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コネタ


コネタ501
 
「駅のパイプ」を鑑賞する
こういうやつ

駅は内装デザインという観点から見ると非常に変わった空間だ。

多くの人が行き交う公共空間としての快適性という意味でも、各鉄道会社間での競争原理に基づいた差別化という意味でも、もっと内装に気を使ってもよいのではないかと思うのだが、実際の駅空間のデザインを見るとそういう意識は感じられない。嫌いじゃないけど。より率直に言うと、けっこう好き。

あたたかみのないテクスチャ。堅くてそっけのない素材。そしてむきだしのパイプ。このパイプこそ内装に気を使っていないことを如実に表す代表例だ。

駅には実にさまざまなパイプがむき出している。水・電気・通信・ガスなどを運ぶパイプ。日常生活でこんなにむきだしのパイプにお目にかかれる場所はほかにない。パイプフェチにとって、思い立ったらいつでもパイプと触れ合えるカジュアルな憩いの場、それが駅だと言ってもいいだろう。よくないですか。

今回は、わたしがパイプフェチを代表して、駅で見ることのできるパイプの見所を解説していこう。

(text by 大山 顕

おそらく多くの読者の方々にとって、これから紹介する「駅のパイプの素敵さ解説」は退屈なものだろう。というか、わけわかんないかもしれない。なんせ「駅のパイプ」だし。

それでも駅のパイプマニアとしては、ここでその魅力を訴求せずにはおれない。読者を置いてけぼりにしてでも、ひとりの男として言っておかねばならないことがある。そのひとつが「駅のパイプの魅力訴求」なのだ。たぶん。きっと。

時にはぐにゃりとしなり上げ、またあるときにはストレートに走る。その造形美。それが駅という身近な空間に存在し、いつでも触れ合うことができるのだ。彼らを思うだけでぼくの心は千々に乱れる。

ライターをクビになる覚悟でお届けする今回のコネタ。ご覧ください。

 

■鑑賞ポイント1・曲がり具合

パイプの魅力は、なんといってもその曲がりくねり具合だ。壁を這い、天井を這い、曲がり角で、障害物で、思うがままにぐにゃりと曲がりくねるパイプたち。


駅利用者が行き交う通路に臆面もなく、かといって何の衒いもなくそのしなやかなボディを晒すパイプたち


パイプの魅力をもっとも端的に表現するこの「曲がり具合」。その曲がりくねり具合にエロスを感じる、とでも言えば良いのだろうが、ぼく個人としてはエロスとかは関係なく、ただ純粋にその曲がり具合を愛でていたいと思う。

エセ心理テストみたいに、何にでも意味を求める必要はない。「コップに入った水の量は今つきあっている恋人への満足度を表しています」とか。

何の意味もなく「曲がりくねったパイプが好き」。それでいいんじゃないかと思う。

上の写真は曲がりくねり具合の中でも比較的おとなしめの直角に曲がるパイプたち。ただ、パイプの太さや素材の違いによって曲がり具合に確かな個性が感じられる。


やんわりと曲がる際にも、パイプごとに独自のやり方がある。直角曲がりとはひと味違う曲がり具合に目を奪われる


こちらは直角ではなく、浅い角度で曲がるパイプたち。太さ、素材によってしなり具合に個性があるのは直角の場合と同じだ。

規格にあった90度の継ぎ手を巧みに組み合わせてちょっとした角度に対応。パイプ職人の技がきらりと光る


こちらは、派手さはないが、渋い技がきらりと光る曲がりプレイ。規格品の90度の曲がり部材を使って、ちょっとした障害物や段差に巧みに対応。結果としてはからずも鑑賞しがいのある曲がり造形となっている。

朝の通勤ラッシュのさなか、足を止めてその職人技に見入ってしまわないように注意したい。

 

■鑑賞ポイント2・平行


競い合うようにストレートに伸びゆくパイプたち


鑑賞ポイントの2つめとしては、何本ものパイプがまっすぐに平行に走るダイナミックさがあげられる。曲がりくねるさまも良いが、真っ正直に生きるパイプもまた良い。まさにパイプ鑑賞のパラレルワールド。

写真をご覧いただければ分かるように、太さの違うパイプたちが仲良く並んで平行に伸びゆくさまには、グッとくるものがある。ありませんか。


平行パイプ好きのためにあるような駅の光景。たぶん半分ぐらいは鑑賞用のダミーだと思う


ここまで大胆に平行にまっすぐに伸びるパイプを見るにつけ、「これはむき出しでなければならなかったのか?」と思わないでもないが、これはパイプ鑑賞化のための鉄道会社の粋な計らいなのだ、とポジティブに受けとめたい。

 

■鑑賞ポイント3・交錯


様々なパイプが思い思いに入り乱れ交錯する、めくるめくパイプワールド


見どころポイント3つめは、上記の曲がりくねりと平行がが互いに交錯し、全体として複雑で立体的な造形を作り上げているパターン。その曼荼羅世界にパイプマニア、大興奮。

その見栄えのする交錯具合は、パイプ鑑賞初心者にも楽しんでいただけることと思う。

 

■鑑賞ポイント4・色


パイプの見どころは形だけではない。その色にも注目だ。


上段はビビッドに塗り分けられたパイプ。きっちりとした曲がり具合といい、そのカラーリングといい、このパイプによって運ばれるものの重要性を感じさせられる。しかし、それが何であるのかには興味がない。機能そっちのけで、ただパイプを鑑賞していたい。「ああ、赤いね」「ああ、黄色いね」そうつぶやいて地下道にたたずみたい。警備員には注意したい。

下段は珍しい白粉タイプ。壁も真っ白に塗られ、パイプにもまた美白効果。これまで紹介してきたパイプが素材の味をそのまま生かした日本料理のような味わいだとすれば、こちらは丁寧に手が加えられたスイーツのようだ。

おそらくパイプがむき出しなのはいかがなものかと感じた駅のパイプ担当者の配慮なのだろうが、結果はその造形のなまめかしさとあいまって、人目を引く鑑賞しがいのあるパイプ芸術に仕上がってしまっている。グッジョブ。

 

■最後に

読者置いてけぼりでお届けした、駅のパイプの見どころポイント解説だったが、最後に駅パイプの逸品をご紹介しよう。

駅でビエンナーレでも行われているのかと思わせる、インスタレーション風パイプ芸術


大小さまざまパイプがコンコースのコーナー部で立体的に曲がりくねる。その規模といい、つややかなメタリック仕上げのテクスチャといい、すばらしい。

「優れた身体感覚とユニークな思考にもとづいた実験的な作品。昨年のビエンナーレにも出品され、現代社会が抱える問題と孤独感を強く意識されるその作品世界は、海外でも高い評価をうけた。常にその作風を変化させながらも、一貫してマテリアル感を大切にした作品は、独特の存在感をもつと同時に静かな美しさに満ちています」とかいう感じ。

機能を追求した結果、思わぬ美的世界が展開されてしまった駅のパイプたち。意味の分からない能書きばかりのうさんくさいゲージュツ家の作品を美術館に見に行くより、駅をめぐった方がよっぽどアートだと思う。


 

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