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コネタ


コネタ855
 
日本一短いトンネル
「たるさわずいどう」、矢印で示せるほど短い

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であつた。」
言うまでもなく、川端康成の小説「雪国」の冒頭の一節だ。

これに限らずトンネルは、しばしば人生に例えられる。
延々と続く暗闇、挫折、失敗、破滅、悲劇、蹉跌。
不幸は長く続いて欲しくはない。
短いほうがいいに決まっている。
はやく抜け出せ、トンネルから。

そんな切なる願いを込めて、くぐってきました、日本一短いトンネルを。

(text by クドウ

トンネル全景。というかただの岩だな、こりゃ

眼下に吾妻渓谷、足がすくむ

短い。プラレールのトンネルだってもうちょっと長い

目指すは群馬県吾妻町のただの岩

全長7.2m、鉄道トンネルとしては日本一短いという樽沢トンネルは群馬県内を走るJR吾妻線にある。

まずは車で向かい、トンネルの外観を見てみよう。
国道145号線を進むと目指すトンネルが見えてくるはずである。トンネルがあまりにも短いので、地図には出ていない。カンを頼りに探すと、「だいたいこの辺かな」というあたりに、でかい岩があった。きっとこれだろう。

道路沿いから見ると、何だかよくわからないただの岩である。
少し離れた所に、ちょうどこの岩を見渡せそうな、落ちたら死ぬよというような崖があるので、枯れ枝を杖にして登ってみたらトンネルが見えた。

おお、短い。

確かにとても短いトンネルだ。

でも、ただそれだけだ。
短いっていうだけ。

命をかけて崖を登ったので、何とか感動しようと試みたのだが、どう見てもただの短いトンネルにしか見えない。
当たり前だ、単なる短いトンネルなのだから。
どうやらボクには、短さを観賞し味わうという感性は無いらしい。残念だ。

ここに来てもまた失敗か。また挫折なのか。
努力は報われないのか。早く帰りたい。

暗い気持ちになりかけた所に、電車がやってきた。
電車がトンネルを通ったら、少しは感動するだろうか。
ああ!これは短いよ、とっても短いってば!!って。

電車がくぐり抜ける。でも木が邪魔でちゃんと見えない。おかげでまた特に感動もできず

 

川原湯温泉駅。木造の風情のある駅舎

駅前の観光案内図。本物より長めに描かれている

湯かけ祭り。天下の奇祭なのに前夜祭はカラオケ。そして夏祭りもカラオケ

たったひと区間なのに立派な切符

群馬の車窓から。むこうが見えるトンネル。短いというより、薄い

列車に乗ってトンネルをくぐる

外から見ているだけでは感動しないのかもしれない。
実際に電車でトンネルをくぐってみなくては。
樽沢トンネルの最寄り駅である、川原湯温泉駅から次の駅の岩島まで電車に乗ることにした。

川原湯温泉は、湯かけ祭りというのが有名らしい。
冬の厳寒期に裸の屈強な男達が温泉のお湯を掛け合う勇壮な祭りだ。
ぜひ今度はその祭りの季節に訪れたい、そんな思いに駆られたり、いや本当は駆られなかったりしながら、田舎のローカル線に乗り込む。

しばしの間の旅気分だ。

紅葉にはまだ少し間があるが、風光明媚な吾妻渓谷を電車は走る。

車内は部活帰りの楽しそうな高校生たちで賑わっていた。
きっと彼らはまだ、人生の暗いトンネルを経験していないのだろう。
屈託のない彼らの笑い声を聞きながら、屈託だらけの毎日を送るボクはそう思った。
青春っていいな。
通学電車で他人のことなんか考えずに大騒ぎできるような、そんな青春の日々がまた来ないかな。


川原湯温泉を出発して程なく、電車はトンネルに入る。
いくつかの普通の長さのトンネルを抜けると、目指す樽沢トンネルだ。

そろそろだろうか。車窓から少し顔を出してみる。

お、短い。
このトンネルは短いぞ。

ここぞとカメラを構えるが、いかんせんトンネルは短い。
あっという間に通り過ぎてしまい、カメラに収められない。
オーバーランだ。
運転手さんバックしてください。

仕方がないので岩島駅で折り返す。
今度は動画を撮影だ。

 

WindowsMedia
ブロードバンドナローバンド

QuickTime 
 ( ブロードバンドナローバンド ) 

短さ、おわかりいただけただろうか。
あっという間に通り過ぎる暗闇を。
この刹那のトンネルを。

けれども、ボクにはやっぱりわからない。
短いから何なのだ。
それがどうした。

いやいや、待てよ。
トンネルは人生なんかじゃないんだ。
トンネルはあくまでトンネルなんだ。
自分の人生を切り開くのはいつでも自分自身。
短いトンネルなんかに何も期待してはいけない。
確かにそこには短いトンネルがある。
それだけで充分素敵なことではないのか。

そんな風なことをボクに気づかせてくれた今回の旅だった。

ダムに沈み行く運命の樽沢トンネル

今回訪れた、日本一短い樽沢トンネル。
実はこのトンネル、近くに建設中の八ツ場ダムの完成に伴い、将来は吾妻渓谷ともどもダム湖の底にに沈んでしまうことが決まっているらしい。
これで水不足も解消されるだろう。
樽沢トンネルが水没したら、二番目に短いトンネルが日本一になる。
そうしたら、今度はそっちを見に行こう。

この日泊まった草津の、本文とは全然関係ない看板。青春模様

 

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