「ホームレスの家」を鑑賞する :: デイリーポータルZ

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土曜ワイド工場

■箱型タイプ

前頁では切妻屋根を持ったDIYハウスをご紹介したが、以下からは箱のような形をしたタイプを見てみよう。

非常にきっちりとした箱型DIYハウス。ディテールの仕上がりを見ても只者ではない風格を感じる

左は今回の取材で出会った一番のきっちりタイプ。全体のソリッドで隙の無い造形美はもちろんのこと、開口部の仕上げや屋根部の折り返しなど細部のこだわりもすばらしい。堅気じゃねえな、という感じがする。

なにより驚くのは、傾斜した立地にあわせ、床が水平になるように右側下部に足がついていることだ。その後調べてわかったことだが、いくつかのDIYハウスには傾斜とは関係なく足がついているものがあり、これは地面に直接接地してしまうことによって、熱が地面へ逃げていかないようにする工夫なのだそうだ。

最初この傾斜地DIYハウスを見たときには、酔狂な、と思ったが上のような理由からこういう立地を選んだのかもしれない。

こちらも何故わざわざこんな場所に、というような立地の箱型物件

左も上のものと同じように建造が困難な場所の箱型DIYハウス。これはもう酔狂としか思えない場所選びだ。

聞けば集落のようになっている場所にDIYハウスを建てる場合には、それなりの「仁義」と「配慮」、「ルール」があるらしく、あいていればどこでもすぐに建てられるというものではないらしい。社会で起こることはホームレスの方々の世界でもまた起こるのだろう。インターネットという仮想社会が一時期よくそういわれたように、人が集まるところはつねに「社会の縮図」なのだ。

だから、そういった都合上建造が困難な場所に建てなければならないことあることは予想できるが、この物件はそうではなく、本当にただの酔狂じゃないかと思う。だって周りにそんなに他のDIYハウスがあったわけでもないし。もう1メートル左によってはいけない理由が何かあるとは思えない。

でも、ぼくが部屋の模様替えとかしてるとこういうことがよく起こる。なんでそんな場所にプリンター？とか。そういった意味でこれも非常にシンパシーを感じる作品だ。

白いDIYハウスはきっしりしている傾向がある事を発見

前頁最初にご紹介したものと同じホワイトDIYハウス。これもまたきっちりしている。奥側の堤防壁面の傾斜に寄りかかるように建てられており、その傾斜と平行になるように手前の壁面もまた斜めに作られている。なかなか小憎いエレガントな造形である。

開口部のディテール処理も見事な出来栄え。なにより屋根を引っ張り押さえている紐が、図らずもDIYハウス前面に豊かな表情を与えている。すてき。

こちらはやっつけ仕事感に好感が持てる箱型DIYハウス

一方左はてきとうな感じの箱型DIYハウス。これまで紹介してきた箱型タイプはみなきっちりしたものばかりだったが、このタイプのものがみなそうかというとそんなことはない。こうやって取り急ぎ感あふれる好作も見られる。

■切妻屋根が必要でない理由

首都高が屋根代わり

前頁の「切妻タイプ」はページ最後で書いたようにすべて上野の公園内のDIYハウスだった。そして、このページでこれまで紹介してきた「箱型タイプ」は隅田川沿いの集落のものだ。

東京で有名なDIYハウスの集合住宅地は、新宿、川崎、多摩川土手、そして上野公園と隅田川土手。今回はそのうち上野公園と隅田川を訪ねた。この2つの場所のDIYハウスはとても対照的だからだ。

隅田川沿いのものが箱型である積極的な理由は後述するが、なぜ雨を流すための切妻屋根でなくてよいのか、という点で言えば、それはここには首都高という大きな屋根があるからだ。

首都高の下に整然と並ぶブルーシートの青。とても不思議な風景だと思う

　
一方、上野のものはそのほとんどが切妻タイプだ。

傾斜の角度・作者の作りこみ具合の差の違いはあれど、基本的に屋根は傾斜するのが、上野方式。ひとつ上の男。

傾斜の角度・作者の作りこみ具合の差の違いはあれど、基本的に屋根は傾斜するのが上野方式

木々が生い茂る上野公園ではあるが、雨が降ればけっこうな水滴が降ってくる。ここでは屋根に水がたまらないようにすることはとても重要なことなのだ。

おそらく家の作り方が伝授されたり模倣されたりして、結果的に同じ集落内では同じタイプの建築造形が見られるようになる、ということもあるだろうが、長い目で見るとやはりその立地・環境に適した建築造形が残っていってそれが広まる、ということだと思う。取材を始める前には思いもしなかったが、建築や様式の原点みたいなものを深く考えさせられることとなった。

次ページでは隅田川沿いではなぜ上野のものに比べコンパクトな箱型タイプが多いのか、について触れます。

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