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特集


ロマンの木曜日
 
「いらっしゃいませ」を鑑賞する

ぼくの体型は貧弱でまるで男らしくない。なので服の大半、特にズボンはいつも女性ものを買っている。

女性ものを買い始めた当初はお店に入っていくのが恥ずかしかったものだが、いまではすっかり慣れた。試着だって臆せず実行だ。

そんな女性もの買い物ライフをしていると気が付くのが、女性向けの服屋における店員さんが発する「いらっしゃいませ」のイントネーションが独特だということ。「いらっしゃいませ〜へ〜え」という感じのなんとも奇妙な節回しなのだ。文字にしてみてもなかなか伝わりづらいが、女性の皆さんはもちろん、女性と服を買いに行ったことのある男性の多くには分かっていただけると思う。

うるさがたに言わせればこれも充分「日本語の乱れ」の一種なんだと思う。他の業種では見られない独自の進化を遂げた感のあるこの「いらっしゃいませFEMME」(「FEMME」はこじゃれた服屋が「女性向け」の意味でよく使うフランス語)。しかし、嫌いじゃない。

今日も日本中のお店で奏でられている「いらっしゃいませFEMME」を、今回は鑑賞してみよう。

(text by 大山 顕

この奇妙な「いらっしゃいませ」は、上述のようになぜか女性ものの服屋に特徴的で他の業種ではもちろん、同じ服屋であっても男性ものの店員の口から朗じられることはない。ということで今回デパートの婦人服ファッションフロアをめぐり、「いらっしゃいませFEMME」を録音してきた。それをタイプに分類し、鑑賞していこう。こんな感じだ。

きいてみる↓
●平坦+最後に急上昇タイプ●

どうだろうか。この後半におけるダイナミック・ライジングは。前半ことさらに平坦な発音とすることで、最後の上昇っぷりが際だってくる。職人技的メリハリの利いた「いらっしゃいませFEMME」に聞き惚れるばかりだ。なにがどうなったらこういうイントネーションにたどり着くのか。

しかし、イントネーションばかりに気を取られてはいけない。同じぐらい重要なのはこの妙に鼻声な発声だ。鑑賞家の間では鼻声であればあるほど良いとされている。その点でもこの方の「いらっしゃいませ」は高水準である。

これをこのように評価してみる。

 


左のピクトはイントネーションタイプを示しており、真ん中は声の大きさ、前述の鼻声発声の程度、そして全体を通しての音程のアップダウンの3点に関し5段階で評価したもの。この方の場合、鼻声度はもちろんのこと、抑揚も大きい。前半は平坦であったが、後半のダイナミック・ライジングで点を稼いだかっこうだ。

一番右の「+option」は「いらっしゃいませ」に他の言葉が付加されている場合に表示される。上の例では「ご利用ください」がオプションとして付いてきているのでこれに該当する。

まずは同じように最後がライジングするタイプを聞いていこう。

きいてみる↓
●単純上昇タイプNo.01●


 

きいてみる↓
●単純上昇タイプNo.02●

 

きいてみる↓
●単純上昇タイプNo.03●


先ほどの華麗な上昇プレイを聞いた耳では少々物足りない感じではあるが、語尾がキュッとしている。小股が切れ上がった、とはこういうことか。特にNo.3の彼女は手慣れた鼻声発音も魅力的だ。

このライジングするタイプは「いらっしゃいませFEMME」のなかでも最もよく聞かれる形式である。多くの鑑賞家がこのタイプのリスニングをきっかけにこの道に入ってきており、ぼくが鑑賞を始めたきっかけもこのタイプの魅力に気づいたことであった。

特に上昇プレイが光るのが、語尾伸ばしとともに併用されるタイプだ。

きいてみる↓
●伸ばして上昇タイプNo.01●


 

きいてみる↓
●伸ばして上昇タイプNo.02●

 

きいてみる↓
●伸ばして上昇タイプNo.03●


どうだろうか。これも高低差はそれほどでもないが、伸ばされる語尾「せ」の滞空時間の中でじわじわと、微妙に上昇していくさまは爽やかな初夏の高原を吹き渡る風が青い空へと吸い込まれていく光景を思い起こさせる。させませんか。

特にNo.03は最後の「くださいませ」の「せ」にアプローチした時点で音程が上がっており、それで上がりきるかと思いきや、最後の消えゆく余韻の中で清涼感のある上昇っぷりを見せる。すてきだ。 読者置いてけぼりの感がある内容になりつつあるが、かまわず先を続けよう。



 

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