ソウルでタクシー運転手さんの行きつけに連れてってもらう訳だが、いかんせん言葉がまったく分からない。現地の知り合いに通訳をお願いする事にした。ソウル市内のソンギュンガン大学に通う青木さんだ。青木さんは最近までデイリーポータルZ公認和食処の「京菜」で働いていたのだが、この9月から語学留学でソウルに住んでいる(最近の京菜でのトピックスは、「究極のハンバーグを食べよう」をご参照ください)。
まずは朝ご飯、おいしいお粥をお願いします
日曜日の午前9時。ソウルの朝は東京よりもずっと冷える。空気が乾燥しているのだろう、目がしばしばする。明洞地区のホテルに部屋をとっていたので、その周辺からまず1台目のタクシーを拾うことにした。
ソウルのタクシーには一般タクシーと模範タクシーの2種類あって、それぞれ初乗り料金が違う。一般タクシーが1600ウォン(160円)で、模範タクシーは4000ウォン(400円)。日本と比べると随分安い。一般タクシーに至っては、東京メトロの初乗り料金でタクシーに乗れてしまう。まさにソウルは、今回の企画にうってつけの都市といえる。
黒い車が模範タクシーで、それ以外が一般タクシー。町中を流しているのはほとんどが一般タクシーなので、一般タクシーを拾った。
「運転手さんが良く行く朝粥屋に連れてって」
青木さんが韓国語で交渉する。運転手さんとしばらくのやりとりを経て、車はゆっくりと動き出す。
っていうか、こっちに来てから2ヵ月でそんなにペラペラになれるの?
「まさか!数年前に1年間留学してたんですよ、ソウルに」
「なあんだ、全然知らなかった。だって京菜でしゃべってなかったし」
「だって、京菜で韓国語しゃべる機会なんてないじゃないですか」
「そりゃそうだ」
そんな会話をしているうち、あっという間に目的地に到着した。タクシーの料金は初乗りの1600ウォンのまま。案内されたのは、チュンムロ地区にある「松竹」というお粥専門店だった。こじんまりとした店構えが、いかにも隠れた名店っぽい。
スモーク張りのガラス扉を押して店内へ。ほぼ満席状態だったが、ちょうど食べ終わった客がいて僕たちはそこへ通された。
「やっぱり運転手の行きつけは違うね、青木さん。日本人なんて俺たちだけじゃない」
日曜日の朝から現地の人たちでこれだけ賑わっているのだ。いいお店に違いない。
「これはあれだね、ガイドブックには絶対載ってない店だね」
興奮している僕をなだめる様に青木さんが小声で言う。
「いや、ここにいるの全員日本人ですよ。それぞれガイドの韓国人がついてますけど」
えっ?そうなの?
「ええ、服そうとかで分ります。もしかしたらガイドブックとかに載りまくってる店なんじゃないですかね」
どうやら、この企画の意図が運転手さんにちゃんと伝わっていなかったようだ。気を利かせて観光客用のお店に連れて来てくれたらしい。
そこからは、2人とも無言でお粥を食べた。
アワビ粥8000ウォン。観光客用の値段だ、と青木さんは言っていた。それでも、充分おいしかったのでとりあえずは満足なのだが、次はタクシーの運転手さんならではなチョイスを期待したい。
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