間違えた男
電車がある駅で止まったとき、ドアの前にひとりの男が立っていた。
酔っぱらっている。見たところ30歳前後。いわゆるサラリーマンの着る、ベージュ色のコートを着ていた。眼鏡、黒いカバン。
飲み過ぎたのか、フラフラしていた。
彼は開かれたドアの前で
「?」
という顔をしていた。数秒とまどっていた。
「なぜ女ばっかりなんだろう………たんなる偶然かなあ………そんな偶然あるかなあ」
そんなふうに悩んでいたのかもしれない。
ドア付近の女性たちも、彼をじっと見つめていた。
「この人、女性専用だって分かってない……は、入ってくるなあっ」という顔。
しかし彼はフラフラッと乗ってしまった。
女性たちはいっせいに「ウッ」という顔をした。
発車直前、気がついた警備員がホームからタタタタッと走ってきた。
「あ、ここ女性専用なんですよー!」
彼はサラリーマンの腕をグイッとつかんだ。
「ん、んー?」
閉まるドアー。ホームに取り残されたサラリーマン。ほっとした顔の女性たち。
プシュー、電車は発車した。
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