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コネタ


コネタ712
 
ツバメの巣立ちに立ちあった
息もぴったりなツバメーズのえさコール

「空中戦の季節がやってきましたな」

私は、去年までご近所だった人にメールを送りました。

私が住んでいた町に毎年やってくるツバメたちと、先住民スズメによる仁義なき戦いです。

この時期になると分厚いメガネをかけて、玄関をそーっと開けながらいつも足元を気にしなければなりませんでした。 スズメ一派の猛攻撃にあい、いつも2〜3匹のヒナが地面に落とされてしまうからです。

メールを出した翌日。
かわいい写真と一緒に返事がとどきました。
懲りもせずにまたツバメ軍団は、あの広い空の下にやってきたようです。

(text by 土屋 遊

ツバメの巣、誘致作戦

かつて私の家にも、毎年ツバメカップル道子ジョントラボルタ(両仮名)が、居候にやってきていました。
なんともずうずうしいことに、ヤツらはまず、どの家が巣作りに適しているか見定めにやってくるのです。
そして最終候補宅近辺で、コチョコチョコチョコチョとやかましいくらいに相談をおっぱじめます。

「ツバメは幸福を呼ぶ」などと言われていますから、なんとかご宿泊いただこうと我らも必死でした。
死んでいるトンボやハエ(エサ)をとってきては、玄関先に並べて、

「我が家を間借りすると子育てがラクですよ」

とアピールをすることに余念がありません。

寂れた温泉宿の女将の心境、たぶん、あれに似ています。


卵はオスメス交代であたためているようです。

 

スズメ対ツバメ 仁義なき戦いを監視する

われわれの努力が実り、彼らの愛が実り、巣作り、産卵、ヒナの誕生と無事コトが進行してからも、実はここからが私たちが気合いを入れて細心の注意を払わなければならない日々、正念場です。

なにしろ日中はほぼ、外に出て張り込み状態です。
自慢じゃないですがそんじょそこらの探偵には負ける気がしません。
わが町には、ヒナは落とすは、巣はブチ壊すはの、「スズメ一派」と言うギャング集団が手ぐすねひいて待ちかまえているからです。

一番白熱していたのは3年前ではなかったでしょうか。

その年は、毎日のようにツバメ対スズメの空中バトルが繰りひろげられていました。
とくに、なぜか毎年ヒナが落とされる元隣人S宅の巣は見るもむざんな破壊ぶり。対抗する親ツバメの羽はボロボロ、命がけともいえるファイトに、下界の人間はなす術もありません。


ボクが先だよー!次はボクだよー!
きちんと順番にエサを与えています

 

元気になれるかな、落ちたばかりのヒナ
兄弟のもとへもどっておいで
S家の次女がしゃしゃりでてそっと返します
こんなバカ娘(中)も、りっぱにヒナをもどせるまでに成長しました。どうりで私たちも年をとるわけです。ちなみに右はホウネンエビでご活躍だったユウト先生。パンツの帽子がステキですね。

二羽の落下

すでに三羽のヒナが、フンよけのダンボールに落ちていたと聞きました。やはり、元隣人のS宅です。毛も生えそろわない彼らを親ツバメのいない夕方に巣に戻しておきます。
今年のスズメギャングは比較的おとなしい、という情報は仕入れていましたが、その翌日に

「また二羽落ちていたよ」

と通報がはいります。

不慮の事故というのは稀で、ここで考えられる原因は三つ。

1、ギャングの仕業
2、気の強い兄弟による蹴り。
3、楽だから。(親によるヒナ落とし)

だいたいのウラはとれていて、察しはついています。

証言者A
牛乳屋
「ツバメがスズメを追い払うのを見たわよ。松村さんちの雨どいに逃げていったけど」

証言者B
部活の朝練にむかう中学生
「玄関開けたら、スズメが逃げてったし。むかつくし。」


それにしてもS宅での恒例ヒナ落し。
こうも続くと、もしや親が子に言い伝えているのかもしれないと疑ってかかりたくなります。

「あそこんちでヒナが生まれたら落とすように。ラクでいいわヨ」

どちらにしても、こうなったらまた落とされる可能性は高いのですが、とりあえず、そっと巣に戻してもう一度、様子を見ることにしましょう。

ようこそ、我が家へ

翌朝。玄関を開けるとすでに二羽のヒナが落ちていました。
チンピラチュンチュンにやられたのでしょうか、産毛からのぞく皮フには傷もあるようです。かなり衰弱していますので一時も目がはなせません。

カラダをあたためるためのホカロンと、生き餌のミルワーム(甲虫の幼虫)を、ご近所さんの協力を得て早急に準備をすることになります。

そして今年もS宅では、二羽のヒナを養子に迎えることになりました。
臨時プラスチック人工巣も、毛布も、エサを与えるピンセットも、すでに準備は万端。

いよいよ本格的なツバメの季節です。


いっしょにがんばろうね。うん。

おどろきの回復力。おどろきのずうずうしさ
早くエサよこせよ!お前さっき食っただロ!
お昼ねタイムは仲良しに。また一羽落下ヒナがでました

ヒナにふりまわされる日々

最初にヒナが落ちたのは数年前。私たちはツバメパニックに陥りました。

近所中の誰もが未経験。母の教えも育児書もありません。
町役場では「そのまま放っておきましょう」と言われ、ネットでは「ヒナの飼育は誘拐です」という警告も目にしました。けれども自分んちの玄関先でぐったりしたヒナをそのまま放っておくことなどできません。
子どもそっちのけで、大人たちは慌てふためいたものです。

