ぜんぜんこわくなかった
うろこはすでにあらかたとってあったので、もうザクザクいってしまおう。ハラは決まった。一番ふくよかそうな1匹を取り上げ、これを外側とする。
なんだ。簡単だ。もっとこう、指でおそるおそるつまみながらの作業になるかと思っていたが、まったく平気だ。平気な上、魚を握っていると何か安心感さえ感じるのはなぜだ。
犬のおなかをなでているときの心持ちがする。犬といわしって何か共通点あったか?
内臓がいっしょくたになってお腹から引き出されるのを見ていると、生き物のしくみが実感せられる。もうごちゃごちゃになっているが、ちゃんといろいろな器官があったんだなとか、反面なんと簡単に分解できるんだろう、とか。丸大ハンバーグのCMに出てきた森の巨人から見れば(古い)人間も同じように見えるんだろうな、とか。
ふつうの開きと違い、ここでは頭を落とさないことにしているので、頭の中の贓物が出にくくて困る。食べるとき頭の中からズルズルッと何かくっついてきたら。そんなことはないと思うが、ちょっといやだ。
最後、皮をできるだけ傷つけないようにして身をかき出すのが難儀でしょうがない。中国の料理人もここが正念場だろうと勝手に想像し同情する。
うなぎの皮でできたカバンがあるが、あれもそうとう難儀だろう。長いし。途中でぶん投げたくなるに違いない。