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コネタ


コネタ962
 
スプーンでトンネルを掘りたい

このスプーンでっ!

スプーン1本でトンネルを掘って脱獄した人がいたという。

人間、時と場合によって、ものすごいことができるものだ。絶対に乗り越えられないとされていることだって、思いもよらない方法と尋常ではない情熱でクリアーしてしまうことがある。

脱獄するためにスプーンで何十メートルも掘り進むなんていうことは、まさにその代表格だと言える。たぶん言える。

彼らの情熱と努力がどれだけすごかったのか。それを体験するために穴を掘ってみることにしました、スプーンで。

(text by 藤原 浩一

一本のスプーンを携えて、早速川原にやってきた。前回ここに来たとき、冷たい風がびゅうびゅう吹くものだからやや死にそうになったものだが、今回は防寒もしっかりしてきたのでやる気が寒気で失われてしまうことはない。やってやるぜ!


この橋脚を掘り起こしてやる!

このときやる気は満々、軽くモスクワまで地下トンネルを貫通させるつもりでいたのだが、冷静に考えてみると、どう考えても無理だ。せめて乗り越える(掘り越える?)壁を、ということでダンボールで作った携帯用壁を用意したのだが、この日も風は強かったのですぐに倒れてしまう。


置いても

すぐに倒れる

仕方がないので、とりあえずは普通に掘り始めてみることにした。可及的速やかに持ってきたスプーンを地面に突き入れようとする。


ここか? ここでいいのか?

が、すごく迷う。皿に入っていないものに対して、スプーンをどこから入れていいものか戸惑ってしまった。ウエディングケーキを目の前に、スプーンを渡されたらどこから食べて良いかわからなくなるだろう。地面も同じである。やはりスプーンは食器である、という感覚を拭い去れない。

 

一切の迷いを捨て去り、心の目を開き、「ここだ!」というところにスプーンを突き刺す。・・・かたい。やはりスプーンは、地面を掘るための道具ではないようだ。当たり前か。グリップの部分に力が入らない。それとも地面を掘るには先割れスプーンを用意するべきだったか。


20分掘ってこれ。モスクワは遠い。

 

更に掘り進めると、更に良くわかってくる。スプーンはこうやって使うものではないことが。しかし、それと同時に思うのは、「だが、この圧倒的にやりづらい方法で数十メートルのトンネルを掘った人間がいた」ということである。

これでトンネルとかマジですか。

 

受刑者にとって、課せられた刑期を全うするというのは最も大切なことであり、脱獄なんていうのは許されることではない。が、しかし、誤解を恐れずに言うと、スプーンを使ってトンネルを掘るという行為の、その情熱や、その努力においてのみ評価すれば、並大抵の人間にはありえないことと思う。

2時間でこれだけ。

2時間掘っても、「お、拳が穴の中にずっぽり入った」という感触が得られる程度であった。これではトンネルどころか、人が入る状態まで掘るには大分かかりそうだ。非常に辛い。逆に言って「スプーンでトンネルを掘る刑」というのがあってもおかしくはないように思える。

 

3時間掘った。何だ、この暗闇は。

掘り出した土と、頑張って働いたスプーン。

3時間掘ったがこの有様だ。穴の直径が20cmくらいで、腕を入れても力が入らず、もう掘るというより削るという感じ。 あまりの作業のはかどらなさに愕然とし、あきらめてさっさと穴を埋めてしまった。埋めるのは1分で終わった。

トンネルを完成させるには穴をもっと広げないとならない上、長さもこの何十倍にもしなければならない。その偉業を成し遂げ脱獄した人の果てしない執念と、自分のヘタレ加減を比べると恥ずかしくなってくるような感じがする。

やり始める前は、トンネルが完成したら、次はヘアピン1本でスペースシャトルの解体でもやってみるかと思っていたが、どう考えても無理。むしろ軽々しくそんなことを思っていたことに対して謝罪したいくらいだ。

しかし、これ程達成するのが難しい作業、やり遂げた際の喜びというのは並大抵のものではないだろう。そんなわけで一生のうちに一回くらいは、スプーンでトンネルを掘って脱獄した人のような、情熱的に一生懸命打ち込める何かに出会えると良いな、とか思うわけです。

希望を実現させるために必要なのは、99%の努力と1本のスプーン。
 

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