デイリーポータルZロゴ
このサイトについて

特集


はっけんの水曜日
 
耳うどん紀行

実はレンタチャリの女性に、「いもフライ屋情報」についても聞き込んでいた。
「耳うどん屋さんの横、タクシーがいっぱい止まってるとことのを入って、ずーっとまっっすぐ行くと、ありますよう」
……こんなアバウトな道案内で辿りつけるかなあ、と思いながら自転車をこぐ。
右手に女子高と小学校が見えてきた。あ、学校があるなら、「いもフライ」屋もありそうだ、と思ったら……黄色い看板が見えてきた。


奥でぼんやり座っている女性に、声をかける。
「すいません、1本……」
「はいー」



厨房の油に火を入れてなかったようで、既に揚げてあるものに、ちゃぷんとソースを漬けて、渡された。



名物、いもフライ。70円。
揚げたてじゃないけど、ほんのりとあったかかった。
……む、うまい。ころもが厚いところがいい。そしてソース、ソースの味!
これはコーラと合うな、と思って、店横にあった自販機で買った。

店に「いもフライマップ」が置いてあったので、もらって食べながら眺める。もう1軒、そばにあるようだったので、チャリ移動。



……思いっきり民家、の横に、小さな店があった。
中をのぞくと、誰もいない。
どうしよう、と思っていたら、すぐに家の中から「いま、行きますからねー」と声をかけられた。

「……あ、イモフライ1本と、このイカフライっていうのも1本」
「はい」

油を火であたためる。冷蔵庫から、衣のついた串を出す。
それから湯のみ茶わんに、冷たいお茶を入れて「ハイ、どうぞ」と、渡してくれた。

じゅじゅー。油の中に落ちて行いく串。

黙って、串が揚がるのを待つ。

「……あのう、やっぱりいもフライって、学生とかがよく食べに来るんですか?」
「あ、いやあ、あんまり学生さんは来ないねえ」
「じゃあ、地元の方が、お惣菜みたいに買っていくとか……」
「いや、遠くから来るお客さんのほうが多いですよ」
「観光客とかですか」
「そうですねえ。たまにねえ、近所の女子高から、イベントとかあると、大量注文受けたりは、するけどねえ」
「あ、そうなんですか……」

なんか意外だ。ローカルフードじゃないのか? 観光客向けになってるのか? 確かに「いもフライマップ」は充実していて、「いもフライ」攻略のみに1日を費やしても、楽しそうではある。しかし……。

じゅじゅー。まだ揚がらない。

ボーッとお茶を飲む。

女性は、さえバシを持って、アブラの前でじっと立っている。

この女性、客商売慣れしてる感じじゃないよなあ……喋るの苦手なのかなあ、私も苦手なタイプだから、べつに沈黙とか平気だけどさ……とか思っているうちに、串は揚がった。
ソースをつけて、ビニール袋に入れてくれた。

「イモが50円でイカが80円、130円です」
「はい」

やすい。180円のために、わざわざ油に火を入れて、時間をかけてもらったんだと思うと、すこし申し訳なくなった。

空の雲行きがあやしくなってきた。
雨が降る前に厄よけに行こう、境内にはどっか休める場所がありそうだし、そこでこのフライを食べよう、と、チャリを走らせた。



 

▲トップに戻る 特集記事いちらんへ
 
 



個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.