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コネタ


コネタ786

 
1966年生まれのレトロなボンネットバスに試乗してきたぜ
ボンネットバス。(いすゞBXD30・1966年型)

茨城県のつくばで去る9月6日、平日にひっそりとボンネットバスの試乗会が行われた。塗装は行われたものの内部はそのまま保存された1966年型のバスだ。動く状態で保存されているものは大変珍しい。

自分はバスには疎いけどレトロなものは好きだ。だから乗りたい。乗りに行く。

日本で唯一のバス文化を守るNPO団体「バス保存会」の方の『将来はバス博物館を作りたい』というロマンあふれる話と一緒にお楽しみください。

梅田カズヒコ

急ピッチで開発が進む駅前ビル。(つくばエクスプレス八潮駅前・電車内より)

つくばエクスプレスでつくばへ。

会場のつくばへは開業のしたてのつくばエクスプレスで行く事にした。僕はこの日、新しい鉄道と古いバスを同日中に体験できるわけで、非常に舞い上がってました。乗り物って楽しいですね。ふー。(自己陶酔中)

つくばエクスプレスの乗り心地は一言で言えば『なめらか』。加速と減速で体が揺れる事がなく“うまい人が運転した車”のようでした。

沿線は今まで鉄道空白地帯だった場所が多く、突如駅前になってしまった田園地帯は区画整理や駅ビルの建設が急ピッチで進められていました。

 

現場に到着!

今日のコネタの本来の主旨を思い出し(このままだとずっとつくばエクスプレスの話題になってしまいそうなので)バスの試乗会・シンポジウムの会場へ向かった。


つくばに集まったバス好きたち。

合理性には欠けるかもしれないが、どこか愛らしい形をしているボンネットバス。

血気盛んなバス好きや、地元の物好きに囲まれるボンネットバス。会場はどこかほのぼのとした雰囲気だった。みんなペタペタ触ってみたり写真を撮ったり『ほぉー』とうなづいたり思い思いの行動をしている。

今回乗せてもらうバスは『いすゞBXD300型』と言って現役時代は三重交通で走っていたバスをバス保存会という団体が引き取ったものらしい。

ボンネットバスとしては後期のものであるらしいが現在運転できる形で保存されているものは希少価値であるらしい。首都圏一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)ではディーゼル規制の関係上路上を走る事も許されない。

なるほど、つくばまで来た甲斐があった。

 

中はこんな感じ

車両前方部
車両後方部

木造の床。歩くと微妙に軋む。
運転席には変色した車両案内板が。

とにかく車内が油くさい。独特の油のにおいが染み付いていている。ネットで臭いを伝えられないのが残念だがイメージだと旧家の蔵に入ったら灯油が入ったケースが大量に置いてあったよ。というような臭い。

中は古いわりにはきれいで後にインタビューで出てくれるバス保存会の方が丁寧に手入れをしたのがわかる。
ただ、床だけは時代の荒波を乗り越えてきた感じがダイレクトに伝わるような木造りの古びた雰囲気でした。

上の車両後方部の写真が一番わかりやすいが天井がアーチ型になっている。曲線なのがいい。曲線を見た時人は落ち着く(と、誰かが言っていた)。

もちろんノンステップバスではないけれど、この時代には客席乗務員が在中したので車椅子に乗っている人でも無理なく乗る事ができたそうだ。
そう思うと時代は進化しているのか迷走しているのかよくわからない。

がるるるるるん! と獣が長い眠りから覚めたようなおたけびをあげてバスは発進。
10分程度の短い間でしたがボンネットバスの乗り心地を楽しみました。ボンネットバスのバスの古い感じと、つくばの新しい町並みと、両方あいまってなんだか幻想的な雰囲気に包まれていた気がしました。

 

試乗会のあとは、シンポジウム、パネルディスカッション

バスに関しての熱い討論が交わされるシンポジウム会場。

実は今回のイベントは
(社)計測自動制御学会システムインテグレーション部門福祉工学部会、同ユニバーサルデザイン部会、同自動化システム部会
という一度聞いただけではどんな活動をしているのか分かりかねる名前の社団法人が主催するシンポジウムだったのだ。ボンネットバスの試乗会はそのイベントの中のひとつの目玉だった、というわけだ。

このシンポジウム、簡単に説明すると、バス利用者の減少に伴い経営が苦しいバス会社だが、地元にとっては大切な足である場合も多いのが現状である。だから少しでも利用者を増やして路線を守りたい。そのためにはどうすればいいのかを利用者、行政、事業者の代表者を集めて討論するといものだ。

興味を持たれた方は以下のサイトを参考にしてほしい。

バスのシンポジウム・試乗会

 

主催の方にインタビューをしてみました。

この一風変わったイベントの主催者はどんな人だろう。きっとユニークな発想の持ち主に違いない。そう思った僕は主催の方にインタビューを試みました。

佐藤 滋さん

(独)産業技術総合研究所・人間福祉医工学部門ユビキタスインタラクショングループ主任研究員

NPOバス保存会・理事長
そして
今回のイベントの主催者です。

 

