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コネタ


コネタ894
 
鳥肌を自由に立てられる人がいる

「僕、鳥肌立てることができるんですよ。」

Kさんは言う。

「安藤さんどうですか、鳥肌、立てられます?」

そりゃ僕だって寒いときとか鳥肌が立つことはありますけど、自由に立てることはできません。そう答えるとKさんは静かに話しはじめた。

「僕はできます。練習次第で立てられるようになるんですよ、鳥肌。」

それはよく晴れた秋の日の午後のことだった。

安藤 昌教

Kさん。

Kさんの特技

Kさんはお店の定連さんだ。今日は会社が休みだということで昼から顔を出してくれた。そんなKさんには人知れず特技がある。自由に鳥肌を立てることが出来るのだ。

さっそくやってもらおう。

はっ。
ぞぞぞぞぞ。

「いきますよ。」

力を抜くように2度3度両肩を上下させた後、Kさんは表情を険しくした。集中しているのだ。店内の空気がピンと張り詰める。互いに無言のまま10秒くらい経過しただろうか。

「きました。」

Kさんの表情が緩んだ。と同時に差し出された腕には確かにみっしりと鳥肌が立っていた。どこからどう見ても立派な鳥肌だ。本当にKさんは鳥肌を自由に立てることができるのだ。


そもそも鳥肌とは何か

辞書にはこう書かれている。

鳥肌は皮膚が鳥の毛をむしり取った後の肌のようにぶつぶつになる現象で、強い冷刺激、または恐怖などによって立毛筋が反射的に収縮することによる。

人は寒い時には立毛筋を収縮させて毛を逆立て、自身の保温を試みる。また恐怖を感じた時には敵を威嚇するために毛を逆立てる。どちらも本能的に我々の体にプログラムされた機能なのだが、進化の過程で体毛の薄くなった人類にはその名残として鳥肌が現れるのだ。

しかし自由に鳥肌を立てられるKさんは毛を逆立てることもできるという。やってもらった。


いきますよ。
ぞぞぞぞぞ。

その場ではちょっとわかり辛かったが、写真を見直すとなんとなく髪の部分が膨らんでいるようにも見える。Kさんの説明では、頭頂部よりももみ上げ周辺の方が立っているのがわかりやすいとのこと。Kさんはこれで敵を威嚇、もしくは自身を保温しているのだ。


当時を語るKさん。

どうやったらできるようになるのか聞いてみた。

「内から力を入れる感じではなくて指先からぞわぞわと冷気が上ってくるような感じですかね。だから腕とか足とかから先に鳥肌が立っていき、最後に髪が立つんです。」

ぞわぞわと上がってくるのはもちろんイメージ上の冷気だそうだ。自在鳥肌はイマジネーションを要するのだ。

 

以下、鳥肌を自由に立てられるKさん談。

・高校の頃、練習していたらある日突然出来るようになった
・寒い場所だけでなく、風呂の中とか暑い場所でも立てられる
・鳥肌が立つとなんとなく体が温かくなる
・すね毛も立っている
・はじめは寒い場面とかをイメージしながら練習すると良いでしょう

高校の頃にこれを習得したKさんは、今までに鳥肌を立てられることで得をしたことはないらしい。練習をはじめたきっかけは何だったんですか、と尋ねると「よくわかりません」と言っていた。仮病を使おうと体温を上げる練習をしていたときに出来るようになったのかも、と。進化の名残と高校生の無駄な情熱がうまく結びついた特技といえるだろう。この日から僕もこっそり練習しているのですが、未だ鳥肌を立てられずにいます。


 

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