さっきの勢いはどうした。
水の中のナマコとにらみ合うこと10分。もういいや、無理、帰ろう、と思った矢先のことでした。突如一匹のナマコが僕に話しかけてきたのです。ええ脳内で。
「なあ、触ってもいいんだぜ。触りたいんだろ」
「い、いえ、そんな大それたこと」
「だったらやめちまえよ。さっさと帰ればいい。だけど一つだけ確かなことはな、お前はいつかおれを越えなきゃいけないってことさ、どのみち」
「わかりました。痛くしないで下さい」
僕は海辺で一人ぶつぶつつぶやきながら水面下に横たわる一匹のナマコに手を伸ばしたのです。
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