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コネタ


コネタ477
 
ピアスを貰えないなら作ればいいじゃない。

西村しのぶという漫画家の作品が好きだ。
その華やかでキュートな雰囲気は私には現実離れしていて、だからなおさら憧れの対象になっていた。

彼女の作品の一つ、「ライン」というコミックの中に、彫金をしている男の子が年上の女性に手作りのピアスをプレゼントするシーンがある。

キューブが連なってできたアシンメトリーなピアス。
彼はそのシリーズでピンやブレスレット、また、彼女のキーワードが彫られた指輪を7つプレゼントする。世界に一つだけの、彼女だけのプレシャスだ。

そのシチュエーションも、銀細工も、大好きなエピソードの一つだ。

「でもほら、冷静に考えて。そんな男の子がいきなり自作アクセサリーと共に現れるわけないでしょう。」

そう自分に言い聞かせた私は、憧れの銀細工だけでも自力で手に入れてしまおうと、銀細工教室の門を叩いたのだった。

佐倉 美穂

どこの大会社かと思うじゃない
「体験であれは難しすぎるので、正直やめてほしかった」とおっしゃる先生。ごめんなさい、ありがとうございました。
少人数制でみっちり指導
体験の見本品。カワイくて簡単。

入り口でびびる

訪ねた銀細工教室は、上の漫画の世界のようにポカーンとするようなハイソな空間にあった。
教室はマンションの一室なのだが、まずマンションにフロントのような制服姿の係の人がいる。そこで自分の名前と訪問先を記入すると、エレベーターキーを受け取り、それでやっとエレベーターに乗れるのだ。
私もオートロックのマンションに住んでいたことがあったが、誰かの後をついてひょいひょい入れるようなショボいものだった。
こちらは内装も「どちらの大会社の応接室ですか」と言いたくなるようなセンス。

でも普通に小学生がランドセルを背負ってエレベーターに乗ってきたりした。こんなところで育つって想像できない。泥遊びなんて絶対できなさそうだ。

体験開始

教室に入り、気さくな感じの小早川先生とご挨拶。身につけてらっしゃるネックレスも当然自作のものだそうだ。

そして早速銀細工を始める。

今回やったのは彫金ではなくアートクレイシルバー。簡単に言うと銀粘土だ。
基本的な細工の順序は、粘土をこねて作りたい形に成形し、乾燥させてから800℃で焼いて水分や結合材等を飛ばすと、純銀の作品ができあがるというもの。

体験教室はだいたい2時間で、銀粘土の楽しさを知ってもらえるような簡単なものを作ってもらうらしい。作品例として見せていただいたものも、粘土を棒状にし、それを変形させたものが多い。
だが私はそこで妥協するわけにはいかない。だって欲しいものは決まっているのだから。それが欲しいが故に門戸を叩いたのだから!

しかし私が頼み込んで挑戦させてもらったピアスは、そりゃあ難易度が高いものだったと作業を進めながら痛感することになった。

その手順をご覧あれ。


1.これが銀粘土。少し水を付けて練る。
2.棒状にしてから長方形に整え、切断して正方形のキューブを作る。細かい手作業だ。
3.キューブ同士を接着させるために中に銀の棒を通す作戦でいく。
キューブがひっかかるように銀棒にペンチで段を入れ、粘土にそれを刺してあらかじめ穴をあけておく。
4.粘土をドライヤーで乾燥させる。
やっと休憩できる、とばかりに先生と雑談。
体験教室には男性も来るらしく、その目的はクリスマスやホワイトデーのプレゼントらしい。
おお、憧れの漫画に近い体験をしている女性は世にけっこういるのかも?
5.ヤスリで形を整える。
けっこうすぐ削れてしまうので大変気を使う。
これを両面、7コか…。
削りすぎないよう無心になる。
陶芸にあるような自分の内面との対話を感じる。この感じがやみつきになるのかもしれない。
6.銀棒に刺し、粘土をゆるくしたような糊でキューブをくっつけ、また乾燥させる。
7.自然にキューブになじむように糊の形をヤスリで整える。
接着面は両方で5カ所。ものすごくめんどくさい。
8.作業中に糊の部分を割ってしまい、糊を付けるところからやり直すこと2回。寄り目にもなります。
9.表面のでこぼこを紙ヤスリで整えたら、800℃で5分焼く。
焼き上がった銀の表面は真っ白なのでステンレスブラシで磨く。するといぶし銀のような鈍い輝きになる。
10.硬い金属の棒でその表面をこすり、なめらかにして光沢を出す。
マットな感じが好きな場合はいぶし銀のままでもOKだが、私の求めるピアスはきらきらと輝いたものなので、また細かい作業に集中する。正直、もう疲れた。

銀の棒の突き出た部分を丸め、フックにつけて完成だ!


かなり理想に近いのができた

とうとうできあがったピアスは、付けてみるとけっこう重量感があり、その存在を主張する。

「おれ、ここにぶらさがってるよ」

そうかそうか、とその度に触ってニヤニヤしてしまう。

疲れるけれど、自分だけのもの作り。ハマる人の気持ちが少しわかる気がした。

まあ、夢は自分好みのものを作ってプレゼントしてくれる、漫画の中のような男の子なんですけどね…。
それに見合う女性であることという前提は無視しておく。

長年の夢のピアス。ぐふぐふ


アートクレイシルバー教室
nao*ksilverclass

 

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