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はっけんの水曜日
 
初恋と座間のヒマワリ

つぼみ。なんだか、歯をくいしばってる人の顔みたいに見えます。

開いた花には、ミツバチが来てました。確かヒマワリのハチミツって、光り輝くような色なんですよね(ハチミツ専門店『ラベイユ』で試食したことがあるような)


後ろから。横から。  

……ひとりで、ひまわりをじっと見ていたら、「キレイ、カワイイ」というよりも「気持ち悪い」という感情が、わき上がってきた。

花の高さが、思ったよりも低かったせいかもしれない。映画『ひまわり』に出てくるような、自分の身長以上の花を想像していたのだけれど、ここに植えられている種類は、せいぜい小学4、5年生のくらいの大きさだった。

花いっこいっこの存在感が大きいので、人間みたいだ。だから、コドモがすっくと、立ちあがってこっちを見てるみたいに見えた。



ひまわりの背中を見ながら、10年前を思い出す。
初恋の彼とは、生まれて初めてのお付き合いのようなものをした。でも、「彼女」にはしてもらえなかった。人に「彼女です」と紹介してもらえない、というヤツだ。
そのうち、彼は本命の、素直で可愛らしい年下の美少女をいとめて「彼女」とした。それでも私は諦めきれず、彼の秘密の2号さんとなった。
夏休みのサークルの集まりなんかに、彼らが皆の前で自転車二人乗りで現れたりするたびに、私の胸はムギューと痛んだ。韓国ドラマばりに、ひとり泣きながら道に倒れ込んだこともある。
それは卒業まぎわまで続いた。

彼と、とある企業の就職試験で一緒になったことがあった。彼は「難しくてわかんないや、諦める」と言って途中退出したのだが、彼はその試験に受かり、私は落ちた。
同学歴同年齢だったので、私が落ちるなら、試験放棄した彼も落ちるはずだった。「あーこれが差別ってやつなのか……」と初体験したのも、彼のおかげであった。

「なんで私じゃ駄目なのか、女として生きるってどういうことなのか、女としての才能がないと駄目なのか……」というのを、いつも考えていた。
今思えば「そんな面倒くさい女、そりゃ嫌だよなー」とは思う。

風の噂によれば、彼は大企業にあっさり就職して、結婚して、今年子供が生まれたらしい。
私は就職出来ず、今もプーのような生活をしている。

ついでに言うと今まで、お付き合いした人の故郷に連れて行ってもらったことは1回もない。


ああ、ひまわり。
ひまわり、コワイ。
でもキレイ。
でもやっぱりコワイ。
……彼も、この夏、このひまわりを、見たんだろうか?

 

しばらくポケーっと見ていたが、花のパワーに圧倒されてぐったり疲れてしまったので、帰ることにした。

戻る道で『ブックオフ』を見つけて、「こういう郊外の『ブックオフ』って掘り出し物が多いんだよね! キャー!」なんて喜んで100円コーナーに夢中になって、本をかかえてお金を払っていたら、知らない間にどしゃぶりの雨が降っていた。
急いで近くにあった、スーパー『ユニー』に入る。中にあったモスバーガーでエビバーガーを注文して、本を読みながらゆっくりゆっくり食べたが、雨はやまない。

とりあえず傘を買おうと、2階にある売り場まで行った。好みの色形のものが1本もなかった。妥協して、ピンク色の長傘を買った。

『ユニー』で「駅までどう行ったらいいんですかね?」と人にきくのが、なんとなく恥ずかしくて、町内地図を探すためにむやみに歩いた。どしゃぶりすぎて、誰も道を歩いていなかった。サンダルもジーンズも全部濡れた。

駅についたとき、身体はすっかり冷えきっていた。




ベンチで電車を待ちながら、「もう、この町には二度と来ないかもしれないなあ。彼と一生、逢う機会がないのと同じだな」と思ったら、気が楽になった。

『ブックオフ』で買った本を読んで、急行に乗り換えず、各駅停車のまま新宿まで座った。新宿駅構内の『ベルグ』という店で、おいしいドイツソーセージと生ビールをひっかけてから帰った。
大人になってよかったな、と思った。


ちなみに座間市の下水道フタは、やっぱりヒマワリでした。

 

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