どうして店を?
僧侶というと禁欲生活で修行と精進料理の毎日、酒なんてもっての他と思われがちだが、坊主バーのスタッフの宗派「浄土真宗」は規律、戒律もないらしい。
「娑婆(普通の世界)が修行の場なんです」とマスターの藤岡さん。勿論お坊さんだ。
バーで布教をしたり、法を伝えていくのがテーマなのだそう。
少しカタい内容になってしまったが、それでも飲み屋街。からんでくるお客さんも多い。
入店していきなり「悩んでんだよ、ひとこと言え!」と言われたこともあるそうだ。
「無機(才能やレベルがないこと、ここでは言ってもためにならないこと)の人には黙っているのも説法なんです」と優しく話す藤岡さん。
なるほど深い切り返しだ。もし私がその立場だったら、「…ひとこと」くらいしか言えないのではなかろうか。
実は藤岡さんはボクシングでオリンピックを狙っていた程の腕前だったとか。
しかし目の骨折を繰り返し、導かれるようにこの道に進んだという。
意外な転身だが、「ボクシングの断食やストイックなところは僧侶に通じるところがあるんです」だそうだ。
ダイエットのつもりでボクシングしてたら、あら、いつのまにか仏門に、なんてこともあり得るのだ。
やはりお客さんとは宗教話になることも、また女性のお客さんは恋愛相談になることも多いそう。
「男性にしがみつかないと不安、執着が強い、すると苦しい。それを少なくさせるように、己の中に良いものを見つけるようにお話します」
そう語る藤岡さんは男前にきりっとした髪型だが、見せていただいた小冊子の写真では坊主頭だ。
「やはり剃髪なさることもあるんですか?」
「いえ、この時は頭がかゆかったから短髪にしたんです」
意外性に富むマスターである。 |