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コネタ


コネタ723
 
僕の「まんが道」
これ自体は無上の喜び

漫画の持込をすることになった

はじまりは僕のささいな出来心だった。

今年5月のこと。調子に乗って漫画家さんにファンレターを書いてみたら、なんと返事をくださった。
それがあれよあれよという間に、コネタ道場⇒黒帯⇒コネタ企画⇒漫画持ち込みしてみよう、ということに。

自分でも掴みかねますが、そういうことなんです。はい。

確かに、返事には『いつか漫画家デビューしてください』と書いてある。
そして、自分自身、小細工して、返事を頂いて申し訳ないなという気持ちがあり、引っ掛かっていたという部分があった。

覚悟を決めた。
土俵は、描きやすいだろうと思われる4コマ漫画

僕の「まんが道」がはじまりました。

(text by うえるりゃこと 上村 裕二

道はけわしい

とはいったものの、漫画を描こうにも、何をどうしたらいいのか分からないことだらけ。
唯一の頼りは小学校5年生の選択授業でマンガクラブなるものに所属していたという過去だけだ。
非常に細い命綱。蜘蛛の糸。あとは、長年集めてきた漫画たちが力を貸してくれることを祈るのみ。とにかく作業してみることで道を開くんだ。「まんが道」を。

確か、マンガクラブではケント紙を使っていた。さらに東急ハンズでそれっぽいペンも購入。
それっぽいもので勝負することにしよう。それっぽさで勝負だ。


それっぽい道具とそれっぽい格好で
それっぽく照明を落として作業開始
それっぽくコマを割り、
それっぽく下書きをして、
それっぽくペンを入れる

想像以上に時間がかかる作業ということに気づく。これは大変だ。

絵の実力は見ての通り。こんなもんです。方向性としては、自分が普段ブログに落書きしてるのをベースに描いてみることにした。
要は、人間の体みたいに複雑な部分は描けないぞ、ということ。

家だけでは息がつまるので、他で缶詰になってみることにした。
缶詰。いい響きだ。それっぽく漫画を描いている気配を感じる。ただ、自ら行くものなのかは疑問ではあるけども。

 

試験期間中に頭を抱える

とりあえず、静かで集中できそうな場所という事で、大学の図書館へ。


試験勉強にいそしむ人々

やっぱり缶詰とはなんか違う

一心不乱に勉強に打ち込む彼らの中で僕も頭を抱えてみる。

溶け込んではみたものの、行動のベクトルとしてはまるで違うほうを向いてしまっていることだけはひしひしと感じている。だれもコマ割りしてないし。
それにしても、この状況を説明する自信がない。知り合いに話しかけられなくて良かった。

缶詰になってみて改めて思う。何を描けばいいのか。

ネタはどう考え、どう起承転結をつけて、どの様に描けばいいのか。
何とかしようと思えば思うほどどツボにはまっていく。

もともと、分からないことだらけで取り組んでいる上に、

「大体、『面白い』ってなんだろう?」

そんな根本的な部分でさえ悩みの種になってくる。それにしても、試験期間中の大学生の悩みとは思えない。
それっぽいスランプが訪れたということにしよう。

たかが4コマ、されど4コマ。4コマ漫画という名の迷宮に迷い込んでしまったようだ。

4つの枠に広がる小宇宙、それが4コマ漫画。そこには人生の縮図がある。

それっぽい格言をそれっぽく胸に、それっぽく悩みつつ、それっぽい作業は当日まで延々と続いたのだった。

 

持ち込み当日

双葉社
『かりあげクン』や『クレヨンしんちゃん』などでお馴染みのマンガ雑誌、『月刊まんがタウン』を発行している双葉社。
ここが今回の道の終着点=持ち込み先。ただでさえ緊張しいの僕。今にも息が止まってしまいそうだ。うーん。
同行には石原道場主、そして、林さんもいらっしゃった。ドキドキが一層増してしまう。うーん。
増尾氏。やけに神々しい

大人の世界。名刺交換もはじまる。
なす術なくみつめる。

今回、協力してくださった『まんがタウン』副編集長の増尾さん。それっぽく言うと増尾氏。

とりあえずは優しそうな方でよかった。
いや、でも、こういう人に限って突然、鬼編集者に早変わりするのかもしれない。虎柄のパンツを穿いているのかもしれない。

勝手に疑心暗鬼に陥り、勝手に胃を痛くする。


まずは、お仕事の話などを聞きつつその時を狙う。

林さん、石原さんが植田まさし先生のエピソードに夢中になっている横で、小動物となって息を潜める僕。
『コボちゃん』の〆切が毎日だという話は確かにスゴイなと痛感しつつ。

