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特集


ひらめきの月曜日
 
静岡「おでん街」へ行く

若くて美人のママが経営
ここもツユが黒い。一番よく煮込まれていたの は菜箸
もはやダシ粉を見ても驚きません

気さくなお店でした

入店するなりビールを注文すると、お店の方が私の横にある大きな冷蔵庫を指さし「ごめんねー、そこから勝手に取ってくれる?」と言う。

いかにも小さな店特有のシステムに「はいはい」と笑ってこたえる。店の人との距離がグッと縮まるような気がして、こういうやり取りは気持ちがいい。

「おでんは勝手に取っていいんですか?」と聞くと「いいよー。言ってくれれば取るけど好きに取ってー」と気さくなママ。

他の常連さんに「だらー?(でしょう?)」と静岡弁で応対するのを聞いてるだけで楽しい。美人が話す方言って、いいもんですね。

東京からおでんを食べに来たことを話すと「あらー、わざわざ」と驚くと同時に「そういえばこないだも北海道と大阪から来た人がいたわ」と言っていた。「あと九州がいないな、九州が」と、一人ごちるママ。明るくて楽しい人だ。

聞けば2カ月前に開店したばかりだと言う。このおでん街の権利は競争率がかなり高く、店を持とうと思っても、なかなか難しいのだそうだ。

両隣の常連さんに「静岡おでんってのは有名なのか」と聞かれては「有名っていうか珍しいですよね。こんなおでん、他にないです」などと答え、ビールを飲みながらおでんを食べる。

一軒目から、こんなに食べていいのだろうか。

旗のような形の黒はんぺんと牛スジは、どこの店にもありました
食べた串がどんどん溜まる。ここも形が2種類の明朗会計式

居心地の良かったお店だが、トイレに立つのを機に店を後にした。そう、ここはお店の中にトイレはなく、おでん街共通のものが外にあるだけなのだ。

並んで順番を待っていたところ、私の後ろに並んだ女性がこう言った。「まだ店決めてないんだったらウチに寄らない? おいしいよ」


ご不浄は、おでん街の突き当たり

なんと、トイレで店主自らに誘われてしまった。これも何かの縁かと思い、次はその「みなみ」という店に行くことに決定。

もう店選びで迷う必要がないことを思うと、妙に晴れ晴れとした気持ちで用を足すことができた。できたジョー。(これはチビ太ではなくハタ坊か)


26年前に開店したという「みなみ」
それはもう、いい具合に煮込まれております

驚愕のおいしさ。こんなおでん、食べたことない。心の底からウマイ。
隣の丸鍋には、違うダシで作られたおでん。具もそれぞれで全く違います

ここのおでん、ツユは今までと同じく黒いのだが、他にはない特色があった。匂いからして「おや?」と思ったのだが、なんとマグロのアラでダシを取っているのだという。

何も言わずとも、皿におでんが一通り盛られてどーんと出てきた。ああ、正直もうお腹が一杯なんだけど。アラカルトで注文して食べたかったんだけど…。

そんな思いで、あまり気の進まないままに、ひとくち食べて驚いた。

「…なんだこりゃ。ウマイ!」

マグロのダシが、こんなにパンチがあるとは。こんなにおいしいとは。

「このダシはウチだけ。私は昔っからコレ」と店主が自慢気に言うだけある。本当にうまい。腹が一杯なハズなのに、どんどん入る。

こうなれば、隣の丸鍋に煮えたおでんも気になるではないか。聞けば「味噌おでん用」なのだという。それも下さい。どうしても下さい。


上から味噌をかけて。そりゃもう、ホクホクですよ

この味噌おでんが、またべらぼうにウマイ。どんどん入る。特筆すべきは里芋のウマさだろうか。もう、何もかもがウマイ。

 

三倍酢で食べる「しらす餃子」もサッパリして非常においしい
おでん屋の夢を諦められず、運送業から転身したという店主。その選択は正解です!

地元の方に聞く

私とIさん2人だけの店内に、男性三人連れが入ってきた。地元の方のようなのだが、この店に入るのは初めてらしい。

おでんを前にするなり「ダシ粉ある?」と聞いて、お店の方に「うちはそんなマズイもん置かないよ!」と一喝されていた。

言われて気が付いたが、この店にはダシ粉がない。確かに、他の店のおでんには合うダシ粉も、ここの完成されたおでんの味には合わないような気がする。なんたって、マグロのダシが強いのだ。

狭い店では、好むと好まざるとに関わらず、隣の人と会話を交わさざるを得ない。これ幸いにと、疑問に思ったことを聞いてみた。

「静岡では、家で作るおでんにも串は刺さってますか?」
「刺さってないよー」

…笑われておしまいだった。ただ、家のおでんもツユの色が黒いことだけは分かった。黒さの秘密は「わからない」と言われた。

満足です

夜のおでん街だけでなく、昼もおでんを堪能できる街、それが静岡だった。

ひとくちに「静岡おでん」と言っても、最後に行った店のようにダシにこだわった独特のものもある。とりあえず、ツユが黒くて串刺しで、他の地域よりも練り物が充実しているのが静岡おでん、と言っていいだろう。あと「みなみ」の店主は怒るだろうが、ダシ粉も。

大阪の方は東京のおでんを「関東炊き」と言うそうだが、静岡おでんのことは果たして何と呼ぶのだろう。

やっぱり「静岡おでん」か?

帰りのキヨスクにあった静岡おでん

 

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