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コネタ


コネタ774
 
東京ボート散歩
扇橋閘門は東京のパナマ運河だ

以前に神田川の分水路をボートで進んだのと同じ日、東京の珍しい水辺スポットもいくつか回っていた。

今日はその中から2つ、第六台場と扇橋閘門(おうぎばしこうもん)をご紹介したいと思います。

(text by 三土たつお

まずは第六台場へ

江戸末期の黒船来航に驚いて作られた6つの台場のうち、現在に残るのは第三台場と第六台場の2つだけらしい。

そのうち第三台場の方は台場公園として整備されていて、当時の砲台跡なども残っているとのこと。

一方、第六台場はレインボーブリッジの脇の小島になっていて、陸からは辿りつくことができない。

→地図

今日はせっかくボートに乗っているのだから、ぜひともその未踏の地に上陸してやろうではありませんか、というわけです。


勝どきから晴海を抜けると、
あっという間にお台場が見えてくる。

 

第六台場が見えた

案内してくださるのは前回と同じく、勝どきマリーナの渡辺さん。

勝どきからお台場まで、ふつうだったら電車を乗り継いで30分近くかかるはずだけど、さすがに船は速い。

反則のような一直線のショートカットで海の上を進み、ものの10分ほどでレインボーブリッジ付近までたどり着いた。


橋の下に小さく見える緑が第六台場。
レインボーブリッジをくぐると、

うっそうとした森が見えてきた。

第六台場全景。大きさは一辺が100mちょいの正方形のような感じ。

 

さあさあ上陸するぞ

よし、あとは乗り込むだけだ。

どこからでも上陸してやるぞ、という意気込みで島のまわりを回る。


砂場にシロサギ。ここからは上陸できないか。
お、ここは入口っぽい。でもなんか書いてあるぞ。

ばーん! 「立入禁止」。ごていねいに柵もつくられてます。

 

立ち入り禁止でした

あっという間に終了。ごめんなさい、入れませんでした。

さすがにそれくらいは先に調べておけと、われながら突っ込みを入れたくなる。余りにもいきあたりばったりだ。

調べたところによると、長らく立ち入りが制限されているせいで、貴重な野鳥や植物の宝庫になっているらしい。それらを保護する意味でも、むやみに立ち入らない方がいいのかもしれませんね・・。

 

すごすごと引き揚げる。

気をとりなおして扇橋閘門(おうぎばしこうもん)へ

まあ、中をちょっと覗けただけでもよしとすることにしよう。細かいことを気にしてはいけない。

次は、船を運転して下さっている勝どきマリーナの渡辺さんに教えていただいた、小名木川の扇橋閘門へ。

→地図

ここは、水面の高さを調節しながら階段式に進むゲートになっていて、ちょうどパナマ運河と同じ方式らしい。

パナマ運河には行ったことがないけど、階段式運河をくぐるのは面白そうだ。どんな感じなんだろう。


隅田川から小名木川の入口。
左の写真の橋から河口を逆に眺めたところ。
高橋のりば。佐藤君でも乗れるのかが気になる。

江東区は昔から海運がさかんだったということで、小名木川を含め、いくつもの川が縦横に走っている。

小名木川の両岸にも、プレジャーボートから水運用のはしけまで、いろいろな船がつながれていて、川が今でもふつうに生活手段として使われている、ということが分かる。

渡辺さんのお話によると、東京都は今、「運河ルネッサンス」という取り組みの中で、運河をより積極的に利用しようとしているらしい。

将来的には水上タクシーのような話も実現するかもしれないとのこと。じっさい便利だと思うし、すごく楽しそうだ。

 

扇橋閘門の西側の入口。この扉が開きます。
扇橋閘門に着きました

そしてあっという間に目的地についた。

前方に大きな赤いゲートが閉じていて、よく見ると橋の欄干に設置された信号が赤をしめしている。

なるほど。川にも信号があるのか、と思っていると、信号の右隣のスピーカーから案内が聞こえてきた。

> きいてみる <
(ステレオ:102KB)

 

通行できる船の長さや時間帯が決められている。

ぼくたちのためにわざわざ案内してくださっている、と思うとちょっと申し訳ない気がする。

「切り替え運転」というのはゲートの中の水面の高さを調節することらしい。

「向こうの水門を閉めて、こっちの水門を半分だけ開けて、水量の調整が終わったら全開するって感じですね。」(渡辺さん)

切り替え運転を待っている間、ごうごうと水の流れる低い音が聞こえていた。

 

そもそもどういう仕組みか

小名木川の流れる江東区は、西側の地盤が高く、東側が低くなっているそうで、なにもしなければ、隅田川からの水が住宅地の広がる東側にどんどん流れ込んでしまう。

そこで、東側の水位を一定に保つため、いまから30年ほど前に階段式の閘門が作られたらしい。30億円の事業費と約5年の月日を費やした、と近くの看板に書かれている。

そういう大変な思いで作られたゲートを、ぼくは今なにげなくくぐろうとしている。ぼくがもし閘門の職員だったら、「お前ら遊びなんだから来んなよ〜」とか思うかもしれない。

いや、ち、違うんです。しゅしゅ取材なんです。

誰に訊かれてもいないのに、なぜだか自分自身に言い訳をしてしまう。

 

そして扉が開いた

第一段階の水位の調整が終わったらしい。前方の扉が少しづつ開きはじめた。


とびらがいま、
少しづつあがっていく。
上がりきり、信号が青になった。写真では分かりづらいけど、扉から川の水が雨のように落ちていて、くぐるときにいくらか濡れてしまう。

 

中はこんな感じ。長さは100mくらい。
ゲートの中に入りました

上から落ちてくる水を少しだけ浴びながらゲートの中に入ると、ふたたびスピーカーから案内が聞こえてきた。

> きいてみる <
(ステレオ:102KB)

水位が2m30cm下がる、とのこと。

下がる幅はその日の潮の具合によるそうで、1mくらいの場合もあるらしい。それに比べると2.5mはかなりの高低差だ。今日は大潮なのかもしれない。


水位が下がるようす。扉の濡れた部分にご注目。
2分で1mほど下がる。
2m30cm下がりきりました。ここまで5分ほど。

ここから下がってきたわけですね、と渡辺さん。

 

そしてゲートの外へ

乗っていると、みるみる水位が下がるのが体感できる。同行した知人によると、

「小型船だから、水位の変化がこんなにはっきり分かるんだと思う。大型船でパナマ運河に行ったことがあるけど、ふーん、ぐらいだった。」

とのこと。そんなものなのか。

水位が下がりきり、次の扉が開き始めた。前方を見ると、向こうからこちらへ来ようとしている船がある。

自分たちのためだけに運転してもらうのは申し訳ない・・と思っていただけに、ちょっとだけ重荷が取れた気分になった。


「後扉」をくぐると、
対向する船が。なぜかほっとする。
さらに進んだ新中川で見かけた立体駐車場。ミントグリーンの壁に殺風景なイラストは、ダンディズムの観点からすると減点か、などと知ったようなことを言ってみる。うそです。ごめんなさい。
川の交差点にはちゃんとミラーも設置されている。道路みたいだ。→地図

やはり川は楽しいです

「神田川の分水路をゆく」のときも感じたけれど、やっぱり川は楽しい。

風が涼しいし、信号もないし、道行く人は手を振ってくれるしで、一度体験するとかなり病みつきになる。

ただし、残念ながら現状ではやはり個人で楽しむにはコストが高いように感じる。運河ルネッサンスのような事業が少しづつ実現して、川がより身近な存在になってゆけばいいな、と思う。

水上タクシー、ぜひ乗ってみたいです。


 

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