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群がる金魚たち。趣味は交尾です |
友人の伊藤さん宅におじゃまするたびに、
「うちの金魚は人の表情がわかるのです」
と、毎回毎回自慢されるのですが、あまり本気にしていませんでした。
だってそうでしょう。
それでなくても、ザリガニが脱走したことを「天才的なジャンプ力でどこかへ消えた」と言い、ハムスターがどこかへ逃げたことを「夫婦ゲンカして家出したがいつ戻ってきてもいいようにドアを開けてある」あるいは「クワガタの一匹が私に気があるようだ。でもどれだったか今はわからないので教えられない」などと真顔で聞かされる身にもなって下さい。
ある日の夕飯時、伊藤さんが子どもたちを叱りながら水槽の横を通りすぎた瞬間でした。
「アレ?」
わらわらと泳ぐ金魚たちが、伊藤さんを避けるように進行方向を変えた気がしたのです。
「アレ?今の、なんだ?」
たしかに奇抜なことを言いはしますが、伊藤さんは根本的にウソのつけない人間だということを思い出しました。
(text by 土屋 遊) |