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はっけんの水曜日
 
今年はドングリをモンブランに!


パーン

「うきゃーーーーー」
「何、何、いまの音!?」
「は、は、破裂したあ! ドングリ破裂した! 火、止める」

パーン

「きゃー」
「火、止めたのに破裂してるううう」
「これ、通報されないかな!? 近所の人に」
「それくらいの威力はある音だね」
「ちょっと冷めるの待とう……」

パーン

「ぎゃーーー」

……というようなトラブルもあったが、2時間ほどで、どんぶり1杯分、無事むけた。



ひと粒、食べてみる。

「……美味しいじゃない」
「ほんのり甘いかな、栗の10分の1以下くらいの甘さだけど」
「っていうか、ギンナン、くらいの味ね」
「でも食べ物としての違和感はないね」
「去年食べたマテバシイは、『これは食べモノジャ、アリマセーン ホントウノ緊急時ニハ、食ベテミテモ、イイカモシレマセーン』って味したけど」
「なんでカタコトになるの?」
「いや、なんとなく……」
「で、これをこれからどうするの?」
「いや、どうすればいいんだろう」
「…………」
「…………」
「……煮るか!」


なべにかける。とりあえず20分。


「あ、結構柔らかくなった」
「これをこしていけばいいのか」
「でもこれも、結構力仕事だよ」
「……時間かかりそうだよねえ」
「そうね……」
「…………」
「…………」

作業するうち、二人とも黙ってしまった。
暗い話すら出来ない。気力と体力の勝負。
2時間ほどかかっただろうか。



「……こんなもんだろう!」
「いえーい!」
「じゃあ、用意しておいた生クリームとラム酒を」


「入れて混ぜて、と」


「これ、タルトの台とクリームしぼり出し、東急ハンズで買ってきたー」


「よっしゃ、じゃあその上にしぼり出そう!」

「……おおおお、モンブランぽい?」
「ぽいぽい!」


「けっこういいじゃん! さ、どんどん作ろう」
「……あ、しぼり出し袋、先っぽが詰まったよ」
「……げ」
「洗うか」
じゃばじゃば
「……再度チャレンジ……って、あれ、また詰まった」
「また洗うか」
じゃばじゃば
「……再々度チャレンジ……って、あれ、また詰まった」
「……ああ、うきいいいい、ケチらずモンブラン専用の口金買えば良かった!」
「そんなのあるの?」
「なんか、穴が4つ開いてるんだよね」
「へー」
「いいやもう、スプーンで盛ってしまえ!」



……で、こういう仕上がりとなった。

食べながら反省会をする。

「……うん、美味しいよ。ちょっと粒子粗いけど、まあ普通にモンブラン」
「ちょっとジャンクなモンブランね」
「あのー、レベルで言うと、あのコーヒーの安い店……」
「ドトール?」
「いや」
「カフェ・ド・クリエ? エクセルシオール?」
「いや、なんか暗めの赤い内装の……」
「タリーズ?」
「いや、コーヒー一杯180円の……」
「シャノアール?」
「いや……」
「ベローチェ?」
「そう、ベローチェ! このB級感がそこはかとなく漂う味はベローチェのケーキっぽい!」
「薄いコーヒーにも合う!」
「そうそう」
「……しかしドングリ、もっと柔らかく煮ればよかったね」
「固かったもんね。もしくはフードプロセッサーを使う、とか」
「炒るのも、トロ火で長くやったほうが、皮がコゲてやわらかくなって、むきやすかったね」
「ま、爆発もするけどね」
「……でも、こういう知識を知ったところで、来年はやらないけどね」
「やらないだろうねえ」
「まあ、いつかこの知識も、役に立つかもしれないし」
「立つかねえ」
「…………」
「…………」

無駄な達成感にひたりながら、コーヒーを飲んだ。

残ったモンブランの半分を、「彼氏に食べさして!」と、無理矢理彼女に持たせた。あとの半分は、今、冷凍庫にある。
……誰か食べます?



 

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