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特集


ちしきの金曜日
 
11月、水タンク、秋。
水タンクとエメラルドグリーンの海。なぜこれで「秋」なのか、それは読めば分かる。

いきなり90年代のサブカルコミックみたいなタイトルで申し訳ない。

なぜこんなタイトルになってしまったのか。

それは、今回みなさんに「水タンク」の造形の魅力をご紹介しようと思っていたら、取材の過程で「自分の中に潜む秋」を発見してしまったからだ。

水タンクでメランコリック。

のっけから意味のわからない文章だが、まあ、最終的には水タンクの形って素敵、という結論になるので安心して欲しい。どんな安心だそれは。

(text by 大山 顕

さて以前「給水塔を鑑賞する」という文章を書いたが、建物に水を供給するためのしくみは給水塔だけではない。団地など大きな規模の住宅群にたいして一つの事業者による開発の場合は、給水塔というワイルド&ハニーな方策もとれるが、通常のビルディングの場合は屋上に水のタンクを置くことで水の位置エネルギーを獲得している。

この水タンク・高架水槽。給水塔にくらべ独立した構造物として見えにくいので一部の熱狂的なファンを除いては注目する人も少ないが、丹念に見ていくと意外とキュートだったりする。いわゆるあれだ。ツンデレだ。ちがうか。

ということで、東京近郊のビルの上の水タンクをそのフォルムで分類して見ていこう。

 

■直方体タイプ


まずは一見面白味のない四角い水タンク。一見面白味はないが、よく見るとやっぱり面白味はないので注意したい。


実直な箱形の水タンク。水タンクファンでもこれが好きって人は少ないようだ。なぜそんなものを最初に紹介してしまうのか。それがぼくの記事の限界なのだと思う。

水タンク鑑賞の素人さんにはなかなかとっつきにくいフォルムと雰囲気の作品達だ。これを「なかなかいいね」なんて言えるようになったら一人前だ。何年か前に会社でとある部長さんに「ビールを良いタイミングで注いで回れるようになったら一人前だ」と言われたが、一人前はなればいいってもんじゃないとつくづく思う。

ともあれ、モジュールとしての拡張性や設置工事の簡単さという点ではこの箱形水タンクは抜きんでている。いわば現場型業界向け業務用水タンクといったところだろう。というか、それ以外の水タンクってあるのか、って話ですが。

 

■円筒型タイプ


形、色、ツヤ、などのバリエーションが多いタイプ。なかなかかわいらしい造形をしている。これをみて「ああ、これね」と思った読者も多いのではないか。思って。たのむ。


この円筒形タイプはバリエーションが多く、直方体のタイプと比べると見応えがある。しかしあくまで「直方体のタイプと比べると」というところに比較・選択肢の罠がある。ウンコ味のカレーかカレー味のウンコか、っていうあれだ。

多少自虐的に水タンク鑑賞を語っているが、それは照れ隠し。ときにはマットな仕上げの純白に見とれ、あるときは薄汚れたクリーム色に心奪われる。中級編ではあるが、円筒形タイプは水タンク鑑賞の王道だと思う。

 

■球形タイプ


万人受けする素質のある丸い水タンクたち。彼女とのデートに水タンク鑑賞を選ぶのならまずこのタイプから始めるのが無難だろう。


水タンクと言われてまっさきに思い描くのはこの球形タイプのものではないだろうか。車窓からながめる街並。四角い箱のようなビルの屋上にしばしば顔を覗かせる丸い水タンク。人間のつくる構造物で球形というのはなかなか珍しい。給水塔かガスタンクぐらいではないか。

古来建築家達は完璧な造形としての球にあこがれてきたが、彼らは極東の地に置いて内部にガスとか水道水とかを貯めるものとしてそれが実現しているのを見たらなんと思うだろうか。あるいはお台場のフジテレビ屋舎を見てなんと思うだろうか。

ぼくとしてはお台場に行くぐらいだったら水タンクを鑑賞しろ、とこの場を借りて強く主張したい。

 

■「秋」と水タンク


夕日を受ける水タンクと鉄塔。ぼくはこういうフォトジェニックな写真を撮る人間ではなかったはずだが。


ところで冒頭に申し上げた「図らずも秋を感じてしまった」というのはなんのことなのか。

今回水タンクを撮影収集しに東京近郊をめぐり、後日自宅でその写真を確認していたときはっと気が付いたのが、「なんだかやたら情緒的な写真が多くないか」ということだった。

 

なんだか良い雰囲気の写真になっちゃってる。写真好きの人のブログとかに載ってそう。


エモーショナルな写真にとんと縁がなかったぼくのはずが、今回なんでだかフォトジェニック。日が暮れるのが早い季節なので夕焼けに染まる色合いが多い、というのも影響してはいると思うのだが。

自分の中の思わぬ「秋」にむずがゆい思いを覚えたぼくは思った。この続きは秋じゃないところで撮影しよう、と。

沖縄だ。



 

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