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コネタ


コネタ543
 
あの思い出を再構築する。

 

食事中の方にはあまり向いていないかもしれませんが、今回のテーマは小学校の「ぞうきん」です。牛乳臭いにおいのこびりついた灰色の物体。後にも先にもあの独特の臭いは小学校の校舎の廊下でのみしか嗅いだことがない。
汚いものにある程度無神経である子どもにとってもあのぞうきんは嫌われ者であった。僕の学校では掃除の時間、じゃんけんに勝てばほうき係、負ければぞうきん係だった。

マイナスイメージしかない小学校のぞうきんだが、はるか遠く過去の思い出になってしまった今、僕は郷愁すら感じている。もう一度あの時のぞうきんを再構築できないだろうか? 

梅田カズヒコ

あのぞうきんを検証

僕の記憶を辿って思い起こした“あのぞうきん”の特徴をまとめてみた。たぶん共感してもらっていると思うが、念のため再認識しておきます。


形状
・長方形でバッテン(×)の形にミシンが当てられている。通常各家庭から新学期に一枚づつ持ってくるというシステムを取るため微妙に大きさが違ったり、××工務店などといったお店のプリントが施されているバージョンなどが存在していた。端っこのほうが切れていたり糸がほつれていたりした。


・新学期のはじめは真っ白だったぞうきんだが、わずか1週間ほどでものの見事に灰色に染まっていた。しかも完璧な灰色。RGBやCMYKなんていらないぐらいのグレースケールで表示されたぞうきんだった。

臭い
・給食の牛乳をこぼしてしまったものを拭いたものが主な臭いの元であるが、どうもそれだけではない独特な臭いである。相対的にカピカピに乾燥したもののほうが臭い。


以上を把握したうえで、あのぞうきんを再構築させたいと思う。


一番シンプルなぞうきん。
小学校の掃除の時間にこういうものがあったら便利だったのにな。

ぞうきんを購入

とりあえず近所の百均ショップで新品のぞうきんを購入する事に。百均にはさまざまな掃除用具があったが、僕が買うのは一番シンプルなぞうきん。

思えば小学校の教室の掃除用具といえばシンプルに『ぞうきん』と『ほうき』と『ちりとり』だけしかなかった。今の小学校がどうなっているのかは分からないが、例えばあの時の教室に『粘着シートのコロコロ』や『はたき』や『クイックルワイパー』なんかがあったらどんなに掃除が楽だっただろう。僕が掃除嫌いになったのはあの時のぞうきんのせいなのかもしれない。(と、責任転嫁してみる)


小学校のぞうきんっぽい縫い目。
さっそく汚れた机をふく。
床もふく。

さっそく作業開始

さっそく家に帰ってぞうきんを取りだしてみる。うまい具合にミシン目の雰囲気があの時のぞうきんっぽい。さっそく小学生らしく水で“ゆるめに”しぼって部屋の汚れた部分を掃除していく。今回の主旨はいかに部屋をきれいにするかじゃなくていかにぞうきんを汚くするか、だ。ややこしい。

普段は部屋の掃除など面倒くさくてあまりしないタイプだが、ぞうきんがみるみるうちに汚れていくのは面白い。なるほどぞうきんで掃除する楽しさがわかってきた。

普段は部屋の掃除など面倒くさくてあまりしないタイプだが、ぞうきんがみるみるうちに汚れていくのは面白い。なるほどぞうきんで掃除する楽しさがわかってきた。

机、床、ホワイトボード、テレビの画面、鏡、本棚、窓。とにかくありとあらゆる場所を掃除。みるみるうちにきれいになる部屋と汚くなるぞうきん。ぞうきんって自虐的な存在だなーなどとぼんやり思う。
しかし、僕がめざすあの灰色のぞうきんにはとうていたどりつかない。いくら拭いても僕が持っているぞうきんは新学期2日目ぐらいのきれいなぞうきんだ。そこで部屋でより汚れている場所に向かう。

