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コネタ


コネタ1094
 
自転車をこぎ続けて

 自転車操業、という言葉がある。

 操業を停止するとそのまま倒産してしまう恐れがある企業のありかたを、こぐのをやめると倒れてしまう自転車に例えたものだ。

 しかし、「こぐのをやめると倒れる」という部分がどうも引っかかる。おそらく自転車に乗っていてこぐのをやめたら倒れた、なんていう人はいないのではないだろうか。何故なら足をつけばいいからだ。

 だから、足をつかずに自転車をこぎ続けたらどうなるか、試してみた。

(text by 藤原 浩一

足をつかないとはどういうことか

 足をつかないとはどういうことか。言うまでもなく自転車はスピードが無くなると倒れてしまう乗り物だ。そして倒れそうになると足をつかなければならない。つまり、要は止まらなければいいのだ。

 止まらないと、どうなるか。

 そういうことがやってみたくなる大学生の春休みである。ま、とりあえず走り出しましょう。愛車「第三スレイプニール丸」に乗って出発進行!


んでは、いくぞー。


赤信号で止まってはいけない。
  そんなこんなで「出発進行」とこぎ始めてからおよそ30秒後、いきなり現れた頻出にして最大の敵。 それは赤信号。

 道路を走っている限り、赤信号という関門を避けて通ることは不可能に近い。自転車に乗り地面に足をつけずにこぎ続けるということは、つまり、赤信号でも止まらないということなのだ。

 赤信号が支配する交通ルール、そこでは単純に「曲がって進む」という選択肢以外は残されていない。というわけで、曲がる。人や車がいない頼りない感じの道でも仕方が無いから、曲がる。

本来行きたかった道から、
遠ざかっていかざるを得ない。

で、道に迷う

 最初のうちは「とりあえず大宮駅(さいたま市)くらいまでは行くか」などと思っていた。出発地点からおよそ15キロの場所だ。

 しかし、信号で赤に引っかかるたびに行きたくもない方向に曲がらなければならないわけだ。よって、なんだか細かい道に入ったりして、どの方向へ行けばいいのかが分からなくなった。足をついて止まることはできないので、走り続けなくてはならない。

 で、迷った。でも止まれない。いわゆる「迷走」と呼ばれるやつだ。

 仕方が無いので、もう目的地がどうとか考えるのはやめて、ただひたすら迷走を楽しむことにした。人間こういう適応が大切だと思う。


やれやれ。それで、ここはいったいどこなんだい?

  それにしても、自転車はなんて素晴らしい乗り物なんだろうか(早速楽しみ始めました)。流れ行く景色は、電車や自動車と比べて自然で、街の空気に触れるには最適な乗り物だと思う。

 そして、目的地を設定せずにただ走ること自体を楽しむと、より辺りの景色にも注意が払えるようになる。

 

犬。

  素敵だ。

 

グルポー。

 ああ、素敵だ、自転車。

 世界が輝いて見えるよ…。あはは…。

 おや、アレは・・・。



カップル・・・?

 なんだか楽しそうに話していた。多分大学生だ。

 彼らはきっと「恋人なし、友達なし、目標なしのプロレタリア大学生は家にこもってればいいのにね、あはは」というような話をしているのだ。そのように感じられた。いや、そう違いない。

 いたたまれなくなりカップルの近くを力の限り走り抜けた。僕は一体何をしているのだろうか(総合的な意味で)。


またカップル。

 一難去ってまた一難。再びカップルに出会った。今度はテニスラケットを持っているから、さっきのより強いヤツだ。怖い。見るだけでぞくぞくしてくる。

 どのように怖いかというと、彼氏持ちの女子はモテない人に優しいのだ。

 僕が考えるに、彼氏がいない女子がモテない男に優しくすると余計な勘違いが始まって面倒なところを、彼氏がいると「彼氏アリ」というパラメータがバリアーとなってそういう勘違いも始まらないし、アドバイスをするフリをしながらモテない人たちを嘲笑し、また自分達の幸福を感じ取っているのだ。怖い。

 「藤原クンきっと彼女できるよー」とかいう台詞を聞くと、じゃあお前は俺の彼女になれるのかよ、と思う。「藤原くんかっこいい」とさえ言ってくる女子もいた、もちろん彼氏がいた。このー。そして心に誓った、彼氏アリの女の言うことには1bitも耳を貸してはならない、と。だいたい、春休みに自転車で迷走しているヤツがかっこいいはずがないだろ。もうほっといてくれ。いや、ほっとかないで。

 

 見知らぬカップル相手にやきもきしていると、ここで大変なことが起きた。トイレに行きたくなってきたのだ。確かに自転車をこぐ動作というのは、腸にイイ感じの刺激を与えるように思える。大変だ。海と空の狭間からやってきた強大な“ヤツ”が、音も無く突然飛来した。見えない敵の登場に、括約筋が大活躍している。

こういうときこそ、平常心だ。

  結局、目に入った牛丼屋に駆け込んだ。その際、自転車が止まったとか地面に足が付いたとかいうような雑念は、最優先されるべき事項の障害にしかならないとされ、考えもしなかった。 何より大事なのは人間の尊厳である。

 走り始めて2時間弱、道のりにして30数キロの出来事であった。

まとめ:一番迷走したのはこのコネタ自体

 自転車で止まらずに走り続けること自体は、体調に変化が無ければ全く問題無いが、赤信号など障害に対してうまく対処できないために、思った方向や目的地に行くことを考えると大変苦労することが分かった。

 これはまるで人生のようではないか。

 人間生きている限り、生きているということに関して止まることはできない。止まらず走り続けなくてはならないから、思った方向にいけず迷走する…。自転車と人生にはこんな密接な関係があったのだ。

 とかなんとか、分かったようでまるで分かってないまとめ。今回はどう見ても迷走していました。本当にごめんなさい。


 

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