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コネタ


コネタ234
 
国境を越えたコロッケが市役所で売られている

 たまたま公共手続きのために市役所へ行く機会があった。市役所はもちろん初めてではない。いつものように駐輪所へ自転車を止めて正面玄関へと向かった。いつものことながらびしっと直角な建物だなあ、なんて思いながら歩いていると、建物の外に机を構えて座っている二人組みがいるではないか。

何をしているのだろう。

不思議に思い近づいてみると。なんとブラジル帰りのご夫婦がコロッケを売っていたのでした。

安藤 昌教

市役所。いつもと変わらない風景だ
あれ、なんだろう、あんなところで

ブラジル帰りのご夫婦でした

吸い寄せられるように入店

 市役所正面玄関の端のほうに、アルミの簡易机と共に「ブラジルコロッケ専門店」と描かれた看板が設置されている。看板には本場ブラジルの味、と朱書きされていた。はじめは何のことやらわけがわからなかったのだが、横目でちら見したところいかにもうまそうな空気がびりびりと漂っていたので、公共手続きも忘れて入店、というかなんというか立ち寄らせてもらった。

「すみません、ブラジルコロッケっていったい・・・」
「ええ、ブラジル帰りなんです、私達」


なんでもこのご夫婦、20年くらい前までブラジルに住んでいたのだという。ご主人は1959年頃、農業をするためにブラジルへ渡った。いわゆるブラジル移民だ。現在ブラジル在住の日系人は150万人ほどいるが、そのうち沖縄県系は15万人もいるのだ。

ご主人は移民後ブラジルで今の奥さんと出会い、そのままブラジルでご結婚された。

「ブラジルの味はね、なぜだか沖縄の人に受け入れられるんですよ」

奥さんは照れくさそうに話してくれた。その間、ご主人は腕組みをして座っていた。


お父さんは職人、という貫禄
お母さんは陰で支える内助の功という面持ち

これが本場の味、ブラジルコロッケ

で、ブラジルコロッケだ。

日本でよく見るコロッケとは違い、平らではなく丸い。まあこれは作る人によるのかも知れない。コロッケの中身はミート、チーズ、チキン。これらが2つずつパックに詰められている。コロッケの他にもエンパナーダという名前の食べ物やエス・フィーアという名前の食べ物。どれもこれもうまそうだが、はじめて見る食べ物ばかり。

実はこのご夫婦、少し離れたところにお店も構えており、そちらではケーキなんかも売られているらしい。一度お店のほうにも伺って良いか、と訪ねると

「平日はねえ、午前中しかいないよ。調理が終わったらすぐ出かけてこうやって外で売り歩いてんだ」

確かに頂いた名刺には移動販売場所が曜日ごとに書かれていた。月から金まで毎日移動販売、そして休日は土日。要するにお店にいるのは調理している時間だけ。


エンパナーダというブラジル名のミートパイ、そしてタイモパイ
エス・フィーアという名の食べ物。ブラジルではポピュラーらしい

お客がひっきりなしに足を止めます
そのたびにテキパキと働いて

一息つくとまたこの位置関係をキープ

絶妙なバランスの夫婦

なにより目を引いたのがこのご夫婦のバランスだった。いくつか質問をさせてもらったのだが、ご主人がぽつりぽつりと答え、その間を縫うように奥さんが絶妙に話の流れをフォローする。

―今でもブラジルに行かれることはあるんですか
「ええ、まあ」
「兄弟とかね、親族とかいるのよ、あっちにね」

そしてこの位置関係。お客が来ると二人でささっとブラジルコロッケを売り、終わるとまたささっと定位置に戻る。決してぴたりとくっついてはいないのだ。だけど息はぴたりと合っている。この二人の間の空間がなんとも奥ゆかしくて素敵だった。


これがエス・フィーア。いうなれば餃子パン

ブラジル味はうまかったです

筆者は売られていた中で一番味の想像がつかなかったエス・フィーアを買って帰った。見た感じ三角形のパンだが、割ってみると中には挽肉とたぶんニラと思われる野菜が詰まっていた。中身は餃子の具に似ている。

餃子の具とパン生地は一見するとあまり合わないような気がするのだが、実際に食べてみるとこれが相当いけるのだ。エス・フィーア、日本名を付けるなら餃子パン。シウバもブラジルでこれを食べて強くなったのかもしれない。

それにしても日本の中で引越しするだけでもえらく苦労するというのに、あのご夫婦はブラジルだ。その苦労は想像もつかない。そういういろいろなことを二人で乗り越えてきた結果があの素敵なバランスなんだろうな、と思った。


猫も飛びつく勢いのうまさ

エス・フィーアを食べながら遠い異国に思いを馳せていると、どこからともなくうちの猫が飛びかかってきた。エス・フィーアを狙う彼の瞳孔は開いていた。たぶん猫にとっても本場ブラジルの味は魅力的なのだろう。

ブラジルコロッケ専門店 コシンヤ
沖縄県具志川市字田場1557-8
電話098(973)3074
平日午後は移動販売のみ

 

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