」
兄「そうですか、ははは……」

気を良くした青年がさらにあおぎピッチをあげて汗だくになった頃、近所の女性が『Wうちわ』を持ってきて力を貸してくれた。
横にうちわを振るのではなく上下に振るといいそうだ。ものすごいパワーのあおぎ方であっという間にうちわがボロボロになってしまう。

青年と女性の握ったうちわはバサバサバサバサと激しい音をたて、なんだか職人ワザを見ているような気分になった。
そのへんで遊んでいた子供たちやおじさんもそのあおぎっぷりに見とれていたようで、待望の火が燃え上がった時にはちょっとした歓声があがることとなった。

土「わーゴッドハンドですねー」
伊「どうぞ一番風呂に入っていって下さい」
兄「いや、いいですよ……」

なんて謙虚な人々だろう。

「よし、火が着いたからこれで大丈夫。あとはひたすらあおいで空気を送って下さい」

「え……」

その後、私たちはただひたすらに後出しジャンケンをしながらあおぎ続けた。
無意味にバサバサ音もたててみた。

おじさんが服は脱ぐのか脱がないのか執拗に聞いてきたり、女の子が天使のようなウラ声で

「も〜えろよもえろ〜よ〜炎よも〜え〜ろ〜。火〜の粉をまきあ〜げ〜 天までとどけ〜」

とそのフレーズだけを何回もくりかえし歌ってくれたりもしたが、最後には周囲に誰もいなくなってしまった。


風呂の暖かさは人の温かさだった。か?

さらに2時間経過。

ついに風呂釜からゆらりと上る湯気を確認することができた。
湯船に手を入れると「ぬるい」ではなくて「熱い」。

私の大キライな熱いお風呂。
でもこれでやっと野外風呂に入ることが出来るんだ。

思えば私の人生において、これだけ待ち焦がれた風呂がかつてあっただろうか。


『他力本願』という意見は一切ムシしてご満悦

髪や服に染みついた煤(スス)の匂いと、ヒノキの香り……

「うあー最高〜」

と単純な言葉が素直に出て、たった10分ていどではあるが個人的に人生における長風呂記録を作った。

4時間かけて入水にたどり着いたのだ、すぐに出るのはもったいなさすぎると思ったのも事実だが、それ以上に本当に居心地がよくて出たいとも思わないのだ。
アロマテラーピーだリラクジェーションだのと高価な費用をかけているOLやマダムには、自力で焚いた野外風呂に入ることをゼヒともおすすめする。

この4時間の間に気に留めたをここに記しておく。今後の参考にして欲しい。

一、 野外風呂は気持ちいい。ただし時間がかかる
一、 野外風呂は気持ちいい。ただしお風呂が好きになるとは限らない
一、 新聞紙とうちわは必然アイテム。それ以外はわりとどうでもいい
一、 うちわあおぎは上下に。バサバサと音を立てると雰囲気が盛りあがる
一、 昔の人は大変だったなあ

なによりも、野外風呂は自分たちだけでは決して実現出来なかったと思う。

はるばる金沢から上京し、なぜか薪をあおぎ続けることとなった日帰り青年、驚異の『あおぎっぷり』をご披露してくれたうちわ美人、そして多くのギャラリーに感謝の気持ちでいっぱいだ。

ほんとうにどうもありがとう。



でもやっぱり毎日入れと言われてもそれは無理




豆知識:
一応着替えのジャージを持っていったのだが、お風呂上がりは全てがどうでもよくなってしまう。お湯をバッチリ吸い込んだ衣服のまま、チャリで帰宅することにした。

しかし、濡れたジーンズはとにかく重かった。
時間が経つにつれてどんどん重くなる。
チャリこぎも必死だったが、マンションの階段は過酷な筋トレのようだった。

よくトレーニングと称して鉄アレイもどきを足首に巻いてジョギングする人がいるようだけれども、それよりもずぶ濡れジーンズで走るといいと思った。

風呂上がりの筋トレだけは避けたいものです


 

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