……思いっきり民家、の横に、小さな店があった。
中をのぞくと、誰もいない。
どうしよう、と思っていたら、すぐに家の中から「いま、行きますからねー」と声をかけられた。
「……あ、イモフライ1本と、このイカフライっていうのも1本」
「はい」
油を火であたためる。冷蔵庫から、衣のついた串を出す。
それから湯のみ茶わんに、冷たいお茶を入れて「ハイ、どうぞ」と、渡してくれた。
じゅじゅー。油の中に落ちて行いく串。
黙って、串が揚がるのを待つ。
「……あのう、やっぱりいもフライって、学生とかがよく食べに来るんですか?」
「あ、いやあ、あんまり学生さんは来ないねえ」
「じゃあ、地元の方が、お惣菜みたいに買っていくとか……」
「いや、遠くから来るお客さんのほうが多いですよ」
「観光客とかですか」
「そうですねえ。たまにねえ、近所の女子高から、イベントとかあると、大量注文受けたりは、するけどねえ」
「あ、そうなんですか……」
なんか意外だ。ローカルフードじゃないのか? 観光客向けになってるのか? 確かに「いもフライマップ」は充実していて、「いもフライ」攻略のみに1日を費やしても、楽しそうではある。しかし……。
じゅじゅー。まだ揚がらない。
ボーッとお茶を飲む。
女性は、さえバシを持って、アブラの前でじっと立っている。
この女性、客商売慣れしてる感じじゃないよなあ……喋るの苦手なのかなあ、私も苦手なタイプだから、べつに沈黙とか平気だけどさ……とか思っているうちに、串は揚がった。
ソースをつけて、ビニール袋に入れてくれた。
「イモが50円でイカが80円、130円です」
「はい」
やすい。180円のために、わざわざ油に火を入れて、時間をかけてもらったんだと思うと、すこし申し訳なくなった。
空の雲行きがあやしくなってきた。
雨が降る前に厄よけに行こう、境内にはどっか休める場所がありそうだし、そこでこのフライを食べよう、と、チャリを走らせた。 |