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秘伝のタレに創業当時の成分は残っているか

うなぎ屋さんなどで代々受け継がれる秘伝のタレ。

中には、江戸時代の創業当時からカメに少しづつ継ぎたしながら使っているお店もあって、
「初代の作ったタレがまだ少し残っているかもしれませんね」などと店主が言ったりする。

そう言われるとありがたいような気がしてくるけれど、実際には昔の成分はどれくらい残っているものなんだろう。

(text by 三土たつお

左が新しく継ぎたす用のタレ。
右が創業当時のタレ。

「継ぎたして使う」という部分のみ再現してみる

というわけで、タレを少しづつ継ぎたして使う、という部分だけをマネして、最初の成分がどれくらい残っているかを検証してみよう。

分かりやすいように、創業当時のタレを青い水(写真右)、継ぎたす用のタレを黄色い水(写真左)にして、まざっていく水の色の変化を見ることにする。

右の青い方の1mlを捨て、 同じ量を左の黄色い方から補給する、ということを繰り返します。

具体的には、創業当時のタレ(青)をちょっとだけ捨てては、同じ量の「継ぎたすタレ」(黄色)を創業当時の方に入れていく。

これは、お店の人が毎日少しづつカメの中のタレを使っては、減った分を新しいタレで補給する、ということを模している。

これを繰り返すと、右側の青い水の量は一定のまま、左側の黄色い水だけがどんどん減っていくことになる。右側の水の色は、青に黄色が少しづつ混ざることによって、だんだん青から緑色になるはずだ。

今回は、それぞれ500mlのビーカーを使い、1mlずつ継ぎ足すことにする。

 

 

500日分をマネしてみた

上記のことを、左側の黄色い水がすっかりなくなるまで繰り返してみた。ぜんぶで500回、つまりうなぎ屋さんの500日をシミュレートするかたちだ。


最初の状態
100日め
 
200日め

300日

400日め
 
500日め

 

500日、つまり約1年半たっても、右側のカメは完全に黄色にはなっていない。きれいな緑色だ。つまり、最初の青い成分がまだ半分は残っている、ということになる。

1年以上前のカメの中身が半分も残っているとは、けっこう意外だ。あながち江戸時代のタレも現在まで残ってたりするんじゃないか?

 

計算でシミュレートしてみよう

これより先のことを知りたい。

ただしこれを1000回、2000回と繰り返すのはちょっとつらい。500回だけでも1時間以上かかってしまったから、2000回もやれば半日はかかる。

というわけで、ここから先は計算で出してみることにしよう。

唐突だけど、カメの容積を V、一日に使う(そして継ぎ足す)タレの量を d、そして、n日後に右側のカメに占める最初のタレの含有率を Cnとすると、Cn は次のように計算される。


タレの濃さの計算式(たぶん)。


これに、今回の500ml と 1ml の値を入れてみると次のグラフになる。

500ml という値が現実的でないならば、カメの大きさを50リットル、一日に使う量を100ccと考え直しても同じ結果になります。


縦軸は含有率(0〜1)。横軸は経過日数。

これを見るかぎり、500日経過時点では、最初のタレはまだ4割は残っているみたい。上の実験の結果ともだいたい一致する感じだ。

1割を切るのは1152日め、つまり3年以上たってからということになる。最初のタレはこの後もしぶとく生き残り、10年後でもまだカメの中の0.67%を占めている。

とはいえ、100年後になるとその割合は、0.0000…18(0が32個ならぶ)にも小さくなってしまうので、たぶん江戸時代のタレは、残っていても分子1個とか、そんな感じになりそうです。

本当のところは食べてみないと分からない

けっきょく残ってないのかよ、という結論になってしまったけれど、これはあくまで計算上のこと。

じっさいにはタレは完全に均一に混ざるわけではないし、カメに染みこむ分もあるかもしれない。いま食べている蒲焼のタレのほんのわずかでも、江戸時代の成分がそのまま残っているかもしれないと思ったほうが、幸せな気分になれますよね。

 

 

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