作品であり、会場の一部である??
内沼さんの指さした先には写真左のような何の変哲もない船が泊まっているだけだった。
梅田「あれはただの船じゃないですか?」
内沼「いや、あれ自体がボートピープル・アソシエーションというチームの作品なんですよ。あれは船の中でも艀(はしけ)と言って、かつては港内や河川での運搬を行ってきた小型船です。でも近代化の波に追われ使用価値が薄れてしまった。で、彼らは艀を人の集う空間に生まれ変わらせ価値転換を図ろう、という表現を行っている集団です。」
梅田「へー、艀っていうんですか。何か見ようによっては工作船のようにも見えました、すみません」
内沼「なんて事言うんですか! 怒られますよ。で、普段はああいう形で開放しておき、船の中という日常あまり触れない空間でのくつろぎを楽しむわけです。そして期間によっては中にさらに作品を展示する。そのとき、あの船は作品であると同時に会場でもある。さっそく行ってみましょう」
船に乗り込んでみると中にはソファが置いてあり、中に展示スペースも用意してあった。船の揺れを感じながら作品に触れると、普通に美術館で見るのとはまた違った印象が芽生える。
なるほど。つまりそういう事が作品であり、会場であるという事なのか。作品を展示するための作品。メタ作品だ(知ったかぶり)。現代アートは、説明を聞くより体験したほうが分かった気がするものが多い。(あくまで気がするだけだが)
と、その時、内沼さんが誰かを呼び止めた。
内沼「酒井さんじゃないですか? 何してるんですか?」
どうやら内沼さんの知り合いに偶然遭遇したようだ。
内沼さんの知人の酒井さんはこのボートピープル・アソシエーションの船の中で12月6日からパフォーマンスをやる作家さんだそうだ。今日は簡単な打ち合わせと下見を兼ねここに来ていたらしい。
内沼さんは軽く僕の紹介をしてくれ、取材に来ている旨を告げる。
内沼「酒井さんもヒマだったら一緒に梅田さんと会場をまわりましょうよ。人が多いほうが面白いし」
梅田「あ、え、そうですね、ぜひ」
酒井「じゃあ私もついていく事にします」
あっという間に仲間が一人増え3人で本会場を見学する事になった。
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