紀行文が好きです。それも、飛行機の機内誌のグラビアに付く文章のような、たっぷりとロマンチックなやつ。
「パリ6区、サンジェルマンデプレの、サルトルが愛用していたカフェーで私は…」とか、「ニューヨーク、常宿にしているエセックスホテルから望むマンハッタンの夜景のさざめきが…」とか、そういうのを読むと、うっとりするじゃありませんか。
で、ものすごく妄想をふくらまして現地に行くんですが……実際に行くと、私自身はどうも、ロマンチックにひたれないのです。
「パリのホームレスのおっちゃんらって、ブルーチーズ系の匂いがするなあ、新宿のおっちゃんらは、どっちかというと醤油・味噌系なんだなあ〜」とか、
「ニューヨークは道がぼこぼこで歩きにくいなあ、下水くさいし、あとチョコケーキ甘過ぎ! 甘過ぎてびっくりして『ひゃっ』って声出ちゃったもん!」とか、
細かくて現実的なところばかり、気が行ってしまうのです。
ベトナム渡航前、本を数冊読んだのですが、「雑貨とグルメ」を中心に書かれているものと、「ベトナムの哀しい闘いの歴史」について書かれているものと、だいたい2種類に分かれておりました。
「カワイイ」と「戦争」です。
なんというか、両極端です。
両極端がおのおのの振りきり方で、ロマンチックに紹介されているのを見て、私は混乱したまま、ベトナム現地に入ったのでした。
ベトナムは、がんがんごんごん、変化している最中の国のようでした。
「ヤバイ、腹こわさないかな?」という不衛生な屋台もあれば、代官山にありそうな、おしゃれカフェーもあるし。
無愛想でボる人もいるけれど、笑顔でサービスのいい人もいるし。
「俺の嫁は戦争で死んじゃったんだけどね〜、それからずっと独身なんだよ。嫁は日本人に似てたんだよね〜、で、デートしない? 俺のホンダで!」とナンパしてくる、50代くらいのおっちゃんもいれば、
「おめえは兵隊に行ってないからそんな軟弱なんだよ!」と上の世代に説教されてそうな、にやけた顔の青年が、高級デパートの屋上にあるゲームセンターで、ダンスダンスレボリューションをやっているし。
可愛い雑貨もあるけれど、日本人的には可愛くないものも、たくさんあるし。 |