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コネタ964

 
番外地・境界未定地・飛び地2006
“河原番外地”の文字。番外地って……

今年もよろしくお願いします。

さて、いきなり暗号のようなタイトルで申し訳ないが、地図上にてちょっと不思議な場所を見つけたので紹介させていただきたい。

東京と千葉の県境を流れる江戸川の付近で“河原番外地”という住所を見つけた。『番外地』と聞いて連想するのは網走番外地。
番外地という言葉のひびきには何か地の果てのような途方もない場所だというイメージがある。
しかしその番外地が東京と千葉の間にある。意外と近いぞ、番外地。さっそく番外地に行ってみることにしました。観光気分で。

しかし、この思いつきが意外な因果関係に触れることになろうとは。

梅田カズヒコ

この場所の謎は番外地という名前だけではないのだ。

さて、番外地という地名もすごいがこの場所はほかにも不思議な点があるのだ。それを下の地図で確認してほしい。




地図上の矢印Aの線は江戸川にかかる東京都と千葉県の県境の線。この線の左側が東京都で、右側が千葉県になる。そしてその県境の線をずーっと川下に下っていくとB地点あたりでふと県境の線が消えてしまうのだ。

そしてC地点あたりで再び県境の線が復活している。つまりBからCまでは県境が存在しないのだ。別にこの地図だけが線を書くのを忘れたわけではない。ほかの地図もいくつか確認したがこの線はあいまいに描かれている。

そして青で囲まれたポイントが番外地。

よってこの場所には二つの謎が存在することになる。


河原番外地の謎

謎1 なぜこの場所は河原番外地という名前になったのか。
謎2 この場所は千葉県なのか、東京都なのか。

 

とりあえず現場へ。

正月の江戸川。

 

まったく人がいない。そりゃそうだ。ただでさえ帰省中の人が多く人が減っている都内、寒い冬に河川敷に用のある人なんてそうはいないのだ。たった一人の例外、すなわち僕をのぞいては。

暖かい家で『みかんの皮はどこまで細長くつなげることができるか』というコネタでもやっておけばよかったかも、と思いもしたが、ここまで来たからには番外地を拝んでおきたい。

 

あれが番外地だ!

 

対岸から番外地と呼ばれる場所を撮影。川の中にある中州の一部を『河原番外地』と呼ぶらしいのだ。

うーん、確かに番外地っぽい。ていうか何もないではないか。

 

『河原番外地』にあったもの


グラウンド
河原と空き地

『河原番外地にあったもの』(2006・デイリーポータルZ調べ)

一、野球のグラウンド場
二、空き地
三、川
四、国土交通省江戸川河川事務所・江戸川河口出張所

以上である。野球のグラウンド場では野球を楽しむ人も居た。少なくても番外地は人が寄りつかないような僻地ではなく、れっきとした市民の憩いの場所であるようだ。しかし、あの野球少年たちはおそらく自分が今番外地にいることは知らないだろう。
「君たちのいる場所、番外地なんだぜ」と話しかけに行こうかと思ったが、完全に理解不能なうえなんだか変質者っぽいのでやめた。

そしてこの場所に唯一『国土交通省江戸川河川事務所・江戸川河口出張所』という建物があった。この建物内の人ならこの地域がなぜ番外地と呼ばれるようになったのか、そのことを知っているのではないだろうか。お邪魔してみることにした。


国交省江戸川河川事務所 江戸川河口出張所
中でおはなしをうかがうことにした。

 

所長にこの番外地という住所の経緯をうかがいました。

梅田「急にすみません。最初にお聞きしたいのですがここはどこですか?」

所長「ここは東京都江戸川区東篠崎ですよ」

梅田「あれ!? “河原番外地”ではないのですか?」

所長「表にあるグラウンドは市川市河原番外地なんですが、この建物は東京都江戸川区東篠崎なんです。ほら、この地図にも記載されていますよ」

と言って見せてくれた地図には確かにこの建物の住所が江戸川区東篠崎と記載されていた。しかし僕の持っている地図ではこの場所は市川市河原番外地と記載されている。不思議だ。

所長「実はこのあたりは千葉県と東京都の境目が錯綜している場所でして、東京都江戸川区東篠崎と、千葉県市川市河原番外地の境目があいまいなんですよ。」

なぜこんなことになってしまったのか。それはなんと今から100年前、1919年にさかのぼると言う。非常にややこしい話なのだが順を追って説明させていただきたい。

 

全国2000万人の飛び地、錯綜地ファン必見! これが飛び地、錯綜地のできるまでだ。

1.100年前まではこのあたりは川の西側が東京都、東側が千葉県と分かりやすい境界が決まっていた

 

2.江戸川は大雨になると氾濫を起こし下流に住む人々はよく水害にあった。何とか水害を防ぎたかった当時の人々は江戸川の流れを人工的に変えることにした。
これにより江戸川はその本流を従来より右側に移し、従来までの江戸川は旧江戸川と呼ばれるようになった。
しかしこの工事のときに川の流れを少し変えたおかげで、川の流れと従来の境界線がずれてしまった。
これにより、図の緑で塗りつぶした場所は川を挟んで東京都の飛び地という分かりづらい境界線になった。

 

3.しかし、千葉県側は川の流れが変わったら境界線も変わるだろうと境界線の変更を主張。従来の境界線を主張する東京都と折り合いがつかず、結局中州の突端に、東京なのか千葉なのかよく分からない土地が生まれた、千葉県市川市はここを『河原番外地』と名付けた。

 

4.現在ではこの場所に、東京都に所属する建物、『国土交通省江戸川河口出張所』と、千葉県に所属する野球グラウンドができ、境界線はますます混迷を極めることになった。

 

そんな経緯でこの辺りには錯綜地が生まれ、番外地と名付けられたわけだ。

最後に見せてもらった上空からの写真を。


上空写真。

錯綜地は不法投棄の温床になりやすいらしく注意書きの看板がたくさんありました。

所長は『江戸川の流れを変えたときは水害を押さえるのに必死で、はっきりいってどこまでが千葉でどこまでが東京かなんて考えてなかったんじゃないですかね』
とおっしゃっていた。確かに。
しかし以前野球グラウンドで火事があったとき、東京側の消防署か千葉側の消防車かどちらが出動するかでもめたようだ。

地図を見ているとその地域の歴史の一端が見えるようで楽しい。

ちょっとややこしい説明が多かったような気もするけどまあいいか。地図好きの僕にとっては地図上の飛び地や錯綜地がなぜできるかが分かっただけで実りのある取材だったから。


 

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