そんな私たち、とくにSさんは、いまやツバメ養育のプロフェッショナルと言っても過言ではないでしょう。

あれだけキミ悪がっていたエサのミルワーム(イモ虫系)を、サッサと手づかみで取りあげてヒナのクチに運びます。 タンパク源が必要だと聞けば虫もせっせとあたえます。

プロとアマの差をつける「サッサとイモ虫」のおかげで、衰弱していたヒナは3時間ごとに元気に、そして、半日ごとに大きくなっていきます。

エサを与えるのは親ツバメのペースに合わせておよそ2,30分に一回。

えさコール

食べる

フンをする

寝る

フンの始末もかかせず、ハンパな作業ではありません。

こうして家の中は数日間、ツバメベイビー1色になっていくのでした。

 

里親&生みの親の協力タッグが誕生する

養子に迎えたとはいえ、いずれは道子ジョントラボルタ)、そして自然界にお返ししなければなりません。

「おたくのガキどもはここにいますよ」

と外でアピールしてご両親を安心させます。

最初は警戒していますが、母は強し、すぐに道子が近づいてきます。父のトラボルタは電線の上から見守っていて、スズメに対する戦闘態勢をかかさずかっこつけてばかりです。
数分もすると道子がヒナたちへ、エサをせっせと運んでくるようになります。
まさに里親である人間と、生みの親とがタッグを組んだ記念すべき瞬間。

道子さんはどこまでも厚かましくなり、朝、窓や玄関をあけておくと、家の中まで入ってくることもたびたびです。
人の子を育ててるにもかかわらず、生みの親の不法侵入に、奇声をあげてよろこぶSさん……。ばかじゃないでしょうか。

ずうずうしいにもほどがある道子さんと、お人好しにもほどがあるSさん、最強のコンビネーションで、巣立ちの日まで協力体制に入ります。


ママー!ボクらココにいるよー!
あれーママー!見えないのー?バカー!
あーよかった。もう安心だからまた寝るか
やっぱり近くにいたいよね

ツバメの季節がくるたびに、私たち大人も、いろいろなことを学んでいきました。

一度巣立つと巣にはほとんど戻らないということ、ツバメにも性格があるということ、意外に大きいヒナのエサ、人の顔もちゃんと認識できます。それから、ただの習性とは思えないツバメファミリーの結束。だけど他人には恩知らず。


一番お気に入りの場所だよ

美談ばかりではありません。
メスの中にはよりよい子孫を残すためとはいえ実にけしからん"したたかツバメ"がいることも知りました。

尾の長いかっこいいモテツバメと不倫をして授かった子どもたちを、そしらぬ顔して実の夫に育てさせるといいます。
他人の子だとはつゆ知らず、巣作りにはげみ、せっせとエサ運び、必要とあらば命がけでギャングと戦うおめでたいオスが気の毒でなりません。道子さん(仮名)がまさかそんなあばずれ鳥だったとは……。

一方、そんな大人の事情も知らずに、ビービーギャーギャーとえさコールにはげむベイビーズ。その対象は犬にまでおよび、飼い犬のモカ君も当惑の日々。


「ともだち……だよね?」「わかったわかった。わかったからもう寝させてよ」

条件反射?
いやただお腹が減ってるだけ。コレ食えねー!
あれ?ボクひとりぼっちなの?

「巣立ちの準備」(ツ)と「心の準備」(人)

サワサワとした白い産毛がなくなるころ、ヒナたちは片方ずつ羽根をひろげる仕草をはじめます。
人間が大きく伸びをするかっこうに似ているこの行動を、私たちは
「巣立ちの準備」
としてとらえています。

「そろそろかな」

エサを運ぶでもなく、親ツバメがさかんにヒナの頭上をさかんに飛ぶ光景が見られるのもこの頃です。
かっちょよく飛行する彼らを、あこがれの目で一斉に追うヒナたち。
ウィンブルドンでボールを追う観客と似ていますが、もちろんぜんぜんちがいます。なにがちがうって、かわいさが、もーぜんぜん。

「もうすぐだね」

それでもこんなに幼い顔をしたヒナが、今日明日中に飛んでしまうとはとても思えないのが親ゴコロ。
ひなたぼっこの最中に、あいさつもなしにいきなり飛んで行くのですからなんという恩知らずでしょうか。

あわてて続くヒナもいれば、2、3日取り残される小心者もいます。
親と、先に飛びたった兄弟に促されて、最後のヒナも勇気をふりしぼります。

 


ぼくも飛べるようになれるのかなあ……

飛べるよーけっこうカンタンだったよー

こうなったら人間はまったく無力です。
飛行レッスンはおろか、ふざけて二階から飛び降りたときにも顔面から落ちた私などクソの役にもたちません。

あ!

そして二日後の早朝に、最後のヒナも、兄弟とトラボルタの待つ電線めがけて飛んでいきました。ほとんどヤケクソのジャンプから見事に飛行。あっという間のできごとですが、これが、私たちとヒナたちのお別れになります。

道子トラボルタはこれからもしばらくエサを与えながら、空中バトルや食料捕獲のトレーニングをはじめるのでしょう。

「礼をくれ」
とは言いませんから、来年もどうか戻ってきてくれますように……(どこまでもお人好しなSさん談)


バイバーイ!
また来年会おうねー!浮気すんなよ〜!

スペシャルサンクス

 

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