『バスの博物館を作るのが夢なんです』

梅田:(名刺を見ながら)長い肩書きですね。分かりやすく言えば何をされてる方なんですか?
佐藤:昔はもう少し分かりやすい名前だったんですが、国から民間の団体になって、ずいぶん長くなっちゃいましたね(笑)。前身の団体は、産業を盛んにするために、国として考えなければいけない課題を考える研究機関でした。行政改革で独立行政法人になりました。

梅田:具体的にいいますとどのような研究をされてらっしゃるんですか?
佐藤:今、研究しているのがパソコンのマウスについての研究ですね。たとえば、マウスに関して、今のマウスが最高かって言われたらきっとそうじゃないですよね。まだ改良の余地があるはずなんです。たとえばカーソルを持ってきてクリックするときにほんのちょっとずれて思った場所がクリックできない事ってあると思います。これはなんでかと言うと、人はクリックするタイミングになると自然に力が入ってしまうからなんです。そこでマウスに力を察知する機能を付けまして、力が入ってくるとスピードが弱くなるように設定するとより思った場所にクリックができるようになるのでは、というような人間工学的な研究を行っているんです。

梅田:なるほど、わかりやすいです。で、その人間工学的な見地から、バスをよりよく使う方法を考えるために今回のイベントを企画されたわけですか?
佐藤:そうですね。今回の主催はほかの部会も集まって企画したんですが、究極的には僕らは人間の幸福を増すための研究を行っているわけです。で、たまたま僕はNPOでバスの保存会をやっていたので、このイベントを企画しました。

梅田:バスのほうは趣味から生まれたものなんですか?
佐藤:ええ、もうバスが好きで。バスを文化遺産として後世に伝えていこうという思いからバス保存会というNPOを作っております。

梅田:なるほど。人間工学の仕事と、バスの趣味の交点に、この企画があるわけですね。バスの文化というと、なんとなくは分かるんですが、もう少し詳しく話しますと……
佐藤:分かりやすく言えば、バスの博物館って日本にないんですよ。船の博物館も、鉄道の博物館も、自動車も飛行機もあるのにバスはない。国民全体の意識として、たとえば鉄道はひとつの文化なんですよ。バスも文化として残していきたい。1台のバスの寿命は平均10年から15年で、それが過ぎるとスクラップされてしまうんですが、それを少しづつ集めて展示できないかな、と。だから将来的にはバスの博物館を作るのが僕の夢なんです。


バスについて熱く語るシンポジウム中の佐藤さん

 

『バスと対話できるかどうかはセンス次第』

梅田:日本でこのような活動をされているのは佐藤さんだけなんですか?
佐藤:法人格ではうちだけだと思いますね。あと、日本バス友の会という趣味の団体がありますが。19年ほど前から活動しておりまして、今15台のバスを集めました。今回試乗に使ったのはその内の一台です。
梅田:古いバスのどこに惹かれますか?
佐藤:私は古いものが好きなんですよ。なんていうか(しばらく考え込んで)人間っぽいんですよ。私は運転もしますが(実は今回の試乗会のイベントでは佐藤さんが運転した)、ていねいに手をかければそれなりに帰ってきますし、下手な事すれば駄々をこねてしまします。人間くさい機械ですね。
梅田:繊細なんですね。佐藤さんは運転手の経験をされていないですが、今回の試乗会では運転してましたね。バスって誰でも運転できるものなんですか?
佐藤:センスさえあれば誰でもできますよ。ある程度のところまでなら誰でもできます。でも、その先バスと対話できるかどうかは、その人次第なんですよ。(と言って得意げな表情)機械と対話できるかどうかは、その人次第。
梅田:ほー、深いですね。
佐藤:哲学的な話になっちゃいましたね。
梅田:どういう対話があるんですか?
佐藤:たとえばエンジンとタイヤの音ですとかね。ハンドルに伝わってくる手ごたえ。今、もっとエンジンふかしてくれ、とか今はもうこれが限界とか、あのー……伝わってくるんですね。
梅田:今日はどうでしたか?
佐藤:今日は機嫌よかったです。(笑)


『ハンドルの手ごたえから、今日のバスの調子が分かるわけですよ』

佐藤:最初は埼玉の熊谷の車庫で古いバスを保管していたんですよ。でも、排ガス規制がありましてね。(※1)ディーゼル車である古いバスは埼玉を走れないと。そこで茨城県に移転しました。今、走る機会といいますと、たまに映画の撮影なんかで使われるぐらいですかね。

現在は保存バスの見学は一般開放はされていないそうだ。いつか佐藤さんプロデュースによるバスの博物館ができたとき、真っ先に見学しに行こうと思う。


(※1)石原都知事の政策で有名なディーゼル車規制。東京都で始まったが、現在は神奈川、埼玉、千葉を含む一都三県でディーゼル車規制が行われている。

バスの型番やメーカーの違いについて語る佐藤さん

すっかり日が暮れて、つくば駅への帰りのタクシーの中で運転手さんに『今日は古いバスが走ってるんですね』といわれた。テールランプの向こうにうっすらと見えたのは昼間試乗したバスだった。佐藤さんはバスを車庫に戻す最中だったのだ。タクシーはやがてバスに追いついたのだが、僕は身をかがめて気づかれないようにしていた。佐藤さんは今、バスと対話中なのだ。気軽に話しかけたり手を振っちゃいけない。


 

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