もっともっと黒くなる場所はないか、もっと汚れている場所はないか。この作業は思いのほか人の心をストイックなものにさせる。

 

より汚れている場所へ。


冬の間に結露した窓。
おぉ、すげー。
ベランダ。
拭いた場所と拭いてない場所がくっきり。
去年の年末『増えるわかめちゃんを限界まで増やす』で使用したままベランダにほったらかしのバケツ
今年の冬『全国穴掘り大会』で使用したまま玄関にほったらかしのスコップ

ありとあらゆる場所を拭いてひとまず掃除は終了。

 

汚れたぞうきん
灰色の汚れた水と一緒にこのまま一日間放置する事にした。

さっそく作業開始

とにかくありとあらゆる汚れている場所をふいた結果、真っ白だったぞうきんはかなりいい線まで汚れてきた。洗面器で水につけるといい感じで流れ出す灰色の液体。

読者の方にとっては不快な写真かもしれないがこの時の僕はジーンズを染める染色職人の神聖な気持ちだった。目指すはビンテージ。

部分的にはかなり灰色になったが、それでもまだらで白い部分もかなり残されたぞうきん。さらにくんくんと臭ってみたが、食欲を減退させるあの臭いはなかった。臭いのほうも何か改良が必要だ。

しかたがないので1日よごれた水につけておく事にした。思いのほか長期戦の様相を呈してきたビンテージぞうきん作り。気持ちは当サイトでジーンズのケミカルウォッシュを目指した林さんと同じ気分だが、こちらはずいぶん絵づらが悪い。

 

翌日。


翌日。少し染まったようだ。
数時間後、生乾きのぞうきん。上のものよりかなり臭い。

翌日、あまり変化のないぞうきんをゆるめに絞って干す。

しばらく干している間に、最大の変化があった。3時間後、ぞうきんをくんくんと臭ってみると、『うん? あれ、この臭いは……』

かすかに僕の記憶の扉が開いた。
小学校の校舎の手洗い場のドロドロに溶けたレモン色の石けん。とぐろを巻く緑色のホース。怖いくらいにひび割れているプール。おぞましいほど粉まみれだった黒板のチョーク入れ。担任の先生の笑顔……。

もう一度ぞうきんを嗅いでみる。

『こ、これは、あの時のにおい! におう、におうぞ、ていうか臭いよ!』
どうやらあの時の独特の臭いの隠し味は水が生乾きした臭いのようだ。


みんなついてきてますか?

 

乾いて固まったぞうきん。
ぞうきんの右端の雰囲気、いい味でてますね。

はさみをいれる、そして牛乳。

続いてはさみをいれて作為的にぞうきんをボロボロに加工する事に。自らぞうきんを傷めるのはややダーティな気分だがここまで来たんだからやってみよう。ちょうど部屋にあったスキばさみとつめ切りを利用して加工する事に。
無理矢理痛めつけてはリアリティにかける。少しづつ、時間をかけてぞうきんに傷をつける。
このあたりの繊細さはビンテージぞうきん作りには欠かせないポイントだ。もし自宅でやってみたい方がいたら参考にしていただきたい。

続いて『臭い』のほうの仕上げ。牛乳を吸い込ませて軽く水洗いし、また干す。このあたりの描写を事細かに記したいところだが、見ため、においともにかなり吐気を伴うので自粛します。


たまたまあった賞味期限切れの牛乳をこぼす。
ぞうきんで拭き取る。

 

そして……


再びぞうきんを干して、完成!


ばーん!小学校のときのあの臭いが今ここに!

見事、あの思い出の再構築に成功しました!

色は灰色に満たなかったものの、臭いは見事にあの時の臭気を作る事に成功しました。撮影のあと、すぐ再びベランダに干したのですが、しばらく部屋の中はあの臭いが充満していました。すっかり忘れていた小学校の校舎の雰囲気や、地元の街並みや、先生の顔が臭いによって鮮明に思い浮かんできたので、人間の脳は不思議です。

うう……臭い。


 

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