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1月のテーマ:涙


はっけんの水曜日
卒業写真



●座り込めば馴染めるのでは…

中継が長引きそうだったので講堂を出た。
ホールでは卒業生たちがいくつかのグループを作って、それぞれ楽しそうに盛り上がっていた。
僕と林さんはそのパワーを前にしばし呆然とする。
「自分で言っちゃうのも何ですけど、明らかに僕たちとは違いますねえ」
「あの若さは本物ですね」

卒業生たちも僕たちも同じスーツ姿なのにどこか違う。
彼らはどこから見ても学生で、僕たちは明らかに出入りの業者さんだ。

「だって、みんなスーツのまま地べたに座ってますよ」
林さんが半ば呆れた口調で言う。
「それですよ!林さん。僕たちも地べたに座ればいいんですよ」

早速地べたに座って写真撮影。
「携帯をいじったりすると更にそれっぽいかも」
林さんのナイスアドバイスで地べたに座って携帯をいじる。
「じゃあ、写して下さい」
お互いにポーズを決め、カメラを向けあった。


写真

写真

撮影後、デジカメでプレビューしてみる。
「……」
2人とも言葉がない。
どうひいき目に見ても業者臭はぬぐえない。社会に出て10年。僕たちの体には社会のしがらみがこびりついてしまっているのか?もう後戻りは出来ないと言うのか?

 

●さり気なく学生に混じってみる

「ここであきらめたら負けです」
周りを見渡し馴染めそうな学生の姿を探す。
ベンチに向き合って座りながらお弁当を食べている学生を発見。
「あ、僕、あそこに行きますからカメラお願いします」
彼らの背後にまわり、さり気なくポーズを決める。

「どうですか?」
と笑顔で聞くが林さんの顔は曇っている。


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新入社員の輪の中に入りたくても入れない気の弱い上司。勤続10年、真面目だけが取り柄でやって来たが若い才能に押され気味の毎日。彼らと仲良くなって自分も若返りたい。でも、どうやって声をかけたらいいのか分らない。声をかけた所で会話を続ける自信もない……。

「じゃあ、あそこに座りますから」
お弁当を食べている学生たちから少し離れ、窓辺に腰掛ける。


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リストラされた事を家族に言えず、とりあえずスーツを着て家を出る毎日。公園で鳩にエサをあげるのが日課。最近娘が一緒にお風呂に入ってくれなくなった。

「室内だからいけないんじゃないですかね」

外に出て卒業生たちと混じる事にした。




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