ちなみに、持ち込みは週3人ほどで、それがきっかけで、現在連載している人もいるとのこと。中には小学3年生くらいの子が祖父母に付き添われて持ってきたこともあったそうだ。
中には小学3,4年生くらいの子が祖父母に付き添われて持ってきたこともあったそうだ。
色んな意味でプレッシャーが重なる。完全な前フリでもあるんだけれども。

そして、何よりもビンビン感じた、明らかに勘違いしたものを持ってきてしまったという猛烈な後悔。

 

その時はきた

この時がこなかったら良いのにと何度も思ったが、もう出すしかない。
ドキドキしつつ、カバンから4枚のそれっぽいとは今や言えなくなった原稿を取り出し手渡す。


もう、ホントに、
今すぐにでも
どこか遠くへ
消えてしまいたい

苦笑いで読み進める増尾氏。この妙に静まった空気が耐え難い。
もし、この先、増尾氏の皮膚が真っ赤に染まり、角が生えてきて虎柄のパンツ一丁になって僕を金棒で殴ってくるようなことがあっても受け入れようと思う。
僕が悪いのだから。

『まんがタウン』の掲載作品はあくまで身近な世界観で成り立っている、というのは先ほどのお話の中で痛いほど気づいている。
そして、原稿を見せる直前に、僕の漫画の内容はまだ知らない石原さんが
「動物が普通に歩いたり喋ったり、天使や悪魔が出てくるようなものではないってことですよね?」

と聞いていた時の衝撃も忘れない。
これほど人が恨めしく思えたこともない。

そんな状況下で、動物が歩いて喋って色々やって、みたいな漫画を見せてしまっている僕。


増「いきなり神様でてきまちゃいましたね。」
はい。すみません。

増「これは誰なんでしょうか?」
はい、すみません。

増「まず、紙のサイズが違いますよ。」
はい、すみません・・・え?

どうやらスタートから間違いがあったようだ。
原稿はB4サイズを縦に使うのが正しいらしい。僕のはA4。
マンガクラブという命綱がプッツリいった。あの図工室での日々は遥か遠く、あの日の夕陽が沈む地平線へと役立たず。
道理で細かい部分とかが描きにくいと思った。ま、それだけではすまない部分があるのは置いておこう。

さらに増尾氏がわざわざ、ナマ原稿を持ってきて見せてくださった。ホントに親切だ。
そして感じる歴然とした差。差というか別の次元にある。


漫画としてあるべき姿。
それにしてもうまい
それっぽくもなんともない何か

その他のアドバイスをまとめてみると、

・うちは、ユーモア雑誌であって、ギャグ雑誌ではない。
・ディテールにはこだわったほうがいい。
・扉から描く。
・職業や生活感のあるものを題材にしたほうがいい。半径20メートル以内な世界観で。
・下書きくらいはちゃんと消しましょう。
・読者がついてこれるように。

などなど、多すぎてちょっと入りきらないぐらい。穴だらけの僕の漫画?に親切丁寧な多くのアドバイスをくださった。常ににこやかで、鬼でも何でもなかった。角も虎パンもどこにもない。

ただ、最後にこの持ち込み漫画を10点満点で採点するとすれば?との問いには。
「1点ですね。」
とのお答え。ありがとうございます。とってもスッキリしました。


そんな感じで決戦は終わりました。惨敗で。それっぽいでどうにかなるもんじゃありませんでした。なめてました。

これからはもっと強調して言おうと思います。
「僕、漫画大好きです。読むの。」って。はい。

 

恥ずかしながら

そして、持ち込んだ作品をここに掲載です。読みにくくて申し訳ありません。

【4コマ漫画『ぐうたらんど』 1234 】

増尾さんが「このまま突っ走るしかないんじゃないですかね」と優しくサジを投げた4ページ8作品。

迷いに迷って、色々試してみた結果、地面に向かって走り出してしまった感じです。
今読み返してみると怒りと言うか、悪寒のみがこみ上げてきます。
プリントアウトしてでも破り捨てたくなること請け合い。
でも、破っても破ってもなくなりはしないんですよね・・・。

こうして、僕の「まんが道」は終わりました。
けもの道を行こうとしたら、迷ってべそをかいた感じで。

実際に漫画というものに取り組んでみることで、その厳しさ、奥の深さというものを覗いた気がします。ありがちですけど、実感で。
そして、それを描き続け、僕たちを楽しませてくれる先生方、また、編集の方々に更なる尊敬の念を抱くと共に、調子に乗ってすみませんという気持ちも倍増しました。

増尾さん、お忙しい中お付き合いいただきありがとうございました。

そして、改めて。
うすた先生、お忙しい中お返事くださり、ありがとうございました。そして、すみませんでした。

【僕のまんが道・完】

【作者限界のため、次回作はありません】

『月刊まんがタウン』(双葉社)毎月5日発売
かりあげクンは「ほんにゃら産業」勤務の独身サラリーマンです


 

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