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コネタ907
 
やっぱりお墓がでかい
撮影させていただきます

先日沖縄へ行ってきたのだが、かの地でぜひとも見てみたいものがあった。

それはお墓だ。

以前安藤さんが 墓がでかいというコネタを書いていて、その中で紹介されている沖縄のお墓に非常に興味を持ったのだ。ぼくも以前お墓に関する記事を書いている。お墓鑑賞家の端くれとしては沖縄のお墓も抑えておかねばなるまい。

というわけで、再びではありますが今回はぼくの視点から見た沖縄のお墓をご紹介します。実に興味深いのだ沖縄のお墓。「沖縄に行ったらお墓」だ、これからは。「るるぶ沖縄」とかにもお墓紹介ができるべきだ。

(text by 大山 顕

■沖縄お墓風景

沖縄では、市内・郊外問わずいたるところでお墓を見ることができる。住宅街のど真ん中にお墓、という風景もしばしば目にした。生活密着型のお墓。職住隣接のお墓だ。

これは、沖縄では伝統的にお墓は個人の家の敷地の中に作るものとされていて、いわゆる集団墓地というものがなかったためだという。本州でも昔は住宅のそばにあるお寺などのなかにお墓をおいていたのだが、いまお墓といえば郊外の霊園であって住宅街の中にお墓という風景は少しずつなくなってきている。沖縄では伝統的な風習がいまだに根強く残っているということだろう。

しかし、「住宅街のど真ん中にお墓、という風景もしばしば目にした」と書いたが、実際には何の予備知識も持たない本州の人間が沖縄に行ってそれとわかることは難しいのではないかと思う。それぐらい沖縄のお墓は変わっている。

もっとも典型的なのが「亀甲墓」とよばれる形のもので、これは以前安藤さんが紹介したものだ。


子宮の形をモティーフとしたという亀甲墓。奇妙な形だ。そしてとにかくでかい。


亀甲墓は現地の言葉では「カメヌクー」と呼ばれ、とにかくでかい。小さいものでも8畳ぐらいはある。墓の大部分が地中に埋まっていて、入り口と表面が地上に露出している。

亀甲墓群。これも住宅街の真ん中にあった。ぼくが子供だったらここで遊ぶね。


■「屋形墓」と呼ばれるお墓
沖縄で亀甲墓と人気を二分するのが「屋形墓」と呼ばれるお墓だ。文字通り家の形をしたお墓で、戦後に普及した形式だそうだ。

青い空、白い雲、屋形墓。ニライカナイの思想の反映か、お墓は海を向いていることが多い。


実は伝統的な亀甲墓へ埋葬にあたっては、「二回葬」というプロセスを踏むのだそうだ。これは遺体を火葬にせず、いったん埋葬し遺体が朽ちるのを待ってから、数年後に取り出して骨を洗い清め(「洗骨」という)、骨壷に入れて再び墓に戻すという手間暇かけた男の料理なのである。

家の形をした「屋形墓」はそういった二回葬をせず火葬をするようになったのと時を同じくして広まった墓フォルム。しかしこれが亀甲墓に負けず劣らず、厳しい墓鑑賞家の審美眼に耐えうるすてきなお墓なのだ。

 

■ダイナミック&コンフォータブル屋形墓


屋形墓群。どこかの国の住宅群と見まごうばかりの家っぷり。


この屋形墓、名前の通り遠くから見るとほんとにふつうに家みたいなのだ。

アプローチの階段もすてきな屋形墓たち。ぼくの部屋より余裕で広い。


お墓の裏。地中海沿岸の裏路地かよ。


沖縄の大らかな雰囲気と相まって、なんだかとても居心地がよいお墓だ。本土のしみったれた墓に慣れきった身にはまさにパラダイムシフトとも言える墓概念のコペルニクス的転回である。実際、沖縄の墓参りはお墓の前に集まってごちそうを食べながら歌ったり踊ったりするとか。二次会とかあるのかな。

 

■屋形墓の破風いろいろ

屋形墓を見ていたら、その破風の形にパターンがあることに気が付いたので、分類して紹介したい。まずは円弧をモティーフとした屋形墓。

丸みを帯びた破風が南国、あるいは大陸のテイストを醸し出している。すてきだ。


前述のようにお墓の前で宴会が開催されるので、前庭が広く取られている。

次は破風がフラットなもの。若干お墓らしい雰囲気を漂わせている。


ややお墓らしい近寄りがたさを演出。


さらに異国情緒あふれる様々な破風アレンジも。

思わず賽銭箱を探したくなる神社かのようなゴージャスな形も。

 

■色もいろいろ

上までの写真でお気づきになったかと思うが、お墓の色が実にユニークなのだ。本土のお墓に見られるような暗い色は見られることがなく、白を基調としつつ、さまざまなパステルカラーで墓を彩っている。

ブルー物件。青いお墓なんてはじめて見た。


上の3つはいかにも沖縄らしいブルーなお墓。背後の海とよく似合っている。違和感がない。青山墓地だったらこうはいかないだろう。「青」なんて口ばっかりだ。

色の冒険者。さすがにこれはどうなんだろうか。かたちはかわいいけど。


カラーリングに関して言えば、今回見つけた中での一番の意欲作が上の写真のものだ。この前庭で小一時間宴会とかやったら、目がおかしくなりそう。灰色見たら補色の黄色が見えたりして。

お墓に浮き輪。いかにも海のそばらしい忘れ物だがふつうあり得ない。

以前の取材で東京のお墓の写真を撮ったときはああ見えて「不謹慎なことしてるなあ」と恐縮したものだが、今回はそういう気持ちはほとんどなかった。ぼくの常識が麻痺しただけでなければ、これが沖縄のお墓の大らかさなのだと思う。

「撮影させていただきます」と手を合わせるたびに歓迎されているような感じさえした。勝手に。もっとみんな訪れて楽しんで良いんじゃないかな、お墓。ほんとに。

ニライカナイは「天」ではなく「水平」の思想だという。ご先祖さまとか神様は高いところにいるのではなくて、対面してそこにいる。沖縄のお墓のフレンドリーな感じ、そして形に関しても本土のお墓が垂直を意識したデザインなのに比べ沖縄のお墓が横に広かったり、家だったりするのはそういうことなのかもしれない。

ぼくがもっともらしいことを言っているときは、ほぼ言い訳です。